帰りたい
帰りたい
帰りたい
帰れない

帰りたい
帰りたい
帰りたい
帰れない

帰りたい
帰りたい
帰りたい
帰れない

ぬるい
あつい
異国の大地に
私の身体は眠っている

仲間達と共に


心は祖国に
身体は異国に

異国が
憎くも
恨めしくも
なかったけれど

祖国が
好きでも
愛おしくもなかったけれど

こうして二度と戻れなくなると痛切に

戻りたい
戻りたい 戻りたい

戻れない

帰りたい
帰りたい 返りたい

あの頃に


父がいて
母がいて
兄がいて
姉がいて
弟がいて
妹がいて
犬がいて
猫がいて
鳥がいて

友人がいて
淡い恋があって

何もかも
この手にあった頃

暗い世相など知りもせず
ただ
将来だとか
未来だとか
漠然とした明るいものを見詰めていられた
あの頃

普通に
学校に行って
働いて
結婚して
子供が出来て
老いて
死んで

それがさも当然の権利であり義務であるかのように感じていた

それが国の為の働きだと思っていた

けれど
そうではなかった


国の為にこの命を使えること
それが権利

国の為にこの命を使うこと
それが義務


その権利と義務には納得したのだ
国を失くして何が出来よう

だから帰れないことを嘆いても
死んだことを嘆きはしない

ただ、

願わくば、我が命が父母を守っています様に
願わくば、恋したあの人を守っています様に
願わくば、我が国の明日を守っています様に

願わくば、子らが、私の思い描いた未来を生きています様に


作 水鏡透瀏

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