『 後夜祭に参加する生徒は、グラウンドに集合してください 』
放送が聞こえて、校舎にいた生徒たちが動き出す。
ヒトの波に逆らって、私は階段を駆け上がる。その教室を訪れるのは、20日ぶり。
そんなに遠い出来事ではないのに、毎日通っていた分、懐かしく思える。
2回ノックして・・・迷わず、扉を開けた。
「 ここにいると・・・どうして、わかったんだい? 」
「 ・・・後夜祭、この教室が一番見えるんだもの 」
くすっと笑って、窓辺に立っていた・・・竹中くんの隣に、勇気を出して、並ぶ。
そうか・・・と呟いて、竹中くんの表情も苦笑交じりの笑みに変わった。
私が隣に立ったのを拒まず、2人の視線はグラウンドに向けられていた。
窓の外には、後夜祭名物( らしい )キャンプファイヤーを囲む生徒が集まって、
思い思いの時間を過ごしている。
「 さんの、足の具合はその後どうだい? 」
「 え、あ・・・うん、もう大丈夫 」
「 よかった 」
わあっ、と歓声が聞こえる。キャンプファイヤーの火が一段と強くなって、音楽が流れ出した。
彼はさん、と呼ぶと、私を見つめた。穏やかで、真剣な眼差しに射抜かれて・・・言葉を失くす。
端正な顔立ちに見惚れていると、竹中くんの手が伸びた。
「 踊らないか・・・?僕と 」
キャンプファイアーを囲んで、みんなもステップを踏んでいる。
お、踊ったことなんかないから、どうしたらいいのかわからないけれど・・・。
竹中くんの気持ちが嬉しくて、私はその手に、自分のを重ねて・・・頷いた。
彼は、繋いだ手を引き寄せて、上手に私をリードする。社交ダンスに近いステップで、
身体を動かすうちに、何だか楽しくなってきた。だんだん覚えてきて、自分でもステップを踏めるようになってきた。
「 そうそう、その調子。何だ、上手じゃないか 」
「 そ、そうかな・・・え、へへ 」
「 ・・・そのまま、聞いて欲しい・・・君は、僕を赦してくれるだろうか 」
「 え? 」
「 踊ったままで聞いて欲しいんだ 」
一回転して、背中を彼に向ける。とん、とぶつかって竹中くんの胸に飛び込んだ。
「 本当にすまなかった。本意ではなかったといえ、君をたくさん傷つけた 」
「 竹中くんは、悪くない・・・毛利くんから、少しだけ聞いたよ 」
「 ああ。僕も、毛利からさんに話したことは聞いた 」
「 毛利くんって、イイ人だよね 」
「 ・・・そうかな?付き合いが長い分、感覚が麻痺しているのかな、僕は 」
2人で笑い合って、またくるりと一回転する。今度は、竹中くんに向かい合う。
ステップに合わせて、一歩後ずさりしようとした身体を抱き締められた。
彼の銀糸が、私の頬をくすぐる。耳元で、、と優しく呼ばれて・・・口から心臓が飛び出そう、だった・・・。
「 好きだ・・・君が、 」
「 ・・・た、っ・・・ 」
「 君が誰を好きでも構わない。僕は、が好きだ 」
染まったのもわからないくらい、気がつけば髪の毛の先まで赤くなってそうな・・・竹中くんの、告白。
頭がグラグラしてきて、どう応えたらいいのか、わから、ない。竹中くんが、わ、たし・・・を?
わた、し、私、は、好き、なの?誰を、竹中く、ん、を?
固まったままの私を、そっと放して・・・竹中くんはぷっと吹き出す。何て顔、しているんだい、君は。
そう言って、お腹を抱えるくらい彼は笑った。は・・・初めて見た、竹中君が、こんなに・・・笑ってるの。
伝染したかのように、私も次第に笑えてきた。
「 ・・・返事は急がない。君に、伝えたかっただけなんだ 」
ひとしきり笑った後・・・彼はそう言って、窓辺に視線を戻す。
少し照れているのかもしれない。竹中くんの顔はキャンプファイアーに照らされていたけれど、
それ以上に赤くなっているのがわかった。うん、ありがとう・・・と小さく応えて、私もグラウンドを見つめた。
終盤を迎えた後夜祭。たくさんの人、同じ数だけの笑顔。幸せそうな表情。
みんなの笑顔は、竹中くんの努力の結果なんだね。文化祭をそれだけ楽しんでくれた、ってことなんだよね。
こんな、中途半端な私だけど・・・誰かひとりでも『 笑顔 』にすることが、できたかな。
パン、パパ、ン、パン・・・!
ラストを飾る、花火が派手に打ち上げられて、思わず声を上げた。
そんな私の右手を、ぎゅ・・・と握る掌。隣の竹中くんが、満面の笑みを浮かべている。
曇りのない『 笑顔 』・・・ああ、ようやく、もう一度見れた。
・・・嬉しくて、嬉しくて、胸がいっぱいになった。
最後の花火が打ち上げられるまで、私たちは手を繋いだまま・・・夜空を、見ていた。