「 君が、さんか!話は聞いてる、よろしく頼むぞ! 」
差し出された握手に手を伸ばすと、彼は人懐っこい笑顔になった。
彼は、オーナーの前田利家さん。隣で絶やさず笑みを浮かべているのが、奥様のまつさん。
私がどうして彼らのお世話になるのか・・・数日前に、遡る。
その日、私はいつものように、お屋敷の庭を掃いていた。
だんだん枯れ葉の色も落ちてきて・・・見渡せば、樹木は人知れず冬への準備をしているようにも見えた。
海沿いの冬は暖かいと聞くけれど、全国的に季節は同じだもの。
この辺りは雪とか積もるのかなあ・・・と、空を仰いだ時だった。
「 ちゃーん、お掃除終わった? 」
「 はい・・・あ、お仕事なんかあったらやりますよ? 」
「 いンや、そうじゃなくて・・・これから二人でさあ、デートしない? 」
急な佐助さんの提案に『 驚く 』というより・・・首を傾げる。
彼は、縁側の柱に寄りかかって、にやっと笑った。
車に乗ってやってきたのは、いつも食料品を買い込むスーパーではなく、郊外の大型ショッピングモール。
初めてだったので、見上げたまま動かない私の背中を、苦笑した彼が押して中へと促す。
まず連れて行かれたのは、何故かレディースファッションのコーナーだ。
・・・さ、佐助さんに女装のしゅ、趣味、が・・・私、誰にも言わな・・・。
「 こーら、変な想像しないの!いくら俺様でも、傷つくでしょ? 」
「 ・・・前から思ってたんですが佐助さんって、ヒトの心、読めちゃうんですか? 」
「 ちゃんと旦那の場合、自分たちが思ってる以上に感情が顔に出てるよ 」
ちゃんの場合、最初に出逢った時より3割増しでね。
そう言葉を付け足して、佐助さんはクスクスと笑った。
「 冬モノ持ってないでしょ?海沿いとはいえ、風邪を引いたら大変だから 」
「 えっ・・・でも、あの! 」
「 大将から、ちょっと早めのクリスマスプレゼントだって。さ、行こうか! 」
手を引かれて、テナントへと入る。オロオロしている私を鏡の前に立たせると、手際よく洋服を選んでくれた。
ちゃん、どっちの色が好き?なんて、簡単な選択肢を用意してくれる。
こっち!と指せば、鏡の前の私に軽く洋服をあてて、似合うかどうかしばし考え込んで・・・頷いた。
素晴らしいセンスと手際を発揮して、あっという間に買う服が決まっていく。
お会計を済ませて戻ってきた佐助さんの手には、たくさんの紙袋。
走り寄って、私にも持たせてくれとお願いすると、彼は遠慮がちに渡してきた。
「 それじゃ・・・空いた手、繋いで欲しいな 」
優しく囁かれて、私が答える前に右手をそっと握られる。
佐助さんの『 強引さ 』は・・・不思議と、嫌じゃない。
だってすごく計算されていて、少しでも私が嫌がれば振り払える強さで握っている。
いいですよ、という意味で笑えば、彼からも笑顔が返ってきた。
手を繋いで入ったのは、陽射しの差し込むテラスのあるお洒落な喫茶店。
・・・かすがとじゃ、なかなか来れないようなお店だなぁ。
私よりオトナの佐助さんだから、一緒に入る勇気も出るけれど・・・。ちらり、と見上げたのに、気づいたようだ。
「 何だい?俺様ってば、穴が開くほど見つめたい程、オトコ前? 」
「 ちっ、違いますっ!! 」
「 ・・・違うんだ・・・ 」
「 あの、違う、んです!そうじゃなくて・・・!! 」
「 ・・・二度も違うって言われた・・・ 」
落ち込んだハズの佐助さんが、肩を震わせている・・・もう!またからかって!!
注文していた紅茶を飲みながら、話に花を咲かせているうちに、さっき・・・気になった
あの『 コト 』について尋ねてみることにした。
「 佐助さん、その・・・お館様から、クリスマスプレゼント、って・・・ 」
「 ん?ああ、もしかして違うモノが欲しかったとか?? 」
「 いえ!光栄です!!というか、私、お館様に返せるものが何もなくて・・・ 」
「 ・・・ちゃん、お館様は君からいっぱい貰ってるんだよ、色んなものをね 」
「 色んな、もの・・・? 」
「 俺様や旦那だって、同じ。だから、ちゃんにはいっぱい感謝しているんだ 」
「 ・・・佐助、さん 」
「 ありがとう、ちゃん。どんな運命のいたずらであれ、武田道場に来てくれて。
俺様たちと出逢ってくれて・・・本当に、ありがとう 」
私の頭に手を伸ばして、少しだけ髪の毛に指を絡ませながら、そっと撫でてくれる。
佐助さんが私を見つめる瞳は、ただひたすら、慈愛に満ちていた・・・。
それは・・・私の、セリフなのに。皆との『 出逢い 』に、誰よりも、一番感謝しているのは私自身なのに。
どんなに感謝しても足りないくらい、皆は・・・私の『 未来 』への道を照らしてくれたのに。
・・・うん、決めた。
やっぱり私も、精一杯の『 ありがとう 』を皆に伝えたいって、ココロから思うから。
頭を撫でていた手を掴んで、身を乗り出す。
彼はちょっと驚いたような表情をして、真剣な瞳の私を見ていた。
「 佐助さん・・・お願いがあるんです!! 」