04.A little prayer for you

頭に、サンタクロースの帽子ををちょこんと被って、更衣室から出た。
表では同じ格好をしたまつさんと慶次さんがいて、揃って声を上げる。



「「 かわいいー! 」」
「 あ・・・ありがとう、ございます・・・っ 」



2人の視線に、首から上の温度が上昇していくのがわかる。う、うう・・・照れる・・・!
こんな可愛い格好、き、着慣れないから、余計に恥ずかしい!!
そこへ、チューッスという低い声がして、随分と・・・背の高い男のヒトが入ってきた。
見下ろされて固まっていると( 慶次さんに初めて逢った時も、びっくり、したけれど ) そのヒトは、おお!と声を上げた。



「 アンタが佐助の・・・本命って子か!? 」
「 ほんめ・・・ええっ!? 」
「 違うんだってさ、チカ。ちゃん、コイツは長曾我部元親。チカでいいから 」
「 佐助や慶次と同じ大学のダチってとこだ。よろしくな 」
「 です。み、短い間ですが、よろしくお願いします 」



差し出された大きな手を握り返すと、上下に振られる。というか揺さぶられてる・・・。
腕の関節が壊れちゃうかも・・・と青ざめた矢先に、慶次さんが止めてくれた( ほっ ) ワリィワリィと謝ると、彼もギンガムチェックのエプロンを身につける。
まつさんが全員揃いましたね、と喜んだように手を叩いて・・・私たちは、お店に出た。








佐助さんに紹介してもらったバイト先は、隣の市にある喫茶店だった。
50席ほどしかない小さな店内は、とても落ち着いた雰囲気のある、静かなカフェ。
普段は、お店のご主人である前田さん夫妻と、時々、甥にあたる慶次さんがお手伝いに来ているらしい。
慶次さんは頼りになる先輩で、それは丁寧に仕事内容を説明してくれた。



「 ちゃんは飲み込みが早くて助かるよ!それに比べて、チカは・・・ 」
「 ンだよ!文句あんのか? 」
「 はいはい、ございませんよー 」



最初はトレンチの重さに手首が安定しなかったけれど、時間が立てば片手で運ぶのにも慣れてきた。 伝票にオーダーをとって、マスターの利さんに渡す。料理は、奥様のまつさんの担当。 常連さんも何人かいるみたいで『 マスター、新人さん? 』なんて声をかけてもらいながら、初日の バイト時間はあっという間に過ぎていった。

何度もいい匂いにお腹を刺激されて、バイトが終わる頃にはすっかりお腹が空いてしまった。 今夜のご飯、何だろうな・・・。バイトのことは、お館様と幸村くんには内緒にしているので、 遅くなる理由は、今夜の夕食時に佐助さんがフォローしてくれることになっている。 メールで事前に聞いておかなきゃ、と携帯電話とにらめっこしていると・・・。



「 ああ、。お前、帰る時は俺に声かけろよ? 」
「 チカさん・・・えっ、どうして・・・ですか? 」
「 ココに来る時は慶次が、帰る時は俺が送り迎えすることになってる。
  夜はもう遅いからな・・・って、もしかして佐助から聞いてねえのか? 」
「 ・・・・・・? 」



チカさんが何のことを言っているのか・・・さっぱりわからない。
固まった私に、2人は一度顔を見合わせると、慶次さんがあのね、と説明してくれた。

佐助さんは、私が家族に内緒でバイトをしているから、バレないように、かつ安全に働けるように・・・ ということを考慮して、ここを薦めてくれたらしい。
バイトに行く日は、かすがのお家で勉強するから遅くなると理由をつけて、幸村くんと別れてかすがと帰る→ 上杉道場まで、迎えに来てくれる慶次さんと一緒に、バイトへ行く→ そして帰りは、武田道場までチカさんが送ってくれる・・・という話を、佐助さんが算段してくれたらしい。


「 あの、でもそれじゃ・・・お2人に迷惑がかかります! 」
「 迷惑なんかじゃないよ、なあ、チカ 」
「 俺も帰り道のついでだ。別に遠回りしてるワケじゃねえし 」
「 そうそう。俺も、謙信んトコに顔を出すのは久しぶりだから、逆に楽しみなんだ 」



謙信さんやかすがと、以前より付き合いがあるらしい慶次さんは、にっこり笑う。
それを聞いても・・・悶々としている私の頭を、がしっ!と大きな掌で掴んだのは、チカさんだった。



「 きゃ!! 」
「 俺らがいいって言うんだから、いつまでも気にしてんじゃねえ!
  ホラ、もう支度は済んでンのか!?なら、帰るぞ!! 」
「 お疲れ様ー、チカ、ちゃん。また頼むよ 」



頭部を掴まれたまま、ズルズルとお店の裏口から駐車場へと連れて行かれた。
夜目でもわかる紫色にコーティングされたバイクに歩み寄り、チカさんは私にヘルメットを手渡す。 被れ、ってことだ、よね・・・。持ったまま立ち尽くしていると、チカさんが片手で私の顎を持ち上げる ( 顔を上げろ、という意味らしい ) 彼は、私の手にあったヘルメットをそっと頭に被せた。顎の下でパチン、と音がするまで、整ったチカさんの顔を 見つめていると、あんま見るな!とヘルメットを小突かれた( ・・・あ、照れてる )



「 バイクに跨るの、初めてか? 」
「 はい・・・ 」
「 足は、そう・・・ここに置け。それで、手はここな。絶対に離すなよ 」



エンジンをかけると、もの凄い爆音に一瞬耳を塞ぎそうになってしまった・・・。
前に跨っているチカさんの・・・どこを掴んでいたらいいかわからなくて、服の裾を掴んでいたら、 彼は自分の腰へと誘導した。見かけよりもずっとがっしりした腰つきに、思わず、心臓が跳ねる ( お、お館様に抱きついた時とは、何か、違、うっ! )



「 まあ・・・がそうやってれば、振り落とさないくらいの安全運転で行くから 」
「 え、チカさ・・・きゃあああ!! 」



行くぜェっ!と声がして、私たちを乗せたバイクは走り出す。裏口で手を振る慶次さんに、振り返すことも出来ず・・・ ただひたすら、チカさんの腰にしがみついていた。