04.A little prayer for you

あふ・・・と欠伸をひとつ。
さっきまでの喧騒が嘘のようだ。家の中はひっそりと静まり返っている。 唯一聞こえる音としたら・・・一階の台所で、佐助さんのお皿を洗う音くらい。 手伝うと言い張ったのだけど、バイトで疲れてるでしょ?今日のところは甘えて、と 追い出されてしまった。佐助さんには申し訳ないけれど・・・正直、バイト期間を終えて 気が抜けてしまったのか、何だか身体が重い・・・。素直に甘えて、今夜は休むことにした。
お風呂も入って、歯磨きもした。実は大の酒豪だというチカさんが、お館様と意気投合して、 今度はバイクじゃない時に遊びにくるぜ!といいながら、去っていったことを思い出して・・・ 頬を緩めた時だ。コツコツ、と部屋の扉が叩かれる。



「 はい 」
「 そ、その・・・まだ、起きておられるか? 」
「 ・・・幸村くん? 」



がちゃり、と扉を開くと、エプロン姿の幸村くんが立っていた ( 佐助さんのお手伝いの途中だったのだろう )その頬は、逆光でもわかるくらい・・・赤い。 どうしたのだろう、と首を傾げる私をしばらく見つめて・・・はっ!と気づいたようにポケットを漁り出した。



「 ・・・これを、そなたに 」



幸村くんが、小さな布袋を私の右手に置いた。何が入っているのだろう、重さは全く感じないけれど。 結び目のリボンを解いて、袋を斜めにする。しゃら・・・と左手に落ちたのは、ピンクゴールドの輝き。



「 ペンダント・・・? 」
「 うむ。殿に、気に入ってもらえると良いのだが・・・ 」
「 でも・・・私、幸村くんからもうクリスマスプレゼントもらってるよ? 」
「 お館様も仰っていたではないか。数など、決まっておらぬと 」



あ、伸びてても聞こえていたんだ、あの時の会話。 ちょっと思い出して、クスリと笑うと、もう・・・忘れてくだされ、と彼の方から白旗を上げた。
・・・折角だから、つけてみたいな。幸村くんに問えば、ぜひ、と少しはにかんだような笑顔が返ってきた。 摘んで、部屋の中に入る。ドレッサーの前にしゃがみこんで、ペンダントを当ててみる。 ・・・んー、つけ慣れないから、上手くいかないな・・・と思っていると、某がつけようか、と声がかかる。



「 こ、断っておくが!そそそ某、はっ、破廉恥な気持ちでは、決して・・・!! 」
「 しーっ、幸村くん!お館様が起きちゃう! 」



部屋の真下で、気持ちよく寝ていらっしゃるのに。また、はっ!と気づいたような表情をして( ぷ! ) 幸村くんは私の首に手を伸ばす。ペンダントの鎖が、首筋をなぞった。 少し首を前に倒したほうがいいかな・・・。左手で後ろ髪を持ち上げて、首を倒す。 ごくり、と喉の鳴る音が聞こえたような気がしたけど・・・気のせい、かな。
うなじの下の、首の付け根に当たった幸村くんの指が、とても熱い。というか、もしかして震えてる? やっぱり、慣れないことお願いしちゃってるから、緊張させちゃったかな。



「 あの、ゆき・・・ 」
「 よし!出来たでござる 」
「 ・・・え、本当?わぁ、 」



ぱっと指が離れたけど、ペンダントはそのまま私の首元で揺れている。
星屑を象ったそれが、きらりと光った。触れると、また光を弾いて、私の表情も輝く。



「 幸村くん、ありが・・・・・・、 」






お互いの、吐息がかかるのがわかった。






至近距離に、彼の端正な顔立ちを目にして・・・思わず、見惚れてしまう。
大きな瞳、長いまつげなんて、男の人なのに何て羨ましい。その瞳に、同じくらいぽかんと 口を開けたままの自分が映っていて・・・そこで、ようやく自分と幸村くんの『 距離 』に、気づく。
息を呑んで、後ずさりしたのは、ほぼ同時だった。私はドレッサーに、 幸村くんは開いていたドアの角に、頭をぶつけた。痛みに絶句して、蹲る・・・。



「 旦那ー?何やってんの!?ちゃんも、もう寝なさーい 」
「 は・・・はぁい 」



階下から、佐助さんの声がした。何とか返事をして・・・幸村くんを見る。
彼は、髪の先まで熱いんじゃないかと思う真っ赤になったまま、その場で固まっている。 そしてまた、はっ!と気づいたように( ・・・3回目? )慌てて土下座の姿勢を取ろうとするので、 私は手で制した。



「 あ、あの・・・だい、大丈夫、だから! 」
「 そ・・・そうか・・・・・・あ、あの、殿・・・ 」
「 はっ、はい!! 」



名前を呼ばれて、背筋が伸びる。緊張の解けない私を見て、逆に幸村くんの方に余裕が生まれたようだ。 苦笑して、ドアノブに手をかける。去り際に、振り返って。



「 ・・・メリー、クリスマス 」



微笑んだ彼の表情は、いつもよりも少しだけ大人びていた。
パタンと扉が閉まった後にも、その残像が目に焼きついていて・・・頬が、染まる。

あ、あれ・・・いつの間に、幸村くん、あ、あんな表情するようになったんだっけ・・・。

階段を降りる足音がする・・・。部屋が静かになればなるほど、心臓の音が大きくなっている気がする。 ベッドに入って、布団の中で丸まるけれど、一向に鳴り止む気配を見せなかった。う、うわ・・・ こんなにドキドキしてて、こ、今夜、眠れるのかなぁ・・・。






今宵は、クリスマス。

すべての生命に、喜びを。すべての生命に、限りない、幸せを・・・・・・