クリスマスが終われば、あとは年末年始に向かって動くだけ。
お家を仕切っている佐助さんから、大掃除にむけての役割分担が発表されて、
3日間かけて道場と屋敷内の掃除に取り掛かった。
自分の部屋と、お庭と( あ、でももうこの2箇所は終わったんだ! )広間の担当を
引き受けた私は、引き出しの中を片付けていた。中身を出して、雑巾で少し拭いて、
出していたものを整理して戻す・・・時に、ひらりと落ちた一枚の紙。
「 ( 何だろ、これ・・・写真? ) 」
「 殿、キッチンハイターとやらを佐助が探しておるのだが・・・ 」
ご存じないか、と、お館様と道場の掃除をしている幸村くんが、広間に顔を出す。
そして、私が手にしている写真に頬を引きつらせて、慌てた様子で奪われた。
「 あ!酷い、幸村くん!!せっかく見てたのに! 」
「 こっ、こここれはイカン!いくら殿といえど、お見せするわけには・・・! 」
「 暴れてどーしたんだよ、旦那。キッチンハイター探してくれた? 」
「 幸村よ、神棚への供物を取ってくるよう言ったのに、何をしておる 」
写真を取り戻そうと跳ねる私と、狼狽した様子で首を横に振る彼の姿を見て、
別々の方向から現れた佐助さんとお館様が、呆れたような顔をしてこちらを見ている。
道場を掃除していた幸村くんは、お館様に言われて供物を台所へ取りに行ったところへ、
佐助さんからキッチンハイターを探してくれるよう頼まれたのだろう。
痺れを切らした様子の二人が溜め息混じりに近寄ると、幸村くんの頭に拳固を降らせる。
いッ・・・!と短い悲鳴を上げて蹲った幸村くんの手から、写真を取り返した。
じ、と見たまま動かない私の肩越しに、ひょっこり佐助さんが顔を出す。
「 ・・・こりゃまあ、随分と懐かしい写真だねえ 」
「 じゃあ、やっぱりこれって・・・ 」
「 そ。俺と旦那が、この武田道場にやってきた日に撮ったんだよ 」
左に少し若いお館様、真ん中に若い・・・というより小さな幸村くんと、
やっぱり幼い佐助さん。年齢が違うだけで、あとは同じ様子に見えるのに、
二人の表情は、とても硬いままだ。
「 ・・・そっか。もう、5年も前のことになるんだ・・・ 」
ぽつり、と零した佐助さんの声が響く。写真を見つめる眼差しは、当時を懐かしんでいる・・・
というのではなく、何だか、辛い思い出をかみ締めているように・・・見えた。
そんな彼にかける言葉を失っていると、またもやあっという間に写真が抜き取られる。
そして、その写真を丸めて自分のポケットに突っ込んだ。
「 あーっ!! 」
「 殿にお見せするようなモノではござらん故、これは某が預かる 」
「 キリリ顔だけどさ、旦那・・・キッチンハイター探してくれたの? 」
「 ・・・・・・う、うむ。きっとどこかにあるはず・・・・・・ 」
「 はあ・・・もう探すのはいいから。ちょっとひとっ走り行って、買ってきてくれない? 」
「 あ、ああ、わかった 」
「 ちゃんも一緒に行っておいで。帰ってきたら、お茶にして一息吐こうか 」
「 は、はい! 」
いいですよね、大将、と確認するように3人でお館様を見上げれば、オレンジ色のエプロンをつけた
お館様がこくりと頷いた。佐助さんが、他にも欲しいものをメモに書き上げ、私に渡す。
つけていたエプロンを外しながら玄関に向かうと、スニーカーの紐を締めた幸村くんが立っていた。
「 では行こうか、殿 」
「 ・・・やだ。だって幸村くん、写真見せてくれないんだもん 」
「 ・・・・・・・・・ッッ!!! 」
拗ねた様子でぷい、と横を向くと、幸村くんが頭を抱えて苦悩しているのがわかった。
・・・っと、ちょっといじめ過ぎたかな・・・。
あうあう、と泣きそうな表情の彼の背をぽん、と叩く。
「 嘘、うそ!!さ、一緒に行こ、幸村くん 」
「 、殿・・・あの、 」
「 早く買い物して、お掃除の続きしないと、大掃除が終わらないもんね 」
「 う・・・うむ・・・ 」
聞かれたくない『 過去 』は、誰でも持っているものだから。
私もスニーカーへと足を通すと、冬の寒空の中へと2人で駆け出した。