05.It's like a dream come true.

赤と緑のコントラストは消え、今度は新年を祝う街並みに早変わり。
ついこの間、かすがとプレゼントを買いに来た時の輝きは、紅白の華々しさに変わっていた。 あまりに早い模様替えに、きっと街の人も大変なんだろうな・・と思っていると、隣の幸村くんが、 殿、と声をかけてきた。



「 キッチンハイターとは、これでござるか? 」
「 あ、そうそう。籠に入れて、と・・・これで買い物は全部かな 」
「 そのようでござる 」



佐助さんから預かったメモの内容と、籠の中身を確認すると、彼は満足げに大きく頷いた。 私が持つよ、と言ったのに、女子に重い荷物を持たせるわけにはいかぬ、と譲らなかった幸村くんが、 籠を持ってレジに並ぶ。追いかけて会計を済ませると、ビニール袋に品物を綺麗に詰め込んで、 大きい方は自分で持ち、小さな袋を渡してきた。



「 幸村くんって、こーいうの、苦手かと思ってた 」
「 ・・・ああ、袋に詰めるの、でござるか? 」
「 うん 」
「 小さい時から、佐助の買い物を手伝っているうちに、な。見様見真似だが 」



と言って、はにかむ。その笑顔を見て、私も自然と頬が緩んだ。



本当は・・・幸村くんと、こんな2人だけの時間を持ちたいと思ってたんだ。



武田道場に来てからは、たわいもない話をしながら彼と帰るのが当たり前になっていたから。 バイトをしていた12月はとても忙しくて( 充実はしていたけど・・・ )帰りはかすがと 帰っていたし、幸村くんとの接点がすごく少なかった。これからはまた、 一緒に帰る時間が増えるから、こんな寂しい気持ちにならなくて済むのだろうけれど・・・。



「 ( 寂しかった、ってことは・・・本当は、もうずっと前から好き、だったの、かな ) 」
「 ・・・・・・殿、殿? 」
「 ・・・ん、あ、はい! 」
「 どうかされたのか?急に黙って・・・ 」
「 あ、ううん・・・幸村くんと、こうして話しながら歩くの久しぶりだな、って思って 」
「 そう、でござるな。お互い、忙しい一月だった故・・・ 」
「 だからまた、こうやって話せて嬉しいなあ、って・・・・・・幸村くん・・・ 」
「 ・・・・・・え、 」
「 顔、真っ赤だけど・・・ 」



え、あ、いや、これはぁあああ!と慌てふためいたように暴れ出す。 持っていた袋から、卵のパックが落ちたのを見て、手を差し伸べる。 間一髪で、地面に落ちる前に2人の手が支えたお陰で、卵は割れずに済んだ。 ・・・ほっと溜め息を吐いたのも束の間。卵を袋に戻している彼の手を見て、触れてしまった事実に・・・気づく。

・・・こ・・・こーいうのを意識しちゃダメだって、ば・・・ッ!!

一緒に住んでいる以上、簡単に照れたらいけないって、わかってたつもりなのに。
真っ赤になっている( であろう )私を、行こうか、と幸村くんが促す。
頷いて、彼の後をついて行くけれど、茶色い髪の間から、さっき以上に赤くなった耳が見えて、 自分の顔の熱さなんか忘れてしまった時・・・・・・だった。



「 ・・・・・・? 」



戸惑ったような小さな声だったのに、名前を呼ばれて、身体が反応する。
歩みを止めて振り返ると、人込みの向こうから、かき分けた人に謝りながら駆け寄る人がいた。それが誰か気づいて・・・ 言葉を、失う。



「 やっぱり!か!!見覚えある横顔だったが、まさか、と思ってな 」
「 ・・・家康、先輩・・・ 」
「 先輩・・・? 」



幸村くんの声が、背中越しに小さく聞こえた。自分の身体が、固まる。
袋を持っていた手とは反対の手を、家康先輩がぎゅっと握った。



「 ハハ・・・偶然に再会出来るなんて、な。久しぶりに逢えて嬉しいぞ、! 」



温かい掌。ああ、先輩の手だ・・・なんて、急に実感が湧き上がって、力が抜けそうになる。 先輩に触れられるまで実感沸かなかったけど、温度を感じたら胸に込み上げるものがあった。 私を見据える真っ直ぐな瞳も、あの頃とは変わらないんだって思ったら、涙が出そうになった。

・・・けれど、その手を引き寄せる、もうひとつの手があった。

突然、先輩の手が離れ、私は身体ごと幸村くんに捕まる。
どうして、と見上げた彼の横顔が、 緊張のせいか引き締まっていた。
そして、引っ張られるようにして元来た道を辿る。



「 ・・・ーっ、俺の携帯番号、変わっておらんからなぁ!! 」



遠ざかる私たちに、先輩の朗々とした声が響く。
周囲の人が何だ何だ、と見ていたが、先輩にはそんなこと気にならないらしい ( そんなところが・・・家康先輩らしい )こくこくと頷くと、先輩はにかっと笑った。

そんなやり取りの間も・・・幸村くんは、ただ前を見て私の手を引っ張っていった。