3学期が始まった。
この学校に転向して・・・気がつけば、半年が経とうとしていた。
「 ( ・・・というか、まだ半年しか経ってないんだなあ ) 」
『 毎日 』が充実している、ってことだよね、この満足感は。
鞄に教科書を詰めながらふと感慨にふけっていると、かすがの私を呼ぶ声がした。
教室と廊下を繋ぐ扉の傍に、かすがと幸村くんが立っている。今日は、朝のうちに
『 一緒に下校 』をお願いしておいたので、お迎えに来てくれたのだろう。
ジップを閉めて、鞄を担ぐ。駆け寄ると、幸村くんが微笑む。
「 じゃあね、かすが。また明日 」
「 ああ、楽しんでこい 」
『 事情 』を知っている彼女が、柔らかい表情で見送ってくれる。
そんなかすがに手を振って、私と幸村くんは、学校を出る。まだ予定の時間までは、
充分余裕があるけれど、早く帰って支度もしないといけないし・・・。
今日は武田家のみんなと、利家とまつさんのお店で食事をする。
遅くなったけれど・・・私からのクリスマスプレゼント返し、なのだ。
お店のベルが響いて、カウンターにいた利さんが顔を上げた。
いらっしゃい!と叫んでから、厨房に入ってまつさんに声をかけに走る。
呼ばれたまつさんが、エプロンで手を拭きながら慌てて出てきて、私たちに頭を下げた。
「 本日は、ようこそいらっしゃいました。前田です、よろしくお願いいたします 」
「 武田家当主、信玄と申す。いつも、がお世話になっております 」
「 いえ、こちらこそ。ちゃん、本当によく働いてくれますのよ 」
お館様の隣で一緒になって頭を下げていると、厨房の奥から顔を覗かせたのは慶次さん。
佐助さんがおー!と片手を上げて応え、なぜか幸村くんは苦虫を潰したような表情
( ・・・何でだろう )
慶次さんは、その幸村くんの頭をがしがしっと撫でると、席へと案内してくれた。
クリスマスまでのバイト代を貰う代わりに、お店貸切で、フルコースをご馳走になることに
なっている。貸切にすれば、私が稼いだバイト代なんかじゃ賄えないって言ったのだけれど、
ゆっくりお館様たちに食べてもらいたかったし・・・いつも佐助さんには、美味しい料理を
ご馳走になっているので、どうしてもお礼は『 食事 』にしたかったんだよね。
・・・ここは、ご好意に甘えることにしたのだ。
「 あの、私、手伝います 」
「 いいんだよ、ちゃん!それじゃあ、貸切にした意味がない。
お姫様は、ゆーっくり座って待ってればいいんだよ。ほら、座った座った 」
「 え、え、でも・・・! 」
「 殿!そっ、某の隣が空いておりますれば・・・!! 」
「 ざーんねん!今夜の俺様の隣って、前から約束してたんだもんねー 」
佐助さんの隣の椅子を、慶次さんが引いて待っていてくれたのでそこに座る。
幸村くんが明らかに肩を落としたので、えーと・・・また、今度ね?と言えば、
俯いたままこくり、と頷いた( ホント・・・どうしたんだろう・・・ )
「 さあ、召し上がれ!!俺が言うのも何だが、まつの飯は日本一だッ!! 」
運ばれてきた料理を見て、みんなの目が輝く。
武蔵さんがこの日の為に見立てくれたというお野菜は、見目麗しい( 色艶の良さに、
佐助さんが驚いていた )その野菜の魅力を存分に操った、まつさんの『 とっておき 』が
振る舞われる。
「 お館様にはこっちでしょ?クリスマスにゃ、元親に振る舞ったって聞きましたぜ 」
「 おおっ!気が利いておるのう!! 」
「 佐助も要るだろ?そんで、未成年のお二人にゃ、こっちのグラスな 」
それぞれに合ったグラスが素早く並べられ、並々と注がれる飲み物。
斜めに座っていた幸村くんと目が合って、にこ、と笑って見せれば、落ち込んでいた
幸村くんの瞳が急に輝く。
「 あ・・・あの、あの殿、今日はお 」
「 はーい!それじゃー、今夜は我が家のお姫様・ちゃんに感謝しつつッ!! 」
『 乾杯ーっっ!!! 』
がっちゃちゃーん!と割れるんじゃないかとビクビクするくらい、派手な音が響く。
みんながグラスに口をつけ始めたのを見計らって、私も中身を飲み干した。
慶次さんが料理に合うとチョイスしてくれたジュースは、爽やかで飲み心地が良い。
・・・ん、そういや幸村くん、さっき何か言いかけてなかった・・・??
視線を投げれば、不貞腐れた顔で、口の中いっぱいに野菜を突っ込んでいる。
彼に声をかけようと思ったが、ちゃん、と後ろからまつさんの声がしたので、振り向いた。
「 どうかしら、お口にあって? 」
「 もちろんです!とっても美味しいです!! 」
「 ふふ、良かった・・・実は、お願いがあるのです 」
「 あ、もしかしてバイト、ですか? 」
お館様には、隠さずともバイトをしてもよい、とは言われているけれど・・・。
「 ええ、来月半ばの日曜日。一日だけお願いしたいのです 」
「 というと、2月じゅう・・・・・・あ、 」
その『 記念日 』を察すれば、まつさんはにっこりと微笑む。
「 このお店で、バレンタイン・デーに向けての一日お菓子作り体験があるのです。
日曜日ですし・・・もし、時間があったらアシスタントをお願いしたくて・・・ 」
「 楽しそうですね!もちろん、私でよければ!! 」
「 うふふ、ちゃんも・・・意中の『 殿方 』に作ると良いですわ 」
「 ・・・・・・・・・!!? 」
耳元で囁かれるまつさんの言葉に、武田家のみんなが驚いて振り返るほど・・・息を呑んで固まる。
その中に見つけた『 意中の殿方 』と目が合い、一瞬にして身体中の熱が上がった。
沸騰した私を見て、誰もが首を傾げる中・・・。
まつさんだけが、クスクスと意味ありげな微笑みを浮かべていた。