September 2015


純粋嗜好 with 呂蒙




 断じて、幼女趣味ではない。
 少女の淡い想いが恋へ変わっていったように、呂蒙の中でも変わっていったものがあるだけだ。幼い頃から達観した所はあったが、成長して年相応になった。
 などと語れば、やはり「最初から」ではないかと囃される。
 特に孫策、周瑜からの覚えめでたく、孫権派の陸遜による陰謀説もおかしな信憑性を帯びてくるわけである。政治的な意味合いよりも、恋情を理由にする辺りは噂好きの女官の仕業だろう。
 女だてらに文官を務めるが、これらの噂を知らないわけはない。
 夫婦同伴の席ともなれば、こうしてペタリとくっついてくる。睦事も知らなかったはずの彼女が色々と知識を増やしていくのは喜ばしいやら、悩ましいやら、何とも複雑なところであった。
 今は屋敷で二人きり。
 他の者たちは下がってしまい、ほとんど寝静まった頃合だ。ちょっと妖しい雰囲気になっても、そのまま愛し合っても、何も問題はない。
 髭を撫でていた手が取られ、が困ったように眉尻を下げた。
「明日も、出仕が・・」
「誘ってきたのは、お前の方だろうに」
「でも、・・・・んっ」
 濡れた音に混じる甘い声に酔う。
 羽織の下から潜らせていた手に力を込めて、ひょいと膝の上に乗せた。心得たように白い腕を巻きつけてきたくせに、は俯いた顔を赤くしている。
「こちらの方も慣れてみせると、豪語していたのは誰だったかな」
「初心なのも良い、と仰ったのは子明様です」
 さりげなく呼び名が字に戻っていて、呂蒙は密かに満足する。
 初めて彼女と言葉を交わして以来ずっと、呂蒙様と呼んできたのだ。十年以上の歳月に比べれば、半年ほどの時間は慣れるに早いかもしれない。
 だが呼んで嬉しい名は、呼ばれて嬉しい名だ。
 わざと子兎と呼ぶ凌統の気持ちが、少しだけ分かる。特別気に入ったものには、特別な呼び方をしたい。陸遜と違って、凌統にはそういった想いがない。そうは言っても、どちらも若い男ゆえに内心穏やかでもない。
 嫉妬深いというのなら、呂蒙の方がよほど嫉妬深い。
 可愛がられるのが微笑ましかったのは、夫婦になる前までのこと。
 肌はもちろん、髪に触れられるだけで相手への不満が募る。隠そうともしない殺気を、他でもない周泰に咎められてしまった。指摘されて、顔から火が出るほど恥ずかしかったのは横に置いておく。

- continue -

2015-09-01