水無瀬が住むアパートの近くにあるスーパーは、夜11時までやっているから夜公演が終わった後でも買い物に行けて便利らしい。 肉じゃがを作ることにした僕は水無瀬と一緒にスーパーで材料を揃えた後、コンビニで下着と歯ブラシを買う。これから作って食べた後だと帰りの電車がなくなるから、泊めてもらうことにした。別に僕がわがまま言ったわけじゃなくて、これは水無瀬の提案だよ。もちろん嬉しいけど、ちょっと緊張する。 僕は料理はひとりで作りたいタイプだから、水無瀬には出来上がるまでテレビを観ていてもらう。何だかこれって新婚夫婦みたい。もちろん肉じゃがだけだと物足りないからみそ汁も作って、水無瀬が昨日の夕飯にしたらしい炊き込みご飯を温めた。 今日の手料理も水無瀬からは好評で、自信はあったけどやっぱり褒めてもらうと嬉しい。公演後は色々あったけど、すっかり身も心もいっぱい満たされたよ。 水無瀬が後片付けをしている間、僕はシャワーを浴びる。さっき買ってきた下着をはいて、Tシャツとハーフパンツはちょっと大きいけど水無瀬のを借りた。後は寝るだけだし多少サイズが違っても気にしない。 僕と入れ違いでシャワーを終えた水無瀬が隣に座って、僕は妙に意識してしまった。まだテレビがついてるのが救いだった。 今画面に映っているのはシトラスという女性7人組のアイドルグループで、歌もダンスもルックスも完璧なアイドル界のトップだ。昔は全然売れなくて、かなりの下積み期間を経てここまで登り詰めた。 中でも1番人気なのはセンターを務めるアヤで、何を考えているのか分からないミステリアスさや、無駄な動きを省いたしなやかで美しいダンスはファンや関係者の中でも絶賛されている。僕から見てもあの存在感は群を抜いていると思う。 シトラスの曲が終わって司会のお笑いタレントが出てくると、水無瀬はテレビを消してしまった。途端に落ちてきた沈黙で落ち着かなくなる。顔を正面に向けたままでも、水無瀬が僕のほうに身体を近づけてくるのが分かった。これからどうなるんだろう。 「ピアス、いつからしてるんだ?」 「え、あ……今の高校に入ってからだよ。さすがに学校行く時は外してるけど。僕は芸能コースだから、申請すれば仕事のためなら髪を染められるんだ。この茶髪も許可下りてるし」 本当は僕みたいに前髪や襟足が少しでも長いとダメなんだけど、芸能コースだとそれも申請しておけば大丈夫なんだよね。 その書類にサインと印鑑を押してくれたのが、社長の寺尾さんだ。 緊張していたせいで、聞かれてもいない髪のことまで喋ってしまった。 「そうか、俺ずっとお前のことあまり知らなくて」 「ようやく興味持ってくれたってこと?」 「まあ、な」 頬が赤くなっている水無瀬に、僕は思い切って自分から顔を寄せた。今なら拒まれない気がする。 「僕ね、今すぐじゃなくてもいいから、この前の続きがしたい。水無瀬のことが好きなんだ」 「伊織……」 「ずっと言えなかったけど、もう我慢できないよ」 声を震わせた僕からの告白の後、無言で目を伏せていた水無瀬が再び顔を上げて僕を見つめた。 「……俺は最初、お前のことが嫌いだった。俺が決めたわけでもないセンターのあれで文句言ってくるし、とにかく生意気で、すげえ偉そうな勘違い野郎だし。こいつとは絶対上手くやれねえって思ってたんだよ」 「まあ、嫌われてるのは分かってたよ。僕も水無瀬はド素人のくせにゴリ推しされてるから、むかついてた」 「でも、映画の役を降ろされた時に落ち込んでるお前を見たら放っておけなくて、何とかしてやりたかった。俺には寺尾さんみたいな権力はねえけど、一緒にいてやることならできるから」 あの時の僕は水無瀬のおかげで救われた。ゲイビデオ男優の過去も、セフレだった矢野さんのことも話してくれて、それにレッスンスタジオで僕を拒んだ理由も知ることができた。僕にとっては大切な出来事だった。 「矢野さんのことに区切りをつけられたのは、お前のおかげだよ。あの後、新しい恋愛なんかできるのかって不安だったけど、俺……お前とこれからも、ずっと、その」 言いにくそうに、恥ずかしそうにしている水無瀬が微笑ましい。だから僕は急かさずに続きを待つ。 「好きだ、伊織」 抱き寄せられた水無瀬の腕の中は、僕が待ち焦がれていた温もりにあふれていた。これ、夢じゃないよね? 全裸を見せるのはこれで2度目だけど、ちゃんと両想いになった今はもうどきどきして……水無瀬に見られてるって思うだけで身体が反応してしまう。肌を重ねながらベッドに沈むと、見つめ合った後で唇を重ねる。 水無瀬はキスが上手い。初めてした時も、気持ち良さで僕はすっかり夢中になった。 「ね、僕はここが弱いんだ……水無瀬にも、触ってほしい」 舌を絡め合った後で、僕は自分の胸元に触れて気持ちいいところを示した。すると水無瀬は僕の硬くなった乳首を摘まんだり、指先で軽く引っかいてきて、それだけで僕は声を上げてしまう。 「んっ、いい……よお」 「本当に胸、弱いんだな。もうここも勃ってる」 水無瀬の手が僕の下半身に伸びて、反り返った性器を握って扱く。すぐに先走りが出てきて、上下している手を濡らしていった。滑りが良くなったのか、ぬちゃぬちゃっといういやらしい音と共に、扱く手の動きも速くなる。 「っ、いっ、いっちゃうよ……出ちゃ、う」 「自分で、扱いてて」 息を荒げた水無瀬は早口でそう告げると手を離し、言われた通りにぬるぬるになった性器を自分で扱く僕を見ながら、ベッドの下にある箱から細長い容器を出した。その中身は水飴みたいにとろりとした透明な液体で、それ絡ませた指を水無瀬は僕の後ろの穴にそっと埋めていく。まずは中指1本だけ。 「……っ、ああっ!」 液体の冷たさを感じてすぐに、僕の中を長い指が探るように動く。少しずつ拡げられているうちに僕の腰は何度も勝手に浮いて、喘ぐ声も止まらない。指が根元まで埋まる頃には、僕はそれを強く締め付けていた。 乱れる僕を見て興奮したのか、水無瀬の性器も上を向いている。あれがもうすぐ、指の代わりに僕の中に……。 指でじっくりと解された後、水無瀬はコンドームを着けた性器を僕の穴に押し当てると、指の時よりもゆっくりと腰を進めてきた。初めて受け入れたそれは、圧迫感と少しの痛みを連れてきた。 「みな、せの……おっきい、よ」 「痛くないか?」 「大丈夫だから、もっと来て」 両足を大きく広げられた恥ずかしい格好で、僕は水無瀬とひとつになった。痛みはあったけど、水無瀬は挿入しながら僕の乳首を両方摘まんで転がしてきて、その鋭い刺激に溺れているうちに全部入っていた。 深く息をついた僕だけど、今度は小刻みに中を擦られて自分でも信じられないくらい甘い声が出た。まるで女の子みたいで、すごい恥ずかしい。声、あまり聞かれたくないから口を手で塞いで我慢する。 「っん、う……!」 「声出すの、恥ずかしいのか」 「だってこんなの、っ……や、あっ!」 返事をするために手を外した隙に、腰を引いた水無瀬は奥に向かって一気に突いてきた。 僕は喉を反らして大きく喘いで、水無瀬の性器を締め付けたまま射精してしまった。 まさかこんなに早くイッちゃうなんて。もっとしたかったのに。 水無瀬は繋がったまま僕の乳首を、ちゅうっと音を立てて吸った。お腹を自分の精液で汚した僕は、それを拭く暇もなく身体をびくっと震わせる。小さな笑い声が聞こえたと思えば、そのまま体勢を変えられて今度は僕が上になった。 「次はお前が動いて」 「でも僕、上手くできないよ」 「あんまり激しく動くと抜けるから、最初は少しずつでいい」 僕は水無瀬の股間にしゃがみこむ格好になって、抜けないように気を付けながら腰を揺らす。イッたばかりで敏感になっている僕が自分から動くのを、下から水無瀬がじっと見ていて変な気分になる。 初めての僕にこんなことさせるなんて、酷いやつ。なのにやめたくなくて続けていると、僕の腰を両手で掴んで押さえこんだ水無瀬が何度も突き上げてきた。余裕がないのか、僕をかなり強引な動きで揺さぶってくる。 「あ、あっ、こんなのだめ、やだ……あ!」 「悪い、もう俺イキそうだ……い、くっ」 水無瀬の下半身がぶるりと震えて、コンドームに包まれた性器が僕の中で脈打つ。薄い膜で遮られていても、精を放っているのが分かる。 「伊織ごめん、俺……止まんなくて」 「うん、いいよ……」 僕が文句を言う前に申し訳なさそうに謝ってきたから、何となく許してしまった。水無瀬とのエッチが良かったのは事実だし。はまっちゃいそうで怖かった。 |