偽りの拒絶 いつの間にか着なくなっていた昔の服に袖を通してみると、胴の辺りがほんの少しだけきつくなっていて衝撃を受けた。 ここ数年の間に太ったのか。いや、20歳の頃が痩せすぎていただけだ。三十路手前を迎えた今は、服装は昔に比べるとかなり無難になっている。自分なりのこだわりは残しつつも、下半身のきわどい部分が見えるような格好はしていない。 例えばこの、サスペンダーが外れたらすぐにズボンが脱げてしまうようなものは。見る角度によっては下着が丸見えだ。よくこんな冒険しすぎた服装で過ごしていたものだと、我ながら呆れてしまう。 クローゼットの奥に潜んでいた若気の至りにいつまでも浸っている暇はない、さっさと夕飯を作らなくては。そう思いながら着替えようとした途端に、玄関の呼び鈴が鳴った。 もしかすると通販で頼んでいた商品が届いたのかもしれない。この格好のままでも、名前も知らない配達の業者ならどうでもいい。早速玄関に向かってドアを開けると、そこにいたのは業者ではなかった。 「よう露伴、約束してねえけど来ちまった……って、その服」 「見るな!」 こちらを凝視している仗助を相手に頭が真っ白になり、露伴は思わずドアを閉めようとしたが有り得ない力でそれを阻まれ、仗助は結局中に入ってきた。 今日は非番なのかいつもの警察官の制服姿ではなく、ジーンズにジャケットというシンプルな私服だ。 「それって、おれが高校の頃にあんたとサイコロで勝負した時のやつだよな。あれから7年か、懐かしいぜ」 目を細めた仗助の大きな手が、露伴の脇腹に触れる。生々しい温もりが伝わり、かすかに身震いした瞬間に仗助との過去が次々によみがえってきた。こちらの気も知らないで、仗助は軽い調子で接してくるのが憎らしい。 露伴は慌てて身を引き、無言の仗助を睨んだ。 「お前はもう、ぼくに触れる資格なんかない」 「……露伴」 「例の彼女を大切にしてやれよ、分かったらもう帰れ」 好きな子ができたと告げられ、4年続いた仗助との深い関係は終わりを迎えた。それが1年前の話だ。あれから露伴は他の誰とも付き合う気になれず、ひたすら原稿と取材の繰り返しで毎日を過ごしていた。 サスペンダーを外して、ベッドに身を沈める。下着をずらすと、勃起した性器が締め付けから解放されて深い息をつく。仗助を強引に外へ追い出すまで、気付かれないように必死で隠し続けていたのだ。 「くそっ、やっぱり着なきゃ良かった……昔の服なんか」 しかも高校時代の仗助との因縁を思い出させる服で、余計に辛い。 1年前までは週に2、3度はしていた仗助との行為を思い出しながら、こうして自慰をしている。愚か過ぎて笑えない。先走りがあふれて指に絡みつき、いやらしく濡れた音が立つ。 ローションと指で解された小さな窄まりを押し拡げながら侵入してきた、仗助の熱い性器が今でも忘れられない。露伴を何度も狂わせ快楽に導いたあれが、今では顔を名前も知らないどこかの女のものになっている。 『あんたをずっと大事にしていきたい』と告白してきた数年後には、『おふくろにいつか、孫の顔を見せてやりたいから』と言って仗助は露伴を振った。あまりにも身勝手だと思った。 しかし、男である自分は仗助と結婚もできず子供を産んでやることもできない。分かってはいたが、まだ未成年だった仗助のまっすぐな熱意に根負けして、告白を受け入れてしまったのだ。なかなか素直にはなれなかったが、歳を重ねるごとに大人びていく仗助の優しさがどこか心地良かった。 一方的に別れを告げられた直後、逆上した露伴は仗助をお前はウソつき野郎だと散々罵った。ずっと大事にするどころか、死刑宣告にも等しい言葉でこちらを切り捨てたのだから。 長い間抱かれていなくても、あの貪欲なキスも愛撫も、達した後で預けてきた身体の重みも、全てこの身体に染み込んでいる。 「あ、嫌だ……い、くっ」 身体を震わせながら、露伴は手の中で射精した。しばらく原稿に集中していて溜まっていたせいか、それはいつもよりねっとりと濃い気がする。 冷静になってからようやく気付いた、自分もウソつきなのだと。家を訪れた仗助を冷たく突き放したくせに、本当はこの身体をまた獣のように激しく犯してほしかった。 |