行き着く先は





愛情表現のつもりだとすれば、あまりにも趣味が悪すぎる。
仗助の両手の指が、僕の喉を押さえつけて食い込んでくる。その力は時を刻むごとに強くなり、僕の呼吸は遮られていく。 脳裏に浮かんでは、ちらちらと点滅する死のイメージがまともに物を考える余裕を奪い取っていった。
どうして仗助は、僕をこんなふうに殺そうとするのだろう。少し前までは抱き合いながら、甘い時間を過ごしていたのに。 何かきっかけがあったのか。僕を殺したいと思った、そうなった何かが。
あらすじだけは知っている昔の小説を思い出す。歴史ある建造物を燃やして消失させることで、それを自身の中で永遠の美として刻みつけた男。
今の仗助が何を思っているのかは分からないが、自分の手で永遠のものを作り出したいのだろうか。ここで僕を殺して、今のままの僕をその記憶の中に留めておきたいのだ ろうか。色々考えようとすると、ますます混乱してしまう。
苦しさを堪え切れずに呻き声を上げる僕の中に、別の考えが浮かんでくる。この苦しさも何もかも、貴重な経験ではないかと思った。いつか自分の作品に生かせるのではない かと。まさに僕が常に欲しているリアリティだ。可能な限り近付きたい、この命が絶える直前まで。

「……っと、もっと力を入れろ」

ようやくしぼり出した僕の言葉を聞いた仗助の、手の動きが止まった。

「僕を殺したいんだろう、お前は」

いつも僕に触れ、強く抱いていたその大きな手で、今度は生々しいほどのリアリティを僕に与えてくれ。そして僕のことを永遠にその胸に刻みつけろ。
この手の温もりさえ愛しい、僕の首に手をかけているのが仗助、お前なら。
痛みも苦しみも全て、快楽に変わっていくだろう。




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2010/1/13
編集→2011/4/1