いつもと違う気分で 「あれっ、露伴先生じゃないっすか」 取材の帰りに軽い調子で名前を呼ばれて振り返ると、そこには知らない男が立っていた。 肩のあたりまで伸びた、少し癖のある黒い髪。派手な色と柄のTシャツとジーンズ。背は露伴よりも高く、顔立ちは生意気そうだがそれなりに整っている。 誰かに似ていなくもないが、何故か腹が立つので考えるのをやめた。 「この僕に気安く声かけてきやがって、何様だお前は」 「今日は機嫌悪いのか? しょうがねえなあ」 わざとらしく肩を竦めてみせる男に苛立ちが限界に達した時、Tシャツの布地に隠れていた首筋の部分がちらりと見えた。そこでようやく、この男の正体が分かった。 「仗助!?」 「え、もしかして今更気付いたのかよ」 「いつものお前と全然違うだろう」 「ああ、そっか。さっき美容院に行って髪切ってもらったんだよ」 仗助の口から出てきた美容院という言葉を聞いて、露伴は口元を引きつらせた。どうせリーゼントで固めるのだから、切るのはその辺の床屋で充分ではないか。 櫛や鏡を持ち歩き、何種類もの香水を気分によって使い分ける。更に高校生のくせに靴はブランド物で、極めつけは美容院で髪を切っているという事実。しかも雑誌に 載っていた有名な店だとか、聞いてもいないことまで話してきた。 「ところで俺、これから家に帰るだけだしよ……暇ならどっかで休憩しねえ?」 「休憩だと?」 一瞬だけ、ご休憩・ご宿泊と書かれたいかがわしいホテルを想像してしまい動揺した。いくら何でも高校生の仗助がそんな場所に誘ってくるわけがない。 しかし今は普段とは外見の雰囲気が違い、こちらに対する態度もどこか強気だ。そういえば先ほども、露伴が刺々しい言葉で返事をしても不機嫌になる様子は見せなかった。 それどころか余裕で受け流し、まるで小さな子供をなだめている大人のようだった。気に入らない。 「何想像してんの、まさか休憩ってラブホで」 「勝手に決め付けるな、くそったれ馬鹿が!」 見事に考えを見透かされた露伴は熱くなった頬をごまかすために仗助に殴りかかったが、握りこぶしは仗助の手のひらで受け止められた。純粋な力勝負で仗助に勝てる とは思っていない。それでもここまで軽くあしらわれると、こちらは成人済みの大人なのでプライドがどうにかなるのは当然の流れだ。 何かの形で一発食らわせてやらないと気が済まない。 そう考えていると、仗助の手が露伴の腰にまわってきた。手が直接肌に触れてぞくぞくする。不意打ちでそこを抱かれるとおかしな気分になった。 「やっぱりそうだよな……この格好なら入りやすいし、本気で行っとく?」 「ふざけるな、離せ!」 「もしかしてああいう場所、慣れてねえのかな。センセ?」 完全に調子に乗っている、意味深な口調で囁いてくる。じゃあお前は慣れているのか、いつ誰と行ったんだ。普段は見せない表情や卑猥な仕草まで、一緒に入った相手に見せ たのか。いくつもの疑問が延々と頭を駆けめぐる。 今までは女ひとり抱いたことのない純情童貞野郎だと思っていたが、あっけなく予想が外れた。 仗助とは性行為どころか、付き合ってもいない。そんな状態でまさかラブホテルに誘われるとは。 純愛がどうのこうのと熱く語ってながらも、実はかなり遊んでいる奴だったのか。最悪だ。 「ごめん、全部冗談」 「え?」 「本当はあんたと、甘いもんでも食べに行こうと思ってたんだ。休憩ってそういう意味」 「女と遊びまくってるんじゃないのか」 「そんなの……したことねえよ」 露伴の腰から手を離し、仗助は一転して気まずそうな顔でそう言った。ようやく露伴が前から知っている仗助に戻った。しかし調子に乗った罰はしっかり受けてもらわなくては。 腕組みをすると、露伴は笑いを浮かべて仗助を見上げる。 「いいぜ、付き合ってやっても。お前の好きなラブホテルにさ」 「ち、ちょっと待て! あれは冗談だって……」 「僕は入ったことないけど、面白そうな道具も売ってるみたいだし興味あるよ」 一歩踏み出すと、仗助は目を逸らしながら後ろに下がっていく。 さて、どうやってこいつを調教しようか。男に童貞を奪われて涙目になっている、情けない姿をスケッチブックに描いてやるのも面白い。 騎乗位で腰を揺らしながら、締め付けて限界まで搾り取ってやる。 |