ジャムの瓶 しばらく使っていなかった、ジャム瓶の蓋が開かない。 賞味期限は切れていないが、新しく買った物に押されて奥へ行ってしまったので存在自体を忘れていたのだ。せっかくパンを焼いたので塗って食べようと思っていたのに、まさかの事態だ。しかしここで放り出すのは負けた気がしてぼくのプライドが許さない。ここからが、お前とぼくの真剣勝負だぜ? 気合いを入れて第2ラウンドに入った時、玄関の呼び鈴が鳴った。誰とも約束はしていないはずだが、ぼくはジャム瓶をテーブルに置いて玄関に向かう。ドアを開けると、仗助が立っていた。 「いきなりすいません、この前借りたビデオ返そうと思って。すげえ面白かった」 「ん、ああ……そうか」 「なんかいい匂いしますね、パン焼いてた?」 仗助からビデオを受け取りながら、ぼくは考えた。こいつの力ならあの蓋を開けられるかもしれない。戦いを人任せにするのも屈辱だが、せっかく焼いたパンが冷めてしまう。腹も減っているので、この際仕方がない。 「そうだ仗助、来たついでに役に立ってもらうぞ」 「何だよ急に、オレにお願い事?」 「いいからついて来い」 靴を脱いだ仗助をキッチンまで連れてきて、例のジャム瓶を掴む。もう一度力を入れて蓋を開けようとしたが、やはりダメだった。完全に固まっている。はあ、と深く息をつくと仗助がぼくの手からジャム瓶を持ち上げる。 「ほらほら、無理すんなよ。先生の大切な右手が壊れちまう。力仕事ならこの仗助くんに任せなさい」 「かなり固いんだ、お前でもどうかな」 自信たっぷりの仗助を挑発してみた数秒後に、仗助は大した苦労した様子もなくあっさりとジャム瓶の蓋を開けた。いちごの濃密な甘い匂いに、どこか懐かしい気分になる。子供の頃によく食べたあの味を思い出して、カメユーで買ってきたものだった。 「開いて良かったな、じゃあオレはこれで……」 「おい、待てよ!」 軽く手を上げて去ろうとする仗助の腕を、ぼくはとっさに掴んでしまう。さすがにこのまま帰すのは何か違う気がした。ぼくもそこまで無神経じゃあないよ。 「うまっ! さっき昼飯食ったばっかだけど、美味い!」 「うるさい! 黙って食えよ!」 2枚焼いたうちの1枚にたっぷりとジャムを塗って仗助に渡すと、大げさに喜ばれた。更にこのほうが食べやすいからと言って、食パンを2つ折りにしている。はみ出して手にこぼれたジャムを舐め取る様子が、ガキっぽくて微笑ましい。その後すぐにまたジャムが仗助の手にべったりとついた。あれだけ塗りまくったのだから無理もないか。椅子に座ればいいのに、仗助はテーブルの横に立ったままパンを食べている。 ぼくは悪戯心を刺激されて、仗助の手についたジャムをべろりと舐めた。やっぱり甘い、まさに子供の頃のぼくが好んで食べた味だ。こうしてたまに昔を思い出すのも悪くない。中には忘れたくても忘れられない苦い記憶もあるが。 まだべたべたしているごつい手に吸い付くと、仗助の身体がびくっと跳ねるのを感じた。 「も、もういいっスよ……それ以上は、やばい」 「変な想像でも、してるのか」 「なんかアレみたいだしよ、そんないやらしい舐め方すんのって」 「何顔赤くしてんだよ、エロガキ」 ぼくはそう言って、ジャムが全くついていない仗助の人差し指にしゃぶりつく。指の付け根から先まで舌先で舐め上げて、指先に音を立てて吸いついた。最中に仗助の顔を見ると、目線をあちこちにさまよわせて明らかに動揺している。 「見たことはないが、お前のはこれよりもっと太いんだろう?」 「う……そんなの当たり前じゃあねえか」 「だよな、これ以上細かったら入ってるかどうか分からないもんな」 軽い気持ちで舐めていたら、いつの間にかぼくの腰辺りが疼いてくる。こんな昼間から、しかも前よりはいがみ合わなくなったものの恋人でもない奴を相手に、おかしい。欲求不満なのか、勃った乳首が服に擦れて更に追い詰められる。 簡単にあの瓶の蓋を開けるのを見て、年下の仗助を頼りがいのある男だと感じた。ぼくが困っていたちょうど良いタイミングで訪ねてきたのも、運命的なものなのか。 しつこく舐めていた仗助の指から唇を離す。反応し始めた下半身を、服の裾をさりげなく引いて隠した。 「なあ、バレてねえって思ってんのか」 強引に服の裾が捲られて、ズボン越しでも性器が膨らんでいるのを知られてしまった。そんなに見られたら、興奮してしまう。まだ濡れている仗助の指が、敏感になったぼくの股間をぐっと押してきて堪え切れずに声が出た。 「……ぼくは男だぞ」 「そうだな」 「気持ち悪くないのか、お前の指舐めまわして勃ってるぼくを」 「正直言うと、あんたってすげえエッチ大好きなんだなと思った」 「答えになっていない」 仗助の唇が近づいた時、ぼくは自然に目を閉じて迎えていた。キスの合間に漏れた仗助の熱い息に卑猥な気持ちになり、もはや淫らに反応した身体を隠すのも忘れていた。 |