愛しのperfume 今日の仗助は柑橘系の香りがする。 確か昨日は違う感じの香りだったが、こんな奴のことなんかいちいち覚えていない。 毎日服を着替えるように、香水も着替えますってか。ガキのくせに生意気すぎて腹が立つ。 同じ学校の女子生徒が、おはよー仗助今日もいい香りねーなんて騒ぐのも気持ち悪い。 あいつら結局仗助の香りなら何でもいいんだろ。見境ない女達はこれだから困る。 「露伴は香水とか付けねえの?」 「そんなもの僕には必要ない、女にモテたいお前とは違うからな」 女にモテたい、の部分に思い切り毒を込めて言ってやった。 せっかく気分転換も兼ねてオープンカフェでスケッチをしていたのに、ちょうど学生の放課後に時間帯がぶつかったのか仗助が登場して台無しになった。 そういえばここは、仗助にお気に入りの店だった。毎週水曜はケーキセットが安くなるとか、こいつのせいでどうでもいい情報を得てしまった。 「別に俺、女子にモテたいとは思ってねえけどな」 少し厚めの唇が説得力のかけらもない一言を発した後、ストローでグラスの中のアイスティーを吸った。 「じゃあ何だよ、女達が勝手に寄ってくるとでも言いたいのか」 「俺は今んとこ、彼女作る気ねえし」 それを聞いて僕は、話をしながらスケッチブックの上で動かしていた手を止めた。つまり恋愛はしたくないって意味か。誰が相手でもそんな気は起こらないということか。 ……何で僕は、自分の中でこんなに仗助の言葉を意識しているのだろう。くだらない。 そろそろ鼻がおかしくなりそうだ。 立ち寄った店にある香水の売り場で、端から順にサンプルの小瓶で香りを確かめているがなかなか見つからない。ここには置いてないのか? 仗助が付けていたあの香り。どうせ安物だろうから、次に会った時に笑ってやろうと思った。女を釣って最近ますます調子に乗っているみたいだからな。 店員らしき人物の気配を背後に感じるが、僕は無視をして作業を続ける。どうせ寒いお世辞ばっかり言ってくる連中だ、まともに相手にしている暇はない。今の僕は忙しいんだ。 そしてようやく、これだと思う香りにたどりついた。僕の勘が外れていなければ、これが仗助の香水だ。しかし何故か肝心の値札がついていなかった。 「おい、この香水はいくらなんだ……」 ガラスケース越しに例の香水を指差しながら振り返った瞬間、僕は言葉を失った。 そこには、にやついた顔の仗助が立っていた。先ほど店員だと思い込んでいた人物の正体は、まさかこいつか。ということは今までの僕の様子を全部見られていたのか。 「ようやく俺の使ってる香水を見つけてくれたんすねー、すっげえ必死に探しちゃって」 「うるさい! 僕はもう帰る!」 「あれっ、買っていかないんすか? 俺とお揃いの香水!」 「声がでかい! ついてくるな!」 どうやら仗助はあの店の常連らしく、使っている香水はだいたいあそこで揃えているという。また、どうでもいい情報を得てしまった。 |