夢より甘いリアル 家を訪ねてきた仗助を、いつものように客間に通してソファに座らせて向かい側に行こうとすると、突然腕を掴まれた。 まるでこちらを咎めるような、強い視線。こいつは一体何が言いたいのか。 「なあ……なんでいっつもそっちに行っちまうんだよ」 「どこに座ろうが僕の勝手だろう、離せ」 「俺の隣に座って話そうぜ」 それを聞いて僕は、冗談じゃないと思った。ある程度離れて話をしているから冷静でいられるというのに、そんな近くに座っていてはどうにかなりそうだ。 仗助と付き合い始めてから、僕のペースは乱れきている。こいつのちょっとした言葉や視線に惑わされて、まるで僕ばかりが醜態を晒しているような気がしてならない。 別に仗助のほうもそういうところを見せればいいという問題ではなく、僕のプライドが許さないのだ。もっと余裕のある態度で接していかなければ、この先だめになって いきそうで恐ろしい。そのためには、なるべく物理的に距離を置くことが一番だ。決して認めたくはなかったが、僕は仗助の温もりや匂いに弱いのだから。 しかし仗助のほうはそんな僕の行為に不満があるらしい。場所を考えずに外でいちゃつく男女のような雰囲気はごめんだ。 「悪いが僕は、ベタベタするのは好きじゃないんでね」 「ただ隣に座るだけだろ、何でそんなに嫌なんだよ……」 今度は寂しそうな表情になり、僕を見上げてくる。仗助のことが嫌なのではなく、自分の心が乱されるのが耐えられないだけだ。それを言うわけにはいかないので、僕は答えること ができなかった。 「もしかして俺って、あんたに嫌われてんのか?」 「どうしてそうなるんだ」 「そうとしか思えねえだろうが、こんなに拒否られてよお」 目の前の僕にも聞こえないような声でぶつぶつと何かを呟き始めた仗助に、僕は苛立った。こいつはどこまで面倒くさい奴なんだ。確かに昔は顔を見るのも不愉快になる くらい嫌いだったが、今は違うということくらいは分かっていると思っていたのに。そこまで求めるのは無謀だったのか。 僕は深くため息をつくと、仗助の隣に腰掛けた。元はふたり用のソファなので、大きさには余裕がある。ただし座る時は、少しだけ間隔をあけているが。密着しなければ ならないほど貧相な小さいソファじゃない。 信念を曲げたような形になってしまったが、これ以上根に持たれて面倒なことになるのを避けるためだ。 それまでの沈んだ雰囲気が嘘だったかのように笑顔になった仗助は、僕の肩を掴むと突然ソファに押し倒してきた。わけが分からなくなった僕は抵抗しようとしたが、 覆い被さってきた仗助に身体ごと押さえ込まれてうまくいかない。 「ああ、すげえ……露伴いい匂い」 「この変態が! 身体を擦り寄せてくるな!」 動物かお前は、と罵りながら睨んだが仗助は全く怯んだ様子を見せず、大した効果はなかったようだ。そういえばこいつは犬っぽいなと前から思っていた。犬は特別好きという わけではないが、猫よりはずっとマシだ。 あの腹立たしい生き物だけはおそらく永遠に理解できない。意味もなく睨んでくるのはもちろん、気まぐれで人を馬鹿にした ような高飛車な態度が、僕を心の底から不愉快にさせる。 尻尾を振ってついてくる犬のほうが、まだ可愛げがある。そう思ってやってもいい。 「このままくっついてたら……もう、俺……」 少しずつ息を荒げ始めた仗助の言葉で我に返った途端、太腿の辺りに硬いものが押しつけられていることに気付いた。よく考えなくても、この状況からしてそれが仗助の 勃起した性器だとすぐに分かった。触ってもいないのに、こうして密着しているだけでそうなるのか。どれだけ性欲を持て余しているんだこいつは。 「おいお前、さっきから変なものを僕に押し付けるな!」 「変なものって何だよ、しょうがねえだろ……俺、年頃の男子なんだからよ」 完全に開き直った態度の仗助は、僕の胸を服の上からまさぐり始めた。大きく厚い手のひらが探るように動き、まだ慣れない調子の愛撫と共に乳首を摘み上げる。不意打ちの刺激に 、僕は息や声が漏れてしまわないように必死で耐えた。 もしかするとこいつは、最初からこれが目的で僕を隣に座らせたのかもしれない。怒りと羞恥で、余裕が削り取られて いくのを感じる。だから必要以上にくっつくのは嫌だったんだ。 仗助は僕の胸をいじりながらも、懲りずに股間を押しつけてくる。言葉よりも露骨に、欲望を訴えてくるような行為を受け止めていると、僕までおかしくなってしまう。 僕と仗助は、これでもまだ一線を越えていない。何度かそういう雰囲気にはなっていたが、毎回色々あって結局台無しになって終わっている。 正直言うと、したいと思ったことはあった。意地も何もかも捨てて結ばれたら、僕自身は一体どうなってしまうのだろう。すっかり余裕はなくなり、離れられなくなるかも しれない。みっともなく、僕から仗助を求める様子を想像して怖くなった。 この僕が、誰かの存在なしでは生きていけなくなるなんて、有り得ないことだ。いつだって漫画が最優先で、それ以上に大切なものはなかったはずなのに。 「っ、なんかこうしてっと……やばい、余計でかくなった……気が」 「人の身体を何だと思ってるんだ!」 仗助の肩を力任せに押そうとした手を掴まれ、股間へと導かれた。制服のズボンの上からでも分かるくらい、そこが硬くなってることを余計に生々しく感じる。僕の手に 布地越しに触れられて、そこはびくりと動いて反応した。 「なあ露伴、あんたの手で楽にしてくんねえか」 「はあ!? 何言ってるんだ……僕はっ、絶対嫌だからな! ひとりでやってろよ!」 「まあ、ひとりでやるのは簡単なんだけどよ……あんたがこんなにそばにいるのに、そういうのってなんか寂しいんだよ。露伴のこと好きじゃなかったら、こんなに興奮してねえから」 あまりにも勝手すぎる言い分だと思ったが、その熱っぽい視線や囁きで愚かなことに僕の心は少しだけ揺れてしまった。こんなに切実に求められていると、振り払えなく なってしまう。 本当に恐ろしい奴だ。僕より4つも年下のくせに、鈍感くそったれ馬鹿のくせに。 「なんかもう俺、ガキだから。我慢きかねえっていうか、ひとりで盛り上がっちまって……ごめんな」 そう言うと仗助は、僕の額に唇を軽く押し当てると離れようとする。すっかりとどめを刺されてしまい、僕は我慢できなくなった。 「未練がましく、ぐたぐた言いやがって……僕が悪者みたいじゃないか。その……してやるよ、手で」 「え、まじで?」 「お前が押しつけがましいのがうっとおしいだけだ……出せよ、ほら」 仗助は未だに信じられない、というような表情で僕を見つめた後でズボンのジッパーを下げて、下着も太腿の辺りまでずらしていく。 すでに反り返っている仗助の性器を目の前にして、僕は息を飲みながら手を伸ばした。 |