閉ざされた視界 通学途中に事故に巻き込まれた仗助は、重傷を負った。 身体のほうは回復してきたが、傷付いた目だけはまだ包帯が取れないままだ。幸い失明には至らなかったが、再び見えるようになるまでもう少し時間がかかるらしい。 母親が友人達が頻繁に見舞いに来ており、入院生活でも寂しい思いをせずに済んでいるようだ。それでも生活に不便なのは変わらないので、ひとりでできる行動は 限られている。今まで見えていなかったものが急に見えなくなるのは、もどかしいはずだ。スタンドでは自分の怪我は治せないのだから。 病室のドアを開けると、ベッドから身を起こしている仗助の顔がこちらを向いた。しかし包帯に覆われた目では、現れた人物が何者なのかは分からない。 「誰っスか」 「僕だ」 「……先生?」 そう言って口元が緩んだのを見ながら、露伴はベッドに歩み寄ると近くに置いてあった丸椅子に腰かけた。さすがに今の状態では髪を整えるのは難しいようで、 いつものリーゼントではなく肩まで伸びた髪を下ろしている。めったに見られない髪型だった。 「どうだ、調子は」 「身体のほうは良くなったんスけどね、やっぱ見えないとすげえ不便で」 「だろうな。でもここは病院だし、何かあったらすぐに医者を呼べるから安心だろ」 「はあ……誰も来ない時って退屈すぎ。耐えらんねえ」 枕元には、MDウォークマンが置いてあった。ひとりの時の娯楽といえば音楽を聴くことくらいだろう。テレビは音は出るものの、画面は見えないので面白さは半減する。 毎日のように、放課後は家に来ていた仗助が居ないと調子が狂う。こんな時に限って仕事が早く終わってしまい、取材のために外出してみても何も頭に入ってこなかった。 こんなにも仗助の存在を求めている自分が恐ろしい。もうひとりでは生きていけなくなるのではないかと、苦く複雑な気分になる。 「何か欲しいものはあるか?」 この病院の中には売店があり、必要なものは大体そこで手に入れることができる。とはいえ今の仗助が買い物をするのは難しいので、誰かの手を借りなくてはならない。 必要以上に世話を焼くつもりはなかったが、見舞いに来たついでに代わりに何かを買ってくるくらいはしてもいいと思った。 「……何でもいいんスか?」 「限度はあるぞ」 「じゃあ先生、あんたが欲しい」 予想もしていなかった答えを聞いて、驚いた露伴は目を見開いた。そうしているうちに仗助の手が布団の上を探り、何かを求めるように動き始めた。 治りかけの傷がある大きな手に触れると、強い力で握られた。 心の底で、無意識に欲しがっていた温もりを感じて胸の鼓動が高鳴る。 もっとそばに来てくれよ、と言われて椅子から立ち上がりベッドの端に膝をついた。仗助の手は露伴の腰や背中へと動き、抱き締められる。 個室とはいえ、いつ誰が入ってきてもおかしくはないというのに。 こちらも気分が盛り上がってしまい、仗助の頬や耳に唇を軽く押し当てる。その後で唇を重ね合い、しつこいほど舌を絡めた。 力の抜けた身体を、仗助にしがみつくことで支える。 「今のあんた、どんな顔してんだろうな……」 「見なくていい」 「俺以外には見せないでくれよ」 言われなくても、他の人間とこういうことをするつもりはなかった。しかしそれは口に出さない。お前しかいない、という本音を知られるのは悔しいからだ。弱さを見せて しまうようで。 未だにプライドを捨てきれない自分は、誰かを好きになる資格はあるのだろうか。こんな気持ちになったのは初めてなので、考えたこともなかった。 口の中で、そこはまた大きく固くなっていった。歯が当たらないように吸いつくと、頭上から仗助の乱れた息の音が聞こえた。 「あんたはこんなこと、絶対やらねえって思ってた」 「失望したか?」 「いや……意外で何だか興奮した。もう気持ち良すぎ」 ズボンと下着を脱ぎ、それらを片足に引っ掛けた状態の仗助の股間にベッドの上で顔を伏せながら、そんな言葉を交わす。 一体何が自分をここまでさせているのか、分からなかった。 無理に要求されたわけでもなく、こちらから望んでしたことだった。舌や唾液を絡めながら口で愛撫しているうちに、仗助の性器は喉の奥まで塞ぐような勢いで勃起し始めた。 舌先で亀頭の割れ目を抉ると、そこから透明な雫が浮かび上がり溢れてきた。 仗助の視界が閉ざされているからこそ、こんな行為ができているのだと思う。見られてしまうのは、さすがに抵抗がある。 「今のあんたの姿を想像してるだけでもう、すぐにイッちまいそうだ」 「何だ、ずいぶん堪え性がないんだな。早漏かお前は」 「しょうがねえよ、俺は多感なお年頃なんだぜ?」 「知るかそんなの。どうでもいいから早く出せよ、くそったれ馬鹿が」 震える手は露伴の髪に触れ、頬へとたどり着く。 全て見えているこちらは有利だと思い込んでいたが、時間が経つにつれてそれは間違いだと感じた。 仗助のほうは見えない分感触で存在を確かめようとしているのか、いつもより執拗に身体に触れてくるのが、たまらなかった。 唾液と先走りで濡れた亀頭を咥えて強く吸い上げると、仗助は背中を逸らして大きく震える。そして短く呻いた直後、何の前置きもなく露伴の口の中で射精した。 慣れない味と感覚に動揺しながらも、時間をかけて何とか全て飲みこんだ。吐き出すこともできたが、あえて楽な方を選ばなかったのは静まらない興奮のせいだ。 何日も触れていなかった影響が、こんな形で表に出てきた。 「悪い、いきなり出しちまって……もしかして、飲んだ?」 「飲むわけ、ないだろう」 「だよな、やっぱり。でも充分だ」 仗助がこの嘘を見破ることはない。その暗く閉ざされた視界の先で、露伴が晒していた痴態も何もかも永遠にここで封じ込める。 やがてその包帯が取れて再び目が見えるようになった仗助の前では、またいつもの自分に戻ろうと思った。 |