それでも好きだよ





「え、露伴……今、何て」
「だから、ぼくは」

露伴は薄く笑いながら左手の甲を仗助に見せつけた。正確には、薬指にはまっている指輪を。仗助はとどめを刺されたと言わんばかりに呆然としている。

「お前には言ってなかったけど、実はぼく結婚してるんだ。妻とは別居中だけどね」
「だって今まで、そんなの付けてなかっただろ……」
「こちらにも色々あるんだよ、ガキには分からない大人の事情がさ」
「そ、んな」
「なあ仗助、これでもぼくのこと好きだって言えるか?」

泣き出しそうな仗助に顔と身体を寄せ、そっと囁く。その広い肩が震えているのが愉快すぎて笑い声が堪え切れない。黒い革の高価なソファーの上で、憎らしいほど生意気で 純情な高校生をいたぶる。癖になりそうなほどの快感とスリル。優位に立っていたいので、勃起しかけている股間が仗助に見えないように、身体の角度を上手く変えて隠す。
仗助に告白された数日前、今までの言い争いの積み重ねのせいでその気持ちが信じられなかった。どうせ億泰あたりとくだらない賭けでもしていて、こちらを陥れるつもり にしか思えず、露伴は素っ気なく拒絶した。背を向けても追ってこない仗助に複雑な気分になったが、今日の夕方に突然仗助がこの家を訪ねてきた。
あんたは信じねえだろうが、おれは本気なんだ。どうすれば分かってもらえるんだよ。玄関先で急に肩を掴まれて揺さぶられ、露伴はわけが分からなくなった。スタンドを使えばその本心を 確実に読み取ることができる。しかしそうしなくても感じていた、こいつは心の底から本気なのだと。
仗助をリビングに通した後、仕事部屋の机の引き出しを開けて小さな箱を取り出した。漫画の資料用に買った、シンプルな指輪を。それをためらいもなく左手の薬指にはめ、 再びリビングに戻った。結婚しているというのは嘘だ。仕事も波に乗っている今、そんな面倒なことはしたくない。そもそも、そこまで好意を持てるような生身の女が この世にはいないのだ。既婚者だと告白してみて、仗助はどういう反応を見せるのか興味があった。
膝の上に乗っている仗助の握りこぶしに手を添えて、軽く撫でる。誘うような意味深な動きで翻弄して、仗助の隠れた本性を暴きたい。限界まで追い詰められてこそ、人は 隠していた一面を晒す。スタンドを使ってしまえば味わえないので、じれったいがたまらなく楽しい。もっと遊んでやろうと思う。

「今でも、ぼくを欲しがってくれるのか? そこまで踏み込む度胸はないかな……」

唇に感じた、仗助の耳はかすかに赤く染まっていて熱かった。明らかに反応を示している様子を見て、露伴も更に勃起したものを隠しきれなくなる。
気を緩めた途端に押し倒され、ソファが軋む。指輪をはめた手に仗助の指が絡まり強く握られた。もう片方の手で股間を探られて声が漏れてしまう。拒むどころか腰を揺らして、 荒い愛撫を受け入れる。

「結婚してるくせに、おれにいじられて喜んでんの? 奥さんと別居してる間に欲求不満になったのか」

露伴のベルトを緩めた仗助はズボンの前を開き、下着の奥から反り返った性器を扱く。先走りをあふれさせながら、露伴は息を乱した。自慰の時よりも、比べ物にならないほど 深い快感に溺れていく。別居中の妻は最初から存在していないが、最近は仕事で忙しく性欲を発散させる暇がなかったのは事実だ。このまま絶頂まで導いてほしい。

「こういうのって不倫になるんだよな、どっかにいる奥さんには申し訳ねえけど……それでも、あんたが好きだ」

そんなもの本当はどこにもいないんだ、ぼくは何のしがらみもなくお前のものになれる。その言葉を飲みこんで、仗助の熱い囁きに酔う。
もし嘘をついていなければ、仗助は今のように欲望むき出しで向かってきただろうか。どこまで騙せるか分からないが、引き出した仗助の一面が意外すぎて、 それを味わえなくなるのは惜しいと思った。
仗助の手の中で射精し、ぐったりとした露伴の手から指輪が抜け落ちる。元々この指のサイズに合わせて買ったものではなく、資料としての役目を終えた今は仗助を騙すための道具でしかなかった。 いつか誰かと結婚して子供を作る未来を想像できない自分は、漫画を描きながら気まぐれに男とセックスをする、爛れた生活のほうが合っているのかもしれない。




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2012/3/18