別れ際の衝動 別れ際にこうして熱く求め合う行為は、いつの間に定着したのだろうか。 最初はただ、抱き合うだけだった。それは日が経つごとに盛り上がっていき、今では唇を重ねて舌を絡め合っている。乱れた互いの息が生々しい。 軽い挨拶程度のはずが、それどころではなくなっていた。 口を開けばきつい言葉ばかり出てくる自分は、この時のほうが素直になれるのかもしれない。 ようやく唇が離れた。必死で踏み込んでくるような仗助のくちづけは、決して上手いとは言えない。 他の相手とは経験していないので、人と比べてどうなのかは分からないが。 それでも終わった後は、いつも頭がぼんやりとする。16歳にしては完成されているような、制服に包まれた逞しい身体に縋りたくなる衝動を抑えた。 いつもならここで、玄関のドアを開けて出ていく仗助の背中を見送り、露伴はこの大きな家でひとりになる。時間が経つとどうしても薄れていってしまう、先ほどまで の余韻に浸りながら食事の支度をしたり、仕事に戻ったりするのだ。 しかし今日は違った。見送ろうとして顔を上げ、視線が合った途端に仗助は1度離れた露伴の身体を強く抱き締めると、今度は強引に奪うようなくちづけをしてきた。 口の中を、ぬるぬるとした舌が執拗に動き回る。別人のようなやり方に驚いたが、それ以上にどこからか生まれた淫らな気分に、身も心も支配されて言うことをきかない。 「帰るんじゃなかったのか」 「ああ、でも何だか急にまたしたくなっちまってさ……」 嫌だった? と耳元で囁かれて、どこか欲情を含んだその声にぞくぞくした。嫌ならスタンドを使ってでもとっくに拒んでいる。それをしなかったのはきっと、仗助を受け 入れることに抵抗を感じなかったのだ。 普段はじれったいほど優しいせいで、たまにこういう一面を見せられると自分らしくなく動揺してしまう。本当にどうかしている。 仗助の唇が、露伴の耳をゆったりと愛撫するたびにイヤリングが小さく揺れる気配を感じた。熱く痺れた頬も、震える息にも気付かれたくない。 これでは別れるどころか、余計に離れ難くなっている。互いに良くないことだと分かっていたが、制止すらできない。年上の自分がしっかりしなければならないというのに。 普通に仗助を家に帰すつもりなら、何もせずに見送ったほうがいいのではないか。名残惜しさを前面に押し出したような、中途半端なことをするから悪いのだと思う。 「あのさ……あんたって、なかなか言ってくれないよな」 「何を」 「好きだって」 「……それは」 好きじゃなければそもそも、こんなふうに触らせたりはしない。言わないというよりは、言えないだけだ。身体は素直に反応するのに、言葉で応えるのはうまくいかない。 少し前までは顔を合わせるたびに罵り合う仲だったせいで、完全に甘えることができずにいる。この気持ちは口に出すまでもなく伝わっていると思うのは、やはり傲慢だ ろうか。 「こうやって受け入れてくれてるし、今まではそれでもいいって思ってた。でも俺、欲張りになってちまったのかもしれねえ……気が向いた時でいいから、あんたの口から 聞きてえよ」 痛いほどまっすぐなその言葉に、胸を鋭く射抜かれたような気分になった。付き合い始めてから仗助が、ここまではっきりと露伴に何かを求めてきたのは初めてだった。 性的なことではない、好きだというたった一言。仗助の純愛路線への憧れは未だに続いているのか、恥ずかしいほど甘い響きを持つそれを欲しがっている。 しゃぶってほしいとか、中に出させろとか、むしろそういうもののほうがためらいなく応えられた。今すぐにでも。 「すっ……」 絞り出すような第一声に、仗助は驚いたように目を見開くと真剣な表情でこちらを見つめてくる。露伴の口から出てくる次の言葉を待っているのだ。 そんなに構えられては余計やりにくい。どれだけ待ち望んでいたんだと突っ込みたくなる。 やがて露伴は向けられている視線に耐えられずに俯くと、一呼吸置いた後でようやく再び口を開いた。 「き、だ」 最初よりかなり間を置いて発したその言葉に、目を丸くした仗助は口を半開きにしたまま何も返しては来なかった。しかし唐突に苦笑すると露伴と自分の額をくっつける。 こつん、という軽い音がした。 「今のってずるくねえ?」 「お前がしつこいから、言ってやったんだ。文句あるのか」 「ないけどよお……ま、いっか」 執拗なくちづけの余韻は、すでに薄れて消えていた。代わりに甘く穏やかな雰囲気に包まれ、こういうのも悪くないと思いながら仗助に身を委ねた。 |