禁断症状/2 「身体の具合はもういいのか?」 テーブルの上に置かれた本を受け取った僕に、承太郎さんが問いかけてきた。 向かいのソファに腰掛けて、僕を見ている。何だか最近、この視線に少しだけ弱い。 「朝まで仕事をしていることが多いので、多分疲れていただけです。心配かけてすみません」 嘘をついた。本当のことなど言えるわけがない、あんなふざけた病気を彼が信じてくれるとは思えなかった。 昨日の夜、借りていた本を返したいと言う承太郎さんから電話がきて、僕はこのホテルの部屋を訪れた。最初は本を持って僕の家に行くと言われたが、この日はちょうど 外に出る用事があり、それを済ませた後で立ち寄ったのだ。今日は珍しくあの発作が起きていない。このまま治まってくれればどこに行くにも安心できるのに。 「一応、病院に行ってみたほうがいいんじゃねえか」 「そんなに大げさなものじゃないですよ、大丈夫です」 その辺の医者が、僕の病気を治せるわけがない。突然来る発作を鎮められるのは、ジョースター達の肌の温もりや触れられた感覚だけだ。本当に厄介だが。 こんな状態が一生続くのだろうか。日増しに症状が重くなっている気がして、不安ばかりが僕の胸に広がっていく。 承太郎さんと目が合った瞬間、僕はおかしな気分になった。心臓が今までとは違う音を立てて、身体をかすかに痺れさせる。部屋の中でふたりきりになっているのが悪い。 他に誰か居れば問題なかったかもしれないが。 「僕、そろそろ帰りますね」 「……待ってくれ」 ソファから立ち上がった僕を、低い声が呼び止める。胸がざわつく。 「いい機会だ、言っておきたいことがある」 「何ですか、急に」 「この前あんたの家に行った時のことを、俺は忘れようとしていた。そうしたほうがいいと思ってな。だが、無理みてえだ」 帰りたい。このまま何も聞かずに部屋を出たい。この先を聞いてしまったら、絶対に取り返しのつかないことになる。しかしその目に射抜かれていると、足が上手く動かない。 「あんたが好きだ、露伴」 まさかこの人が、僕にそんなことを言うなんて。一体どうすればいい? 僕が動揺しているうちに承太郎さんはこちらに歩み寄り、正面に立つ。逃げられない。彼は既婚者という自分の立場を分かっている上で、告白なんかしてきたのか。 こんな時に突然、僕の身体が熱くなった。息も苦しい。立っていられずに僕は絨毯の上に膝をついた。 「おい、どうした」 「何でもな……」 「医者を呼んでやる、大人しくしてろ」 それだけはダメだ。電話をかけに行こうとした承太郎さんの手を掴み、引き止める。 「呼ばないでください、お願いします」 「じゃあどうすりゃいいんだ、黙って見てろって言うのか」 「そばに……居てほしい」 とにかく医者を呼ばれたくないので、僕は発作を落ち着かせるために承太郎さんにしがみついた。首に両腕をまわして、呼吸を整える。完全に楽になったわけではないが、 先ほどよりは苦しさが和らいだ。深く息をついて、顔を上げる。 「落ち着いたか?」 「はい……」 それでもまだ、身体の熱さは残っている。頭がくらくらして何かを冷静に考えることができない。全身がうっすらと汗ばんでいるのを感じる。 これをどうすればいいのか、 僕はもう分かっていた。このままでは医者を呼ばれるからと、自分に言い訳しながら僕は承太郎さんにくちづけをした。舌は入れていないが、しっかりと唇を重ねる。 緊張で震える指で、承太郎さんの手に触れる。欲しかった温もりに涙がこぼれそうだった。 「僕を、助けてくれませんか」 「先生?」 「好きって言ってましたよね、僕のこと」 耳元にそう囁くと、今度は承太郎さんのほうから唇を寄せてきた。濡れた音と共に舌を絡ませ、服の裾から厚い手が潜り込んでくる感覚に気分が高まった。 ベッドに仰向けになって足を開いている僕は、長い中指が後ろの穴に沈んでいくのを見て身震いをした。不意打ちで指を曲げられて、声を上げてしまう。 「あ、あっ……そこ、いいっ……!」 「まだ指1本だぜ、感じすぎじゃねえのか」 「気持ちいいとこに、当たってるからぁ……っ」 「もう勃ってやがる、気の早い奴だな」 喘ぎながら腰を揺らす僕の性器を、承太郎さんが強く握る。冷たい目で見下されていると興奮して、すぐにでもイキそうになる。この男に狂わされたい。身も心も全て。 こんなに気持ちいいのに、どうして僕はずっと我慢していたのだろう。指で攻められているだけで僕は先走りを垂れ流して、恥ずかしげもなく痴態を晒す。 中を拡げられていくうちに、指だけじゃ物足りなくなる。承太郎さんの凄いやつで、奥まで突っ込まれて壊れるくらいぐちゃぐちゃにされて最後は熱くて濃い精液を注いでほしい。 大好きなジョースターの匂いを嗅ぎながらイッてしまえば、感じていた苦しさなんて消し飛ぶ。相手が結婚してたっていいじゃないか、僕を好きだって言ったのは承太郎さんのほうだろう? 好きなら気持ち良くしてくれよ。 酷い言葉で罵られながら、動物みたいに腰を使って激しいセックスがしたい。 「これが欲しかったんだろ、くれてやるよ」 指を抜いた承太郎さんが、僕の期待通りの大きさの性器を拡げた穴に押し当て腰を進めた。指とは比べ物にならないくらいの存在感に、僕の理性が崩されていく。 「ふぁ……っ、すごい! もっと奥まで、はやくっ……!」 唾液が口の端から流れていくのも構わずに欲しがると、承太郎さんは抱え上げた僕の足を自身の両肩に乗せた。すると結合部に彼の体重がかかり、更に奥深くまで性器が入り込んでくる。 こうして身体を折り曲げられている体位では、僕と承太郎さんが繋がっているところがよく見える。いやらしい眺めに、僕は息を乱す。 僕の両脇に手をついた承太郎さんと、近い距離で目が合う。腰を上下に動かして深く突いてくる、彼の額に浮かぶ汗の滴が流れ落ちていくのを、僕は快感で霞む意識の中で眺める。 「もうだめ、いくっ……」 やがて貫かれたまま、僕は自分の腹や胸に精液を飛び散らせる。承太郎さんは達して力の抜けた僕の身体を揺さぶり続け、小さな呻きと共に僕の中で射精した。 ふたり分の汗が染み込んだシーツの上でセックスの余韻に浸っていると、この行為が癖になってしまいそうな予感がした。 「まさかこんな趣味があるとは思わなかったよ、露伴君」 頭上からの穏やかな声を聞きながら、僕はまだ勃起していない性器を咥え込む。 承太郎さんに抱かれた翌日、また身体がおかしくなった僕は町で会ったジョースターさんに声をかけた。僕と遊びませんか、と囁くと彼は少し遅れてその意味を理解してくれた。 ベッドの端に腰掛けているジョースターさんが、足元で膝をついて亀頭を吸う僕の髪をそっと撫でる。その手の動きは、とても優しい。 高齢でもまだ男であることには変わりはない。僕の舌や唇の刺激を受けて、ジョースターさんの性器はゆるやかに勃ち上がってきていた。彼はズボンのジッパーを開けている だけで服は着たままだが、僕はボタンを開けたシャツ以外は何も身に着けていない。こうして性器をしゃぶりながら僕も勃起しているのが、すぐに分かってしまう。 「気持ち、いいですか?」 「君が一生懸命やってくれてるから、とても気持ちいいよ」 「んっ……」 褒められて嬉しくなった僕は、亀頭に浮かんできた先走りを舌先で舐め取る。 「わしみたいな年寄りが相手だと、君は満たされないんじゃないかのう?」 「そんなことないですよ、すごく楽しいですから」 「そうかそうか、それなら余計なお節介だったようじゃな」 「え?」 申し訳なさそうに言うジョースターさんの目線を追って背後を振り返った瞬間、僕は唾液に濡れた性器に指を絡めたまま凍りついた。 いつの間にか部屋のドアは開いていて、その近くには承太郎さんと仗助が立っている。 涼しい顔で壁にもたれている承太郎さんの横で、僕を見ている仗助は恐ろしいくらいの無表情だった。 |