Again/2 「露伴ちゃん、もしかして恋してる?」 「は……っ!?」 「あらら、やっぱり」 コンビニと薬局の間にある小道。そこで鈴美と普通に話をしている最中、まるで全てを見透かしたような鋭い指摘をされて僕は固まってしまった。 地図上には存在しないこの場所は、入るのは簡単だが出るのは少し厄介だ。しかしすでに何度も通っているので、いつの間にかすんなりと出られるようになっていた。 鈴美に会いたくなった時は、昼でも夜でも構わずにここを訪れる。いつでも会いにきてね、という言葉に嘘はなく、鈴美は気まぐれに現れる僕を快く迎えてくれる。 あまり考えたくないが、いずれ彼女もこの場所から去って行く。会いたい時に会える日々は、永遠のものではない。 そんな存在が、僕の中には鈴美の他にもあともうひとり居る。 「久し振りに顔を出してみれば……からかうなよ」 「からかってなんかないわよ。根拠だってあるもの」 「何だよ根拠って、やけに自信満々じゃないか。早く言ってみろよ」 動揺しているのがばれないように、僕は口元に笑いを浮かべながら問い詰める。努力はしたつもりだが、上手く表情を作れている自信は全くない。 鈴美は余裕たっぷりに人差し指の先をこちらに向けると、漫画よ、と言った。 「露伴ちゃんの漫画、そこのコンビニで毎週立ち読みしてるんだけど。主人公に恋をしている女の子の描写が、最近やけに濃いのよね。生々しいっていうか」 「ば、バカバカしい……何を言うかと思えば」 「でも今まで、こういう描写って出て来なかったし。何か特別なことがあったのかなって」 僕はただ、話の展開に必要だったから描いただけだ。確かにあの口うるさい担当者が、最近描いた恋愛関連のネタには珍しく一発OKを出してきた。先生ってこういうキャラも ちゃんと描けるんですね意外です、と褒めてるのかどうなのか微妙なことまで言われたくらいだ。 「もう大人なんだし、そういう相手が居てもおかしくないものね」 「おい、勝手に話を進めるなよ」 「あたし、嬉しいの。露伴ちゃんはお仕事も頑張っていて、しっかり前を向いて進んでる。誰かを好きになるって、素敵なことよ。今の露伴ちゃんを見ていると、あなたを 守れた自分を誇らしく思うわ」 そう言って微笑む鈴美を見て、僕は目を伏せた。 今の僕は、本当に前に向かって進んでいると言えるだろうか。信頼している鈴美にも言えない、承太郎さんとの関係。一緒に過ごしていると心臓が落ち着かなくて、それでも 離れられなくて、抱かれている時は我を忘れるほど気持ちいい。しかしそれも、長くは続かない。 将来を誓い合うことなどできない、いつ切れるか分からない脆く細い糸で繋がっているような、単なる遊びで片付けられてもおかしくはない、そんな関係だ。 全てが終わってしまった時、僕は一体どうなるんだ? 「……どうしたの? 露伴ちゃん」 僕の気持ちの変化に気付いたらしい鈴美が、心配そうに見つめてくる。これ以上ここに留まっているとどうにかなりそうだったので、僕は鈴美に軽く挨拶をして背中を向けた。 約束もなく部屋を訪れた僕を、承太郎さんは嫌な顔をせずに中に入れてくれた。 「いきなり来てしまって、すみません」 「いや、構わねえ。今日は出掛ける予定もないしな」 大きなソファに並んで腰かけていると、すぐに触れられる距離をどうしても意識する。急に押しかけておいて何も言わなくなった僕を、どう思っているだろうか。 俯いていても、承太郎さんの視線を感じる。こうして見られているだけで、たまらない気分になっていく。 その逞しい肩に寄り添い、温もりを確かめる。これは夢なんかじゃないと、肌で感じたかったのだ。 「こうしていると、安心するんです……温かい」 恋人同士のような甘い雰囲気に浸っていると、承太郎さんの手が僕の肩に触れて強い力で抱き寄せられる。 「あんたの好きなようにさせてやるつもりだったが……悪い、我慢できねえ」 「我慢しなくても、良かったのに」 深いくちづけの後、大きな手のひらが僕の服の裾から中へと潜り込む。背中を直接撫でられ、その感覚に僕は息を震わせた。 |