愛にピアス/1 「自分で開けるのが怖いのか」 「違いますよ!」 買ってきたばかりのピアッサーを眺める承太郎の手からそれを奪おうとしたが、あっさりかわされて腹が立った。 耳にピアスホールを開けたいので協力してほしい、と電話したのが昨日の夜だった。やるとしたら寸分のずれも許さず完璧な ものにしたい。そう考えた露伴は、精密動作性の高いスタンドを持つ承太郎を頼ることにした。仕事の正確さなら、その辺の医者よりも頼りになる。 両耳それぞれの分、ふたつのピアッサーを買った後でこの部屋を訪れた。今までは関心がなかったので、ファーストピアスが内蔵されていることも先ほど初めて知った。 「だって、面白いじゃないですか」 「あ?」 「あなたが僕の身体に、穴を開けるなんて」 「下の穴だけじゃ、物足りなかったか」 「すごい切り返しですね、予想外だ」 承太郎は見かけによらず、たまにこういう種類の発言をするので驚かされる。海洋学者というお堅い仕事をしていても、やはり男なのだと改めて思った。 雑談はこのくらいにして、早速ここに来た目的を果たすことにする。ピアスホールを開ける部分を消毒した後、そこに承太郎がピアッサーをあてた。 いよいよだ、と心の奥で声がする。いざとなると緊張してしまい、心臓が妙にうるさい。 「……いくぞ」 いかがわしい行為をするわけでもないのに、感じてしまいそうなこの声が好きだ。 目を閉じて痛みが来る瞬間を待ったが、なかなかそれが訪れない。待ちきれなくなり目を開けると、承太郎が見ていたのは肝心の耳ではなく顔のほうだった。 「どこ見てるんですか」 「俺に初めて突っ込まれる前と、同じ顔だ」 まさにその時の状況を思い出した露伴は、一瞬で顔が熱くなる。そういえば承太郎と初めてセックスをしたのもこの部屋で、多分一生忘れられない経験をしてしまった。 自分は後ろから挿入されたほうが感じやすいと知ってからは、自然にその体位を求めてしまう。涙が出るほど気持ち良くて、気が付くと癖になっていた。 しかし今は、そんなものに浸っている場合ではない。一度引き受けたのなら、真面目にやってもらわないと困る。 「悪い、興奮した」 露伴の耳からピアッサーが離れ、代わりに承太郎の指先が触れた。意味深にそこを愛撫され、身体がぞくぞくと震える。もう片方の耳を濡れた舌が這い回り、音を立てて 吸われた。 堪え切れずに小さく声を上げると、唇が重なる。もう完全に本来の目的から外れた展開だったが、次第に濃密になっていく空気がたまらない。 会えば必ずセックスをしてしまう。突然告白されて、最初は既婚者の男相手に動揺したが、結局流されてからはずっとこの調子だ。 どんなに身体を繋げてもいつかは別れる時が来る、永遠に自分のものにはならないと分かっていても、顔を合わせれば勝手に身体と心が反応する。 女と付き合った経験もないのに、それよりも先に男に抱かれる快感を覚えてしまった。 今後まともな恋愛はできないかもしれない。 腰掛けていたソファに両手をついて、尻を突き出した体位で承太郎の性器を受け入れた。 奥まで届いている気がして、やはりこれが一番感じる。腰を掴まれて激しく揺さぶられている中、 互いの肌がぶつかる音と荒い息が聞こえてくる。自身の性器に触れて扱いてみると、すでに勃起していたそこはだらしなく先走りを垂れ流していた。 理性を飛ばして喘ぎ続けていた時、承太郎は動きを止めて背中に覆い被さってきた。性器が奥へと強く押し込まれて、今までとは違う声が出る。 無意識に腰を揺らした途端、耳に鋭い痛みが走った。 「っ、ああ!」 「もう一回だ」 残されたほうの耳にも、同じような痛みを感じて混乱した。がちっ、という音を左右で二回聞いてようやく分かった。まさかセックスの最中にピアッサーを使われるとは思わなかった。 きちんと向かい合っていた時は、散々じらしていたくせに。 露伴が苦痛の声を上げると、中で承太郎のものが更に硬さを増した。そういう性癖でもあるのか。 「こんな、時に……信じられな、い」 「このほうが面白いだろう?」 そう言うと承太郎は、用は済んだとばかりに再び露伴の奥を犯してくる。まだ消えない痛みと快感が混ざり合う、味わったことのない感覚。それでも先走りで濡れた性器は萎えず、 やがて露伴はソファに向かって精液を散らした。 承太郎よりも先に絶頂を迎えたのは、これが初めてだった。 行為の後、洗面所の鏡で耳を確認してため息をついた。あの不安定な体勢からでも、ピアスは予定通りの位置でしっかりと耳を貫通していた。スタンドの力を使ったのかどうかは 分からないが、期待通りの正確さだ。無茶すぎる状況じゃなければ、素直に感謝できた。 ピアッサーを買う時には気にしていなかったが、内蔵されていたこのピアスの色は承太郎が着けているものに似ている。いや、ほぼ同じ色だ。 部屋に戻ってこのピアスを見た承太郎は、一体どんな反応をするだろう。 ただの偶然だ、別に狙ったつもりはなかった。からかわれた場合に備えて、今からいくつも言い訳を準備した。 |