自分との駆け引き 学校帰りに訪ねた古い宿の一室で、赤木はひとりの男と再会した。 6年後の未来からきたというその男は、顔立ちも雰囲気も何もかもが赤木そっくりで、違うところといえば肩幅も身長も大人のものに 限りなく近いということだ。あとは暇さえあれば煙草を吸い、部屋はむせ返りそうな苦い匂いに満ちていた。 馬鹿げたことに、赤木とこの男は同一人物なのだ。こんな話を信じるほど赤木は夢見がちな子供ではないはずだが、誰にも打ち明けて いないはずの赤木の過去を知っていたり、これまでの対戦相手と向かい合った時や勝負中の心境などを細かく言い当てたりと、もし全くの他人なら ここまで語れるはずがない。 お前は過去の俺だと言い切った男の話を、悔しいが信じるしかなかった。 男は低く笑いながら煙草の先を灰皿に押し付け、寝転がっていた畳から身を起こした。 「久しぶりだな、また俺に逢いたくなったのか?」 「あんたが元の時代に戻れないまま、くたばってるんじゃないかと思ってさ」 わざわざ来てやったんだよ、と余裕を見せながら言うと腕を引っ張られて抱き締められた。 赤木は男から離れるために突き飛ばそうとしたが腕力では敵うはずもなく、無駄な努力だった。諦めたところで耳に男の短い息が触れて、 反応した赤木の肩が小さく跳ねた。男を喜ばせるだけだと分かっているのに、不意打ちを食らってしまったのだ。 「用は済んだから帰るよ、離してくれない?」 「俺と遊んで行かねえのか、この前みたいに」 男は赤木の服越しに背中から腰、そして尻の辺りをゆっくりと撫でていく。初めて出逢った夜の性交を思い出して身体の奥が熱くなった。 「それとも、あの人以外の男にはもう抱かれたくないってことか」 「……何それ、くだらない」 「どうせ俺とお前は同じ人間なんだし、自慰だと思えばいいんだよ」 「それじゃ、あんたが俺を抱いてる時も」 赤木の問いかけを無視した男の大きな手が、シャツの裾から入ってくる。拒否することもできないまま男の両肩を強く掴んでいると、 「入れなきゃいいんだろ」 「え?」 「いいものがあるんだ、見せてやる」 赤木から離れた男は、使い込まれた感じの鞄から何かを探り出して持ってきた。解放された隙に逃げることもできたはずだが、今はそうしなかった。 子供心に芽生えた、自分と同じ匂いのする男に対する好奇心に負けたのだ。 男は性器を挿入せずに終わらせることを約束して、赤木の服を全て脱がせた。途中で約束を反故にしてくる可能性もあるが、 未来の自分自身が言うことなので、とりあえずは信じてみることにした。同じように服を全て脱いだ男の肩に刻まれた、大きな傷跡を眺めながら。 持ってきた容器の中身を指に絡めると、男は全裸になった赤木の身体に塗り始めた。透明で粘り気のあるそれは、水飴にも似ていた。 胸元に塗る時、両手で乳首を摘まんで刺激を与えてくる。息を震わせ、声が出そうになるのを堪えた。 「身体に悪いものじゃねえから、安心しろよ」 そう言って男は赤木の下半身に手を進めてきた。まずは太腿の内側、そして小さな性器を手のひらで何度か擦った後、固く閉ざされた後ろの部分にも広げた。 指先で丁寧に慣らしていく動きに、膝立ちになっている赤木は力が抜けて座り込んでしまいそうになる。胸元にたっぷりと塗られた液体が、腹の辺りに垂れてきた。 意味深な笑みを浮かべた男は赤木の背中に腕をまわして、畳に倒れこんだ。 そんなつもりではなかったはずが、雰囲気に流されて男と深いくちづけを交わした。 こうして密着していると赤木だけではなく、男の身体も粘り気のある液体にまみれていく。 何故かそれが愉快で、赤木は自らの胸を何度も男に擦り付けた。 そうするたびに男の性器が硬く勃ち上がり、赤木が感じる快楽も増していった。 「さっき教えた通りに動いてみな」 その言葉に従い、赤木は男の引き締まった太腿に腰を落とすと小さく前後に動かした。 くちづけの時と同じく、液体が擦れて卑猥な音がする。 「あんたはこれが気持ちいいの?」 男は何も答えず、楽しそうな顔でこちらを見ている。それ以上問い詰めることはしないまま続けているうちに、男の性器が限界まで反り返っていた。 しかし理性を崩して襲いかかってくる様子はない。ただ冷静に、赤木の動きを眺めている。挿入はしないという約束を、ちゃんと守っているのだろうか。 向けられる視線から逃れるように触れた男の性器は、先端の割れ目から滴が浮き上がって溢れかけている。 「ね……辛くない?」 「さあな」 「ごまかすなよ、嫌な奴」 くちづけの時に感じた、柔らかい舌の感触。重なった胸元、正体の分からない液体が立てる濡れた音。思い出すだけで無意識に身体が疼いて止まらなくなる。 赤木は男の股間に顔を伏せて、浮かんでいる滴を舐め取った。割れ目を舌先で抉っていると、男は少しだけ呼吸を乱して赤木の髪に優しく触れた。 もう堪えきれなくなり、赤木は身を起こす。そして先ほど慣らされた部分を指で広げながら男の性器に腰を落とそうとした時、こちらを見ている男の笑みが更に深くなった。 男は赤木に挿入しないと約束したが、赤木がその気になって自分から性器を飲み込もうとするのを待っていたのだ。 全て赤木の意思で行われるのならば、男が約束を破ったことにはならない。 そんな企みに気付いたものの、すでに手遅れだった。男を欲しがって広げた部分は、このまま意地を張っていては永遠に満たされない。 「……あんた、本当にずるいよ」 男に届いたか分からないほどの小さな呟きは、猛った性器が奥まで届いた瞬間に甘い喘ぎ声に変わった。 |