共犯者





これは自慰だ、それ以外の何物でもない。
とろけそうな意識の中、赤木は胸の内で自分に言い聞かせるように呟いた。
先ほどまで性器を咥えていた名残で唇を薄く開いたままの赤木の頬に、生暖かくどろりとしたものが放たれて流れ落ちていく。
大きな手が、精液を全て受け止めた赤木に触れて優しい手つきで髪を撫でた。 視線を上に向けると、やはり赤木と同じ顔をした男が静かに笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。
相手は数年後の自分自身だと分かっていながらも性交を繰り返し、身体の奥まで深く繋がる。 現実では決して有り得ないはずの異常な行為は、まだ見た目に幼さの残る赤木を快楽へと導いていた。


***


再び目覚めた時には、いつの間にか朝を迎えていた。
そろそろ学校へ行く時間のはずだが、遅くまで続いた男との性交で疲労しているせいか身体が思い通りに動かない。 元から気乗りしない日は休みがちなので、教師も他の生徒達も今更何も思わないだろう。
寝返りを打つと、布団の外では先に目覚めたらしい男が煙草を吸っていた。晒されている裸の上半身は、今の赤木よりも筋肉がついていて引き締まっている。 中でも右肩に刻まれている大きな傷跡は、かなり目立つので視線が無意識にそこへ動いてしまう。その傷がいつ、どのような経緯で付いたものかはまだ分からない。

「……あんた、いつから起きてたの?」
「お前より少し早いだけだよ、寝顔だけは無防備なんだな」

身を起こした赤木に気づいた男はからかうような口調で言い、空いている手を伸ばしてきた。長い指は頬に触れた後、そのまま唇へと動いた。 その指先を舐めてやると、男は小さく笑った。ようやく俺に懐いたのか、と呟きながら。抱かれている時以外は常に突っぱねるような態度を取っていたので、 赤木の行為を珍しく思ったらしい。
赤木は男に対して、以前よりも警戒することなく接していた。全てにおいて自分よりも格上の相手なのだ、こうして 付き合ってみるのも面白いかもしれない。男は元々この時代の人間ではなく、いつ消えてもおかしくないというあまりにも脆い存在だが。
唇を重ねるだけの軽いくちづけを交わすと、赤木は男に抱き寄せられる。裸の胸の奥から伝わってくる心音は、男が幻の類ではないことを確かに示していた。
この時代に迷い込む前に男は、一生の内で再びあるかどうか分からないくらいの刺激的な勝負をしたと言っていた。戦ったのはとんでもない強運と狂気の持ち主で、 紛れもなく同類だと認めた相手。あの市川と戦った夜よりも熱く面白い勝負ができるのなら、一刻も早く会ってみたい。期待は高まるばかりで、待ちきれない。

「学校、行かねえのか?」
「行く気分じゃない」
「まあ、いいけどな……好きにしろよ」

男は赤木を責めない。必要以上に干渉してこないのも、心地良かった。
油断していると酷い目に遭わされそうで、ひたすら厄介な相手だと思っていた。赤木が嫌がるのを見ているのが楽しいという男に、丸め込まれないように警戒していた。
しかし今は古い宿の一室、扉を開けた先にこの男が居ると、不思議な安堵感を覚える。まさか自分は、いつか来るはずの別れを恐れているのだろうか。

「今度、俺と一緒にあの人の家行かない?」
「俺とお前が揃って行ったら、びっくりして腰抜かすんじゃねえの」
「その様子を眺めるのが、面白いんだろ」

抱き合ったまま、赤木と男は同じ調子で低く笑う。次に来た時もこの男に会えたら、本当に実行してみようか。身体だけではなく気持ちまで重なると、愉快な気分になった。




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2007/9/10