果実の味





「市川さんどうしたの、その葡萄」

風呂から出たらしい赤木がそう言いながら近づいてくる。足音は市川のそばで止まり、畳に座り込んだ気配を感じた。
卓袱台には、皿に盛られた葡萄が置いてある。赤木が風呂に入っている間に隣に住んでいる子供が訪ねてきて、良かったら食べてくださいという言葉と共に置いていったものだ。
しっかりと親のしつけが行き届いた、あの礼儀正しい子供は小学校を出たばかりの少年だと聞いている。同じ歳くらいの赤木も、せめてあのくらいの愛想があれば。
葡萄はひとつひとつの粒が大きめで食べ応えがありそうだった。市川だけでは食べきれないが、腹を空かせた学校帰りの赤木が押しかけてきたところなので丁度良い。

「風呂を使わせてくれた礼に食べさせてやろうか、おじいちゃん?」
「気色悪い呼び方をするな、お前ひとりで食ってろ」

拒否した後で手に取った煙草に火を点けようとした時、唇に冷たいものが押し付けられた。 それが皮を剥いた葡萄だと知り、仕方なく口を薄く開ける。咀嚼すると甘酸っぱく瑞々しい味が舌の上に広がった。

「美味い?」
「ああ」

そう言うと再び皮を剥いた葡萄が唇に触れた。こうしているとまるで、親鳥から餌を貰う雛鳥になったような気分だった。 確かに自分は視力を失っている身ではあるが、葡萄の皮を剥いて食べるくらいは他人を頼る必要はない。

「赤木、もういらねえよ」
「分かったよ、じゃあ最後の一粒な」

やけに素直に納得した赤木は、何故か市川の首に両腕をまわしてきた。清潔な石鹸の匂いを至近距離で感じる。
葡萄が口の中に押し込められた直後、赤木の舌まで入り込んできて驚く。両方の腕が塞がっているので、最後の葡萄はきっと口移しで与えられたのだ。
くちづけどころか、何度も性交を繰り返してきた関係なので今更ためらわない。回数を重ねるごとに巧みに動くようになった赤木の舌を、存分に絡め取って翻弄してやった。
長いくちづけを終えた頃には、市川の口の中からは葡萄の味はすっかり消えてしまった。赤木は市川に密着したまま息を乱し、離れようとはしない。
その身体に触れると、赤木はまた勝手に持ち出してきたらしい市川の浴衣を身にまとっていることに気付いた。よほど気に入っているのかどうかは知らないが、本当に懲りない奴だ。
前の合わせ目から両手を潜り込ませ、畳に膝をついている赤木の太腿から腰までゆっくりと撫で上げていく。言葉に出して指摘はしなかったが、赤木は下着を穿いていなかった。

「いつでも準備は出来ているというわけか」
「何のことかな……俺、子供だから分からないよ」

普段は減らず口で生意気だが、都合の良い時だけ子供ぶるのはいつものことだ。意味深な甘い声で答える赤木の尻に触れ、まだ固く閉ざされた部分を指先で解し始める。 赤木は小さく声を上げ、指が深い場所へ沈んでいくたびに淫らに腰を揺らした。

「指やら何やらを突っ込まれて腰を振るような子供は、多分お前だけだぜ」
「まあ、そうだろうね。他の奴らと同じでいようなんて思わないし」

そろそろ入れてよ、と囁きながら赤木は布地越しに市川の性器を強く扱いてくる。 実は少し前からすでに硬く勃ち上がっていたのだが、嫌な気分ではないのでやりたいようにさせる。

「ね……終わったらさ、今度はあんたが食べさせてよ」
「葡萄のことか?」
「あんたに尽くしてばかりで、まだ一粒も味わってなかったからさ」
「なら、好きなだけ食わせてやるよ」

終わってもまだ、物を食えるような余裕があればの話だが。
心の中でそう付け加えると市川は赤木を仰向けに寝かせ、細い両足を大きく開かせた。




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2007/8/19