甘く危険な秘め事 帰宅して部屋に入り、雪を払い落としてもまだ重いコートを脱いだ。 もう何年も着ているものだが、外見がどうなっているかは分からないので破れない限りは着続けるだろう。 出掛ける前まで着ていた浴衣を求めて手をさまよわせたが、見つけられなかった。 誰かが勝手に持っていったのだろうか。雇っている家政婦が洗濯をしているのかと思ったが、今日は来ないはずなので有り得ない。しかもこんなに夜遅い時間では、 来ていたとしてもとっくに帰っている。もう少しで日付が変わる時間なのだ。 眉をひそめて苛立ちながら浴衣を探していると、何かにつまずき体勢を崩しそうになった。それは人の足に似ており、そう考えた途端に嫌な予感が市川を襲う。 軽く蹴飛ばすと、短い呻きが聞こえてきた。 「わしが帰るまでには出て行けと言ったはずだろう」 「んっ……もう帰ってきたの?」 随分早いじゃない、と気だるそうな声で呟いたのは間違いなく赤木だ。頻繁に出入りしているせいか家政婦にも顔と名前を覚えられ、もはや馴染みの存在となっている。 関係を訊ねられてもヤクザの賭博麻雀で出会った因縁の仲だとは言えず、仕方がないので孫ということにしていた。 家政婦や客の前での赤木は市川を、おじいちゃん、と呼んでわざとらしく甘えてくるのが腹立たしい。人前では赤木を邪険に扱えないと知っている上での言動に違いない。 しかしこうしてふたりきりになると、素の態度で向き合うことができる。色々な意味でやりたい放題というわけだ。 「お前、わしの浴衣見かけなかったか」 「そこに投げ捨ててあったから、ちょっと借りた。後で洗って返すから違うの着てよ」 赤木は市川の浴衣を勝手に持ち出しては、自分のもののように身にまとう。本当に図々しい奴だ。着た後は責任を持って赤木に洗わせることにしているが。 ずっと制服を着ていればいいものを、老人が長い間着古した浴衣のどこをそんなに気に入っているのだろうか。全く理解できない。 「さっさと返せ泥棒小僧が」 「あ、今はだめだって……」 珍しく動揺したような口調にも構わずに浴衣を剥ぎ取ろうとして、赤木を仰向けに転がすと青臭い匂いが鼻をかすめた。 ゆっくりと、赤木の足をたどって股間に触れる。市川の動きを遮ろうとする赤木の手を振り払って性器に指を絡めると、先端にはぬるぬるとした滴が浮かんでいた。 それは浴衣にも飛び散っているようで、思わず舌打ちをした。 「やけに渋っていると思えば、こういうことか」 「そんなつもりじゃなかったけど、あんたの匂いを感じてたら我慢できなくなってきてさ」 「人の匂いだけで発情しやがったのか、とんでもねえ淫乱ぶりだな」 市川が帰宅した頃にはもう達しており、後始末もせずに疲れて眠っていたらしい。赤木が浴衣を汚すことは珍しくなかったが、それは性行為の末に精液や汗によるもので、 まさか自慰をして汚すとは思ってもいなかった。 「いけないガキには仕置きが必要か? ん?」 射精し終わって柔らかくなった性器を何度か扱くと、赤木の腰が小さく揺れた。まるで行為の最中のように震える息遣いを聞いて、薄暗い興奮を覚えた。 「俺、仕置きってされたことないんだ……」 「それは意外だな、大人の言うことを聞く素直で従順な子供にも見えねえが」 「もし俺がそんな子供だったら、一生あんたと出会うこともなかっただろうね」 赤木が麻雀に目覚めたのは、車を走らせ崖から海へ落ちた後で深夜の街をうろつき、川田組が出入りしている寂れた雀荘に入ったのが始まりだったという。 確かに仕置きの必要がないような子供なら、そんな状況にはならないはずだ。こんな乱れた生活をしていて、親は何も気にしないのだろうか。 「ねえ、どんな仕置きをしてくれるの?」 「褒美じゃねえんだ、嬉しそうに言いやがって」 「痛いのよりは、気持ちいいほうが好みなんだけど」 「それじゃ仕置きにならねえだろ」 囁き合うような距離で言葉を交わし、互いに小さく笑った。代打ちとしての生活を台無しにされて憎んでいたはずなのに、いつの間にか生まれた甘い雰囲気に少しだけ 戸惑った。これも赤木のペースに上手く乗せられているのか。 人前では孫として接し、ふたりきりの時は性行為の対象として扱う。身体を重ねて貪り合っているところを赤木は誰に見られても構わないと言っていたが、 その1番可能性の高い家政婦に目撃されたら、腰を抜かしてもう来なくなってしまうかもしれない。初対面の際に紹介した通り、赤木を市川の孫だと信じているのだから。 しかも人前では気味が悪いほど素直で礼儀正しい赤木のことを、かなり気に入っているようだ。こうして老人相手に足を開いて淫らに喘ぐ13歳の少年を。 壁に両手をつかせて、浴衣の裾を腰の辺りまで捲り上げる。痩せ気味で小さな尻が、下着を穿いていないせいですぐに露わになった。 「色気のねえケツだな、もう少し肉付けろ」 「あんた、男の俺に何を期待してるわけ? 肉が付いてるのがいいなら、女でも買えば」 「あいにく、わざわざ買う必要もないんでね」 すでに指で解してある部分に勃ち上がった性器を押し当てると、細い腰を掴んで一気に貫いた。奥まで届いた途端に赤木の甘い声が上がり、市川の耳を心地良く刺激する。 狭く熱い襞が性器に絡み付いてきて、気を抜くとすぐに達してしまいそうだ。まだ男として育ちきっていない幼い身体に、遠慮もせずに何度も腰を打ち付けた。 「ねえ市川さん、さっきのってどういう意味……深い仲の愛人が居るってこと?」 「さあどうだろうな、ガキには分からねえ話さ」 「それとも、俺が居るから……?」 それまでの軽口とは違った、消えてしまいそうなほど小さな呟きだった。赤木の様子の変化を感じ取り、こちらも腰の動きを止めた。それ以上答えの催促をするわけでも なく無言のまま、赤木は静かに呼吸を繰り返している。市川は赤木の内側から性器を引き抜くと、腕を引っ張りこちらを向かせた。 「もう終わり?」 赤木の問いには答えず、顔に触れて位置を確かめると目蓋にくちづけをする。次に頬、そして唇へ。柔らかく重ねるだけで、舌を使って赤木を翻弄したりはしない。 射精に向かう肉体の快楽を捨ててまで、まるで恋人にするような行為をしてしまった理由は、よく分からない。しかも相手は有り得ないことに、あの赤木だ。 唇を離すと、赤木の頭を胸元に抱き寄せる。 「こんなの、あんたには似合わないね……変なの」 「ガキが、余計な勘繰りするんじゃねえ。もう黙ってろ」 「はいはい、しょうがねえな」 諦めたように言う赤木を畳に座らせ、そのまま仰向けに寝かせる。伸びてきた両腕に誘われるように身体を倒しながら、再び赤木の中へ性器を沈めた。 先ほど口に出した仕置きのことなどすっかり忘れて、気が付くとこの狂った行為に心の奥底まで浸っていた。 |