孫になりたい





玄関の引き戸を開け、杖で先を探りながら中へ入る。
お帰りなさいおじいちゃん、という声に迎えられた市川の背中に寒気が走った。
それは無邪気な子供のものとは全く違う。恐ろしいほど落ち着いていて、短い言葉の裏で何かを企んでいるようにも思えたからだ。
確認するまでもなく、声の主は赤木だ。重いため息をつきながら靴を脱いだ。何も聞かなかったことにして廊下を歩くと、もうひとつの 足音も背後から追ってくる。

「せっかく出迎えてやったのに、無視はないだろ」
「誰も頼んでねえよ、また人の家に勝手に上がりこみやがって」
「近所の人達は多分俺のこと、あんたの孫だと思ってるぜ」
「お前みたいな気味の悪いガキが孫だって? 冗談じゃねえ」

ひとり暮らしの老人の家に子供が出入りしていれば、そう思われても不自然ではない。それでも、プライドも何もかも踏みにじって いった因縁の相手を血縁呼ばわりされるのは面白くなかった。
優しく受け入れてやるような気分にはなれないが、以前のように邪険に扱えずにいる。子供の口から出たとは思えない 卑猥な言葉と、それに反して拙い動作で何度も誘われた。最初は平然とかわしていたが、日が経つにつれて理性を崩されてしまった。
今ではもう、毎晩のように性交を繰り返している。愛だの恋だのという甘酸っぱいものとは別の感情に突き動かされるままに。 顔の分からない相手に何故あそこまで溺れられるのか、自分でも不思議だった。
上着を脱いだ市川が畳に腰を下ろすと、太腿辺りに重みを感じた。触れてみて、それが赤木の頭だと知り舌打ちをする。

「俺、あんたの孫になろうかな」
「……何だって?」
「そうすれば外でも中でも一緒に居られて、あんたも周りに面倒な説明せずに済むよ。ねえ市川さん、俺を孫にしてよ」

囁くような口調で言いながら赤木は寝転がったまま、市川の痩せた腹に顔を埋めてきた。
血の繋がりもないのに孫にしろと言われても困る。
しかし訪ねてきた客が赤木を見る度に市川との関係を気にするので、 いっそのこと開き直って孫ということにしておけば面倒はなくなる。

「まあ、確かにお前の言う通りだな」
「俺の提案、受け入れる気になった?」

市川は口の片端を上げると、赤木の頬に触れた。そして指を滑らせ、親指で唇を撫でて開かせた。赤木は舌を市川の指に 這わせ、濡れた音を立てて舐めたり吸い上げたりする。まるでそれを性器に見立てているかのように。
赤木の唇から指を離し、今度は下半身に手を伸ばす。ベルトの金具を外して下着の上から性器に触れると、 そこは少しだけ硬くなりかけていた。赤木は息を震わせ、市川の動きに黙って身を任せている。

「孫になるなら、もうこんな馬鹿げた遊びはできなくなるってことだ」
「いちかわ、さん……」
「残念だが、お前の望みなら仕方ねえなあ」

いやらしく笑いながら、市川は赤木の性器を下着越しに扱いた。更に硬さを増したところで、先端の部分を指先で刺激する。 そこから絶え間なく先走りが溢れてきて、赤木の小さな喘ぎ声が聞こえてきた。よみがえる夜の記憶に、身体の奥が熱くなる。

「本当に残念だよ……なあ赤木」

無言で自ら下着を下ろした赤木は、再びそこに市川の手を導いた。性器は達する直前まで硬く反り返っている。 もっと刺激を欲しがっていることは明らかだった。

「いかせてほしいのか?」
「言わなくても、分かるだろ……」
「そんなわがままな孫はいらねえよ」
「だから、もう……あっ……!」

赤木の要求を無視して、性器の根元にある小さな膨らみを探る。 そこじゃない、と言わんばかりに赤木はもどかしそうに腰を揺らした。

「年のせいか耳が遠くなったみたいでな。だからもう、何だ?」
「孫なんかじゃなくても、俺は、この家であんたと……」
「わしに散々その身体をいじられて毎晩、何度もいかされたいんだろう?」

露骨な問いかけをして、市川は赤木に覆い被さった。赤木の両腕が縋るように背中にまわされる。
そのまま深いくちづけを交わしながら、すでに性の対象として扱っている赤木を孫にすることはできないと思い知らされた。




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2007/5/7