その温もりを教えて 「俺についてきなよ、南郷さん」 こちらに伸ばされた手は南郷よりも白く小さかったが、何故かとても頼もしいものに感じた。 逃れられない命の危機から救ってくれた恩人。しかしその結果、再び危険な勝負に引きずり込まれてしまったわけだが、もし赤木があの雀荘に現れなかったら、あのまま南郷は多額の借金を保険金で払わなければならなかったのだ。 そして数々の悪魔じみた策略に魅せられたのも事実だった。 自分には決して真似のできない、一生かかってもたどりつけない狂気の果て。 その先は、数日後の再戦で明らかになる。大金を手にするか、それとも死か。南郷の運命は全て赤木が握っている。 差し伸べられたこの手に、すがるしかない。 「あ、赤木……お前がそう言うなら」 赤木と南郷の手が触れ合う。その瞬間、信じられないほど強い力で引き寄せられた。耳元に、赤木の唇が触れた。 「じゃあとりあえず、脱いでもらおうかな」 「?」 「俺についてくるってことは、俺のものになるってことでしょ」 甘い口調、低い笑い声。赤木の言い分がうまく飲み込めない。 この少年は何を言っているんだろう。布団の上に押し倒されてからようやく焦りを感じた。 覆い被さってきた赤木の手が、南郷の胸元をまさぐる。服の布地越しに乳首をつまみあげられ、思わず声が出てしまった。 そんな様子を、南郷の腰あたりに乗った赤木は楽しそうに眺めている。頬が赤く熱くなるのを隠せない。 「ちょっと待っ……!」 「いいから」 よくない……という必死の訴えは届かず、されるがままに服を脱がされ、熱を帯びた肌が冷たい空気に晒された。 明らかに自分は細くて可愛い女でもないのに、赤木はこんなことをして興奮するのだろうか。 相手が中学生の少年だと分かっていて、それでも敏感な部分を攻められて興奮している自分こそ異常なのかもしれない。 「素直になりなよ、本当は気持ちいいくせに。欲しくてたまらないんだろ?」 「やっ、やめてくれ……俺は何も欲しくなんか」 「嘘はだめだよ、いやらしい南郷さん」 そこで目が覚めた。 隣の布団では赤木が寝息を立てていて、南郷は深く息をつく。 安岡を交えて飲み屋で打ち合わせをした後、ひとりで暮らすこのアパートに赤木を連れてきた。 行くところがないんだ、と言って赤木は南郷の袖を掴み、こちらを見上げたまま離れなかったのだ。 多少のとまどいはあったが、命を救ってくれた恩人なのだから、再戦までの数日間くらいは泊めてやるべきだと思った。 『泊まるのはいいが、親が心配してるんじゃないか?』 『俺に家族なんていないよ』 何もためらわずそう言った赤木に、それ以上問うことはできなかった。 本当にいないのかもしれないし、もしかすると色々あって不仲なのかもしれない。 気になるからと言って、家庭の事情を深く突っ込むのも申し訳ない気がした。 「……南郷さん」 「あ、すまない……起こしたか」 「そっちに行ってもいい?」 返事を待たずに、赤木は南郷の布団へもぐりこんできた。狭い布団の中で、南郷の胸に赤木が顔を埋めるような体勢になる。 本当に狭い布団なので、こういうふうに密着しないと赤木の身体が布団からはみ出てしまう。 「こっちのほうが温かい。最初からこうしてればよかった」 独り言のように呟いた赤木は、南郷の胸に触れたかと思うとそこを強く揉んだ。 「うわっ!?」 驚きのあまり間の抜けた声を上げて、南郷は赤木から身を引いた。 「どうしたの、そんなに驚いて」 「お前っ、今……俺の胸をっ」 「胸が気持ちいいの?」 薄い笑みを浮かべながら再び伸ばしてくる赤木の腕を、遮るように掴む。 掴んだそれはやはり子供の腕で、いくら焦っているとはいえ無理矢理どうにかしたら折れてしまいそうだ。 なんとか穏便に、この場を乗り切りたいが。 「も、もう寝ろよ、な?」 赤木を止められるような、上手い説得の言葉が思いつかない。 薄暗い部屋の中でいきなり胸を揉まれて平気でいられるほど、南郷は肝の据わった人間ではない。 そんな時、先ほどまで見ていた夢の内容を思い出して、微妙な気持ちになった。 もしあの夢が現実になったら……と思うと恐ろしい。 中学生を相手に胸を揉んだ揉まれたなどという、いかがわしい修羅場に発展するのは避けたかった。 「俺のこと嫌い?」 「何言ってるんだ、そんなわけないだろ」 「じゃあ、いいよね」 夢と同じくらい強引な展開だ。このままでは赤木の思い通りに流されてしまう。しかし抵抗しようとして暴れては赤木に怪我をさせる かもしれない。結局、赤木の言いなりになるしか方法はないのだ。 「再戦の日までよろしくね……南郷さん」 |