嘘と強がり 「お前みてえな何の経験もない、小便臭いガキ相手じゃ勃つもんも勃たねえよ」 「……経験なら、あるよ」 赤木が返した静かな一言は、市川の予想を見事に裏切った。 布が擦れる音が聞こえてきて、赤木が制服を脱ぎ始めていることに気付く。すぐそばまで近づいてくると、かすかに赤木の匂いを感じた。 「少し前に、この近所を歩いていたら知らない野郎に声かけられてさ。古臭い宿に連れて行かれた。暇だったし、気持ちよくなれるなら別にいいかなって」 「最後までやったのか」 「あっさり終わったからつまらなかったよ。鼻息荒くしてたくせに俺より先にいきやがった」 淡々と続いていく下世話な話は自身の経験談というより、まるで他人事のようで何となく違和感があった。 何も身に着けていない無防備な細い身体を、赤木は甘えるように寄せてくる。密着すると市川の肩に額を乗せて、深く息をついた。 「どこかの誰かに麻雀の誘いを断られ続けて、最近満たされてないんだ」 「誰のことかは知らねえが、お前の暇潰しに付き合ってやるほどお人好しじゃねえんだろ」 「麻雀が嫌なら、夜の相手をしてよ。初めてじゃないから面倒な手ほどきも必要ないし」 そう言って赤木は市川にくちづけた。柔らかな唇が角度を変えて何度か押し当てられる。大人しくしていると更に赤木を調子付かせるだけなので、 薄く開いている唇に強引に舌を割り込ませた。驚いたらしい赤木の肩が一瞬だけ小さく跳ね、じれったいほどぎこちない動きで市川の舌を受け入れて絡めた。 こちらが絶え間なく攻め続けているため、苦しげな息遣いが聞こえてくる。唇を離しても呼吸が整わない赤木を畳に押し倒した。 「足を開きな、赤木。経験があるならできるだろう……」 命じた後、開き具合を確かめるために赤木の足に触れ、太腿の内側や付け根辺りをゆるやかに撫でた。赤木は膝を立てて少し開いているだけで、それ以上は動かそうとしない。 言っている意味が分かっているのがいないのか、苛立つ気分を抑えながら両膝が肩に付くほど押し上げてやる。 性器だけではなく、後ろの固く閉ざされた部分も丸見えになるような体勢だ。盲人相手とはいえ、そんな恥ずかしい体勢を取らされた赤木は今どんな表情をしているだろうか。 「まだ信じられねえな」 「……何が」 「お前が行きずりの男と寝るような奴には思えねえってことさ」 「そんなの勝手な思い込みだよ。俺は他の奴らとだって何度も寝たし」 「そうかい」 思わず喉から笑いが漏れた。ただ翻弄されるだけのくちづけも、不器用すぎる足の開き方も、とてもその手の経験があるようには思えない。 赤木が嘘をついていることが、この流れで分かってしまった。性交どころかくちづけすら満足にできない、今年中学生になったばかりの子供なのだ。 しかしあの生意気な赤木がそこまでして市川に抱かれたかったのかと思うと、どこか愉快な気分になった。 「他に行けば楽しいことは色々あるだろうに、そんなに満たされてねえのか」 「同じ歳の奴らも大人も、つまらない連中ばかりだ」 13歳の少年の関心が賭博と性交に偏っているのは奇妙な話だが、抑えきれない何かを吐き出す手段を見つけられずに悩んでいるのは事実らしい。 本人は経験があると言い張っていることだし、少しは遊んでやっても構わない気分になってきた。ちょうど今、退屈しているのはこちらも同じなのだ。 「宿に連れ込んだ奴は、どんなふうにお前を抱いたんだ?」 「……そんなこと、あんたが知ってどうするの」 「なあに、ちょっと興味があるだけさ。実際に抱かれたなら言えるはずだろうが」 先ほどまでの饒舌ぶりが嘘のように急に黙り込む赤木の胸辺りに手を伸ばし、部屋の寒さで硬くとがった乳首に触れた。 指の腹で優しく転がした後、不意をついて強く摘むと赤木は小さく声を上げる。 正直なところ市川は、赤木がいつ誰に抱かれていようがどうでも良かった。経験してもいないことを聞かれて、どんな答えを出すのかを期待しているだけだ。 「胸を……乳首を強く、摘まれて」 「それから?」 「犬みたいに何度も舐められた」 滴るほどの唾液を乗せ、ぴちゃぴちゃと生々しい音を立てて赤木の乳首を舌先で舐め回す。例えた通り、犬になったつもりで執拗に同じ部分を刺激する。 赤木は頼りなく息を震わせながら、市川の頭を胸元に抱きこんだ。強く吸い上げると、頭を抱く細い両腕が強張る。 「まだ続きがあるんだろ。今更恥ずかしがってるのか」 「その後はもう、すぐに入れられて……」 「随分と乱暴な奴だな、ろくに解しもしねえで突っ込んだら大変なことになるぜ」 「早く終わらせたかったんだろ……ねえ、もう勘弁してよ」 乳首への愛撫ですっかり勃ち上がった赤木の性器が、市川の腹を密かに押し上げていた。先端の割れ目からは、粘りのある滴が溢れ出している。 いちいち細かく揚げ足を取るような市川の言葉に焦れたのか、言動からは苛立ちすらも感じた。 「口に出すのがもったいないほど、いい思い出だったってことか」 「そんなの……今のほうが、俺は」 「もう強がりは終わりにして、全部作り話でしたごめんなさいって言っちまいな」 溢れてくる滴を性器に塗り込めながら、握った手を動かして上下に扱く。揺れる腰と甘く漏れる声が、腹の底で燃える情欲を更に煽った。 本当に複数の男との性交を繰り返しているなら、こちらのとんだ勘違いなので笑うしかない。しかし赤木の様子からして、お世辞にも経験が豊富だとは思えなかった。 「正直に言わねえと、これ以上はお預けだ」 市川は意地悪く笑い、着ている浴衣の下から硬く反り返っている性器を露わにすると、赤木の後ろの穴に押し当てる。 それでもまだ入れるつもりはなく、わざとらしく先端を擦りつけたりして赤木の初々しい反応を楽しんだ。 「……本当は、こんなことされるの初めてなんだ」 「他の奴らと何度も寝たってのは、やっぱり嘘か」 「くだらない嘘でもつかなきゃ、相手にしてくれないから。そうだろ?」 拗ねているような口調で言うと、赤木は市川の髪を乱暴に掴んで引っ張る。痛みを感じた直後、再び唇が触れそうなきわどい距離まで互いの顔が近づいて強く抱き締められた。 隙間なく密着していると、赤木の乱れた呼吸や体温を感じて胸が熱くざわめいた。 「あんたが俺から離れる前に、もう少しこのままで居てもらおうかと思ってね」 「離れる?」 「経験のないガキ相手じゃ、その気にならないって言ってたしさ」 確かに自分はそう言ったが、今になって気が変わった。歳に似合わず落ち着いていて肝の据わった赤木が、市川にとっては軽い前戯程度のことであんなに感じてしまうのだ。 もしそれ以上の行為をすれば一体どんな乱れ方をして楽しませてくれるのか、非常に興味深い。 「まあ、嘘吐きで可愛げのないガキでも暇潰しの相手にはなりそうだ」 「何だよそれ……失礼なじいさんだな」 「お前の下手くそな誘いに乗ってやるって言ってんだ、有り難く思いな」 すっかり解れたそこは物欲しそうにひくつき、市川の性器を飲み込んでいく。食いちぎられそうなほどきつい締め付けを味わいながら奥へと腰を進める。 痛い、という赤木の苦しげな声が聞こえてきた。それでも嫌がったり暴れたりはせず、身体を強張らせながら耐え続けている。 「これくらいで痛がってちゃ、話にならねえなあ」 「ごちゃごちゃ言ってないで、続けてよ……年寄りに激しい動きは酷だろうけどね」 赤木は市川をからかうように笑った。こんなに痛がっているくせに、口だけは余裕を装って強がっているのが面白い。 一泡吹かせてやろうと考え、じっくり攻めるのをやめた。奥まで入りきる前にゆっくり腰を引くと、今度は勢いをつけて性器を深く突き入れた。 背中にしがみついている赤木の手に力がこもり、強く爪を立てられた。余計な気遣いはせず何度も突いているうちに、苦痛しか感じられなかった赤木の声に甘い響きが混じる ようになってきた。 ここまで歳を取ってからは、性交とは縁の遠い生活を送っていた。代打ちとして牌を操っていれば充分な刺激となり、全てが満たされていたからだ。 しかし赤木に負けて以来、自身を満たすものは何もなくなってしまった。もしかするとそれを発散するきっかけを、心のどこかで求めていたのかもしれない。 元凶である赤木が今、この老いた身体の下で淫らに喘いでいる。懲らしめてやるつもりが、逆効果になってしまったのが悔しい。またしても敗北を味わった気分だ。 結局自分はもう、赤木には勝てないのだろうか。市川の腹の下で勃ち上がっている性器を衝動のままに握ってやると、切羽詰った声と共に先端から青臭いものが溢れてきて、 市川の手を汚した。絶頂を迎えた赤木が射精したのだ。 力を失った両手が、背中からするりと離れていく。 「もう終わりか、堪え性がねえな」 「あんたが遅漏なんじゃないの」 「そんな言葉、どこで覚えてきやがった」 達したばかりでぐったりとしている赤木は、再び市川にしがみつくこともできずにひたすら揺さぶられている。こちらはほとんど休まずに腰を動かしているせいで、 冬だというのに身体中が汗まみれになっていた。頬にかかって揺れる髪が鬱陶しい。 敏感な赤木の熱い襞に包まれながら、市川もようやく精を吐き出した。一息つくと疲労した身体を起こし、畳に寝転んだままの赤木に背を向ける。 「どうしたの、便所?」 「風呂入ってくるんだよ、どこかの誰かのせいで汗臭くなっちまった」 「誰のことかは知らないけど、そいつはあんたと一緒に入りたかったりしてね」 「あんな狭い風呂にふたりも入れるか、図々しいにも程があると言っておけ」 くたばれケチじじい、という赤木の声が聞こえたが知らない振りをして風呂場へ向かう。 自身と赤木の汗や精液で汚れた浴衣を脱ぎ、浴槽に手を入れてみると中の湯はすでに 冷めていた。赤木相手に遊んでいるうちに、かなり時間が経ってしまったらしい。今からまた風呂を沸かすのも面倒臭い。性交後のだるさがまだ残っているのだ。 あの生意気な鬼の子に関わると、本当にろくなことがない。 |