朝まで一緒に 朝までずっと一緒だな、という零の言葉にミツルは着替えていた手を止めてしまった。 今夜は零が泊まりにきている。部屋にふたり分の布団が並んでいるのを見ても、未だに信じられない気分だった。 放課後のバイトで貯めた金で小さなテレビを買ったので、部屋でゲームもできる。騒がしくしなければ、親の目を気にせず延々と遊べるのだ。 高校を卒業した後は、どこかでアパートを借りてひとり暮らしをする予定を立てている。就職は決まっていないが、1日中働けるバイトを探すか掛け持ちで働けば 何とかなるかもしれない。立て続けにゲームソフトを買ったりなど、贅沢さえしなければ。 地味なスウェットの上下に着替えたミツルは、布団の上に腰を下ろす。すぐ隣では半袖のTシャツに膝丈の半ズボンという姿の零が、布団に寝転んでいる。 「零、その格好で寒くないのかい?」 「俺はいつもこんな感じで寝てる。ミツルこそ、冷え性なんじゃねえの?」 「えー、そんなことないって」 相手は男なのでいくら露出をしようと文句は出ないが、いつもとは違う格好をしている零にうっかり視線が動いてしまう。 そういえば零は、どこの高校に通っているのだろうか。今まで1度も制服姿を見たことがなく、放課後の時間に見かけた時も私服だった。 自分からは言い出さないということは、きっとあまり突っ込まれたくないのだろう。余計な詮索はせず、想像だけに留めておいたほうがいいかもしれない。 家庭の事情か何かで、中学を出てからは昼間どこかで働いている可能性もある。義務教育を終えれば、就職も進学も自由なのだから。 「どうしたミツル、いきなり黙り込んで」 「えっ、な、何でもない! それより零、DVDでも観ない?」 生まれてしまった沈黙を終わらせるように言うと、ミツルは腰を上げた。映画のDVDをレンタルショップで何本か借りてきているのだ。 どれも裏ジャケットに書かれているあらすじを軽くチェックしただけで、本当に面白いかどうかは分からない。 袋から出して改めてタイトルを眺めると邦画も洋画もごちゃ混ぜだった。どれかひとつでも、零の興味を引くものがあるといいが。 「どんなのがあるんだ? またエロいやつか」 「またってどういう意味だよ、ひどいな零は」 「だってお前、通販で買ったとかいうローター隠し持ってただろ」 痛い出来事を掘り起こされて、ミツルは何も言い返せない。ローターを使って乱れている零を毎晩妄想しながら自慰をしていると、本人に以前うっかり告白してしまった。 あんなことを言われてもミツルを見放さない零は、もう菩薩の域に達してるのではないかと思う。普通なら軽蔑されてもおかしくはない。 「お前がエロいDVD借りたとしても、何も言わねえから安心しろよ」 「だから借りてないって!」 笑いを浮かべてからかってくる零に、ミツルは全力で否定しながら何枚かのDVDを押し付けた。確かにアダルトコーナーに置いてあるDVDにも興味はあるが、 最近は零とのセックスで満たされてしまい、わざわざ作り物の映像を借りてこようとは思わなくなってしまった。 「零はさ、AV観たことないの?」 「何だよ急に」 「別に深い意味はないんだけど、零がそういうの観てる姿って想像できないんだ」 「そんな想像するなよ……」 人のことは散々冷やかしたくせに、矛先が自分に向けられた途端俯いて大人しくなってしまう。そんな零を見て、身体の奥が疼くのを感じた。 他愛もない会話で盛り上がっている間は抑えられていた情欲が、今になって次々と溢れて止まらない。寝る時に着ているという零の服装が、とんでもなく卑猥なものとして 目に映る。服自体は普通のTシャツに半ズボンで、しかも相手は男だ。そう言い聞かせながら必死で自分を抑えようとする。 普段はできないことをゆっくり楽しむため、零にDVDを選んでもらってそれを一緒に観て楽しむと決めた。しかし大人しくなった零をもっといじめたいという考えが邪魔を してくる。 気が付くとミツルは零に近づき、すぐそばに腰を下ろして接近していた。 「さっきの答え聞かせてよ、零」 「俺、この映画観たい」 差し出されたDVDを受け取ると、ミツルはそれをろくに確認もせずに枕元に置いた。不審そうな目を向けてくる零を抱き締め、首筋に唇を埋める。びくっと震えたその身体 を布団に押し倒し、鎖骨の辺りに強く吸い付いた。零は嫌がる様子もなく、突然始まったミツルの暴走に流され続けている。 ミツルの背中に伸ばされた零の手は、何故かあと少しというところで引っ込んでしまった。 「しがみつきたいなら、そうしてもいいんだよ」 「え、映画観るんじゃなかったのか?」 「うん、後でね。ごめん零……今は」 やがて囁くような声でミツルの名前を呼んだ零は、再び手を伸ばしてミツルの背中にしがみついてきた。ぴったりと重なった体温にますます気分が盛り上がる。 半ズボンの上から零の股間を撫でてみると、そこは反応を示して硬くなっていた。ミツルは零の手を取ると、同じように膨らみ始めた部分に触れさせた。 「一緒にさ、気持ち良くなろうか」 ミツルがそう言うとこちらを濡れた目で真っ直ぐに見つめてくる零は、小さく頷いた。 露わになったミツルの勃起した性器が、零の口内へ飲み込まれていく。生温かい感触に包まれて腰が震えた。 こちらに向けられた小さな尻を眺めていると、零の性器から溢れた先走りがミツルの胸元に落ちてくる。この体勢になってからは、まだどこにも触れていないのに。 あれから全裸になったふたりは布団の上で、初めての体勢で絡み合っていた。想像だけは何度もしていたが、実際にしてみるとかなり卑猥だと思った。 ミツルの性器をしゃぶりながら、零は尻の窄まりをひくつかせている。何かを欲しがっているような様子に、興奮が止まらない。 零の先走りを使ってそこに指を埋めると、 待ち望んでいたかのようにきつく締め付けてきた。ぐりぐりと中で動かし、腰を揺らす零の反応を楽しむ。同時に亀頭を舌先で抉られて、ミツルは低く呻いてしまう。 「零、好きだよ」 指を更に増やして、想いを伝える。普段も今も、ミツルは零しか見えていなかった。こんな行為をしたいと思うのも、弱い自分を晒しても構わないのも、零だけだ。 自分と同じ男なのに後戻りできないほど好きになってしまった。大きな声では言えない関係だと分かっていても。 窄まりから指を抜き、今度はそこを舌で小刻みに愛撫する。皺の感触を確かめるように舐めていると、勃起しているミツルの性器に零の熱い息を感じた。 「っく……ああ、ミツル……!」 「こんなところ舐められても気持ちいいんだね……でも、こっちのほうがいいかな?」 硬く張り詰めている零の性器を握って、強く扱いた。零は漏らしてしまった喘ぎをごまかすように、ミツルの性器に再び舌を絡ませる。吸い付くような動きでしゃぶられて、 先に達したミツルは零の口の中に勢い良く精液を放った。 遅れて射精した零は、ミツルの下腹部に顔を埋めながらしばらく動かなかった。 ふたりで映画のDVDを観ている間も、先ほどの余韻はミツルの頭からなかなか離れない。普段はしっかりしている零が、セックスの時になると 別人のように乱れてミツルを求めてくるのが本当にたまらない。おかげで映画の内容が頭に入ってこなくて困った。 「なあミツル、俺っておかしいのかな」 「どうして?」 「あんなところでも……ミツルに舐められてると思うと、感じるんだ」 すぐそばで聞こえた抑えたような声に、激しく動揺してしまった。挿入はしていないものの、あれほど卑猥な体勢で絡み合ったというのにまた変な気分になりそうだ。 零にとっての特別な存在だと言われている気がして、次々に溢れる愛しさのままにミツルは零の肩を抱き寄せた。もし大切な恋人が出来たら、こうして 甘い時間を過ごすことを夢見ていたのだ。しかし誰のことも愛さず、愛されなかった自分にとっては無謀な夢でもあった。零と一線を越えるまでは。 「ねえ零、もう1回聞くけどAV観たことある?」 「……お前、しつこいぞ」 「ごめん、でもさ、同じ男として気になるというか」 「あれは大人が観るものだろ、俺の歳じゃ借りることもできねえし」 大人じゃなくても観ている奴はたくさん居るのに、と思いミツルは苦笑した。 パソコンに入っているいかがわしい動画を見せたら、零はどんな反応をするだろうか。 とりあえず今観ている映画が終わったら、そちらの鑑賞会もしてみようと密かに企んだ。 朝まで零と一緒に居られるのだ、残された時間はたくさんある。 |