一緒に暮らそう 「あー、また負けた!」 部屋の小さなテレビに映っている格闘ゲームの画面を見て、ミツルは仰向けに倒れこんだ。 すぐ横では零が、そんなミツルを見て笑みを浮かべている。ゲームの中のキャラクターを操り、先ほどまで零と戦っていたのだ。 ゲームの経験があまりないと言っていた零だが、簡単に操作の説明をしただけでミツルが何度戦っても勝てないほどの腕前になっていた。 このゲームを買ってからはひとり用プレイでかなりやりこんでいたはずなのに、と思い悔しかったが、これも零に与えられている才能のひとつなのかもしれない。 「やっぱり零はすごいよ、俺なんかすぐに追い越しちゃってさ」 「いや、お前の教え方が分かりやすかったからだよ」 寝転がったままテレビに視線を向けると、いつの間にかスタート画面に戻っていた。しかし今日はそろそろゲームは終わろうと思っていたので、電源ボタンに手を伸ばす。 「もうゲームやめるのか?」 「うん、もう長い時間やったしさ。目も疲れたよ」 ミツルがそう言うと、零は少し残念そうな表情になる。それを見て心が揺らいだが、結局電源を切ってしまった。 また会った日にもできる。今日を逃せば永久に会えなくなるわけではないのだから。もしそうならゲームではなく、別の過ごし方をしていると思うが。 「なあ、ミツルは高校出たらどうするんだ」 「どうしたんだよ急に、そんなこと」 「お前3年生だろ、もう進路決まってるんじゃないかと思ってさ」 高校を出てからは、バイトで金を貯めてひとり暮らしをしてみたい。昔から冷めた雰囲気の家庭から逃れて自由になりたかった。 そう答えると零は、そうか、と言ってミツルと同じように寝転んだ。顔の距離が近くなり、意識せずにはいられない。 進学ではない、しかし就職とも少し違うような気がする。自分がスーツを着て、どこかの企業のサラリーマンになった姿など想像できなかった。 卒業してから年月が経てば経つほど、就職は難しくなってくるのだと担任から聞いた。このまま適当にバイトだけを続けていたとしたら、いつか大変な苦労をするだろうか。 男としての幸せとはどういうものかと、何となく考えてみる。結婚して子供を授かって、良い車に乗って年齢と共に出世して……どれも自分には遠い世界のもので、空しくなり考えるのを止めてしまった。 「零は、どうするか決まってるの?」 「……俺は、よく分からねえんだ。何の職業に就きたいのかすらも」 「まだ17なら、焦らなくてもいいんじゃないの」 「義賊の役目を終えてから、何だか急に気が抜けちまって」 何もかも優れている零なら、きっと希望通りの仕事に就けるだろう。そう思ったミツルは、自慢できるような取り得がない自身の情けなさが辛かった。 超進学校と呼ばれる中学を出た零は、当然今はそれなりの高校に通っているはずだ。本人は学校に行ってるのかすら明かさないので、こちらの勝手な想像にすぎないが。 詐欺集団から金を取り戻して義賊の役割は果たしたが、これからも零とは変わらずに親しく過ごしたい。離れたくない。 「もし、零さえよければ……いつか俺と一緒に暮らさないか」 そんな大胆な言葉が、ミツルの口から出てきた。よほど驚いたのか目を丸くしてこちらを見つめる零に気付いて、慌てて我に返る。 自分が懸命に働けば、零を養うこともできるかもしれないという無謀なことまで考えたのだ。 「……ミツル、今の本気か?」 「あ、いや、こんなのさすがに図々しいよな! ごめん零!」 「お前と一緒に暮らせたら、きっと楽しいだろうな」 微笑む零にそんなことを言われては、つい期待をしてしまう。ふたりで夕食を作ったり、毎晩同じ布団で眠ったりという妄想が次々と浮かんでは止まらない。 男同士なのに、これではまるで新婚夫婦だ。妄想に浸ってると、零に頬を左右から引っ張られた。不意打ちの出来事に驚くミツルを、零が真顔で覗き込んでいる。 「おい、何ぼーっとしてんだよ」 頬を引っ張られているのでまともに言葉を発せないでいると、すぐに解放された。零との甘く、いかがわしい同居妄想を繰り広げていたとは言えない。 以前、零をこの部屋に泊めた時のような高揚感が毎日楽しめる。仕事に集中して多分今より稼げるようになった数年後、お互いの気持ちが変わっていなければ同居も夢ではなくなる。 「……俺、一生懸命働くから。零と暮らせるように」 「何言ってんだ、お前にばかり苦労させられるかよ。俺だって稼いでくるさ」 力強く掴まれた両肩に幸せな温もりを感じた。勢いで口に出したこんな淡い夢物語に、呆れた顔ひとつせずに付き合ってくれる零は優しい。そう思うと胸が熱くなり、目の前に居る零に唇を寄せて柔らかく重ねた。 拒まずに目を閉じる零を見て、ミツルも同じようにした。零の背中を強く抱き締めて密着すると、もう難しいことは何も考えられなくなる。頭の中が蕩けてしまいそうだった。 勃起したミツルの性器に零が腰を沈めていく様子が、本当にたまらなかった。 今日はこんな展開になる予定ではなかったが、深いくちづけをしている間にすっかり気分が盛り上がってしまったのだ。 お互いに服も下着も脱ぎ捨て、全裸で絡み合う。どうせ家族がこの部屋に入ることはないのだから、常にやりたい放題だった。零は白い靴下を履いたままだったが、気にせず続ける。 「零、大丈夫?」 「ああ……もう少しだから」 息を乱す零の尻が、ミツルの性器をゆっくりと飲み込んでいく。じらされているような感覚に、こちらの呼吸も獣のように荒くなる。 やがて身体が完全に繋がり、気を緩めた零の乳首を両方摘んでぐりぐりと刺激した。 いつの間にか零の性器も反り返っていて、その亀頭には透明な滴が浮かんで溢れている。 「ねえ零、もし一緒に暮らしたらさ、毎日こんなふうにしたい」 「ん、ミツル……」 「だめかなあ? 零のこと大好きだから我慢できないんだ」 懇願しながらも、ミツルは零の腰を掴んで何度も突き上げた。 普段は聞けないような甘い声に、狭い腸壁に締め付けられた性器へ更に血が集まるのを感じる。 「俺も、ミツルのことが好きだよ」 熱っぽい声でそう言った零は、ミツルが動きを止めている間にも自ら腰を振り始めた。限界まで勃起した性器が、零の腸壁を容赦なく犯し続ける。快楽に蕩けた表情で喘いでいるその淫らな姿から目が離せない。 最近までは男同士でのセックスなど考えもしなかったはずが、今ではこんなに激しく零を求めている。 「お前が居なくなるなんて、考えられねえんだ」 「ほ、本当に……!?」 「一緒に暮らしたら、俺もミツルが欲しくて抑えられなくなる……」 あの零がこんなにいやらしいことを。興奮が止まらなくなり、ミツルは硬くなった零の乳首を指で摘みながら更に勢いをつけて腰を突き上げた。 その動きに流された零は、奥に亀頭が当たるたびに喘いで背中を逸らす。 「も、もう出すよ、零っ!」 最後に1度突き上げた後、根元まで挿入したまま射精する。震えながら精液を受け止める零が愛しい。 しかし自分ばかり気持ちよくなってしまっては、いつもの自慰と変わらない。 ミツルは萎えた性器を抜こうとはせず、張り詰めている零の性器を握って扱き始める。 たっぷりと注ぎ込んだ精液を中に閉じ込めたまま、零を絶頂へと導くのだ。 いつか一緒に暮らし始めた後、なかなか離れられずに零を朝から夜まで延々と貪り続ける自分を想像して、密かに苦い気持ちになった。 |