光明 いつまでも進歩のない自分が情けなくて腹が立った。 自分の他には誰も居ない夜の公園で、ミツルはコンビニで買ってきた缶ビールを飲んでいる。いつの間にかもう2本目だ。 バイト先で昨日入った後輩の教育を任されたが、うまく教えることができずに恥をかいた。その件で皆に陰口を叩かれているような気がする。 入ってから半年も経っていないのに、誰かに仕事を教えるなんて無理だ。そして結局は心配していた通りになってしまった。 もっと要領良く仕事がこなせたら。もっと上手く教えることができたら。そんな理想ばかりが膨らんでも実際には追いつかない。 こんなことでは近いうちにクビになってしまうかもしれない。卒業後にひとり暮らしをするための資金を貯めている最中なのに、それは困る。 日曜なので今は制服を着ていないが、高校生の身分で堂々と飲酒をしているのが誰かに見つかればとんでもないことになる。頭では分かっていてもやめられない。 せめて今だけでも辛いことを忘れていたかった。 そして3本目に手を出そうとした時、急に気分が悪くなり胃の中のものを足元に吐いてしまった。ジーンズの裾や靴も汚れて異臭がする。 ひとりで冷たい夜風に晒されながらうずくまっていると、泣きたくなるほど空しくなった。 「おい、大丈夫か?」 その声と共に背中をさすられ、驚いて振り返ると信じられないことに零の姿があった。こんな遅い時間で、しかも会う約束もしていないのにミツルの前に現れた。 「ぜ、零……何でここに」 「お前のバイト先に行ったら、もう帰ったって言われてさ。まだ近くに居るんじゃないかって思ったら、やっぱり」 月明かりの下で微笑む零が、隣に来てベンチに腰かけようとするとミツルは我に返った。 「こっちに来ないでくれ!」 「ミツル、どうした?」 理由が分からないという表情で零がミツルの顔を覗き込んでくる。ミツルの足元には空になったビールの缶や、吐いたばかりの汚物が広がって酷い状態だ。 薄暗いとはいえこんなに近くに居て気付いていないわけがないのに、零が嫌な顔ひとつ見せないのが不思議でたまらなかった。 自身の無能さや人付き合いで悩んだ経験のなさそうな零に、今抱えている気持ちが理解できるはずもない。 ミツルの怒鳴り声にも怯まず、零が隣に腰かける。その爪先にビールの缶が当たり、地面に倒れて少し転がった。 「こんなに酒なんか飲んで、何か嫌なことでもあったのか」 「別に何でもないよ、ちょっと飲みたい気分だったから」 「嘘つくなよ、お前全然飲めねえくせに」 「もうほっといてくれよ!!」 ひとりで悩んで絶望して酔って吐いて、今のこんな自分が零の近くに居るとますます惨めになる。本当は零にしがみついて泣きたいのに、そうすると自力で立ち直ることが できなくなるような気がした。ミツルは涙が浮かんでいる目を見られないように俯くと、鼻をすすった。帰る前に足元の後始末をすることを考えて気が遠くなる。 「思い切り泣いて愚痴れよ、話聞いてやるから」 「今は話せる気分じゃないんだ、ごめん」 「そうか、無理には聞かねえよ。具合悪そうだし、調子が落ち着いてきたなら家まで送ってやるけど……立てるか?」 零の言葉にミツルは首を横に振った。このまま家に帰っても多分気は晴れず、どうせ家族も話を聞いてくれそうもない。 例え零に置いて行かれても構わないから、もうしばらくここに居たい。隣でため息をついた零が、ベンチに置いていたミツルの手に触れてきて思わず激しく意識してしまった。 自力で立ち直る決意が脆く崩れていく。 「元気のないお前を見てると、俺も辛いよ」 じゃあ零が俺を元気にしてくれるのかと聞こうとして、それを飲み込んだ。元気付けてもらうと言えば、いかがわしい行為を真っ先に思い浮かべてしまう。 ミツルは零の名前を叫ぶと強く抱き締めた。心細い時に優しくしてくれる零が、今まで誰にも愛されず愛さなかった孤独なミツルにとって唯一の光明だった。 そんな大切な存在なのに、それを欲望のままに貪る行為にいつの間にか快感を覚えていた。男同士で、決して許されることではないと分かっていても。 零の腕がミツルの背中にまわされ、しがみついてくる。 「お前の気持ち、俺にぶつけてもいいんだぞ」 「そ、それってどういう意味……」 「わざわざ聞くんじゃねえよ、そんなこと」 色々と溜まってるんだろ、と耳元に囁かれた零の声がたまらなく意味深に聞こえた。 「ねえ零、本当にいいの?」 その返事を待たずに、ミツルはこちらに向けられている零の腰を掴むと、小さな窄まりに亀頭を押し当てる。 先ほどまで指で慣らしておいたので、そろそろ挿入してもいい頃だ。 木の幹に両手をついている零が身体を少し動かすと、その足元に引っかかってる下着とジーンズが草の生えている地面に擦れて音を立てた。 夜中とはいえ、まさか外で零とこんなことを。小さな公園なので、もし誰かが近くを通りかかったら行為が完全に丸見えだ。 亀頭の太い部分を挿入すると、零は押し殺すかのように小さく喘いだ。 「っ、ああ、いい……!」 「いい、って何が? 気持ちいいってこと?」 ミツルの意地悪な問いに答えず、身体をふるふると震わせる零があまりにも可愛すぎて、狭い内側の感触をじっくり味わうことなく奥まで一気に貫いた。今度は堪えきれなかったのか、 零は周りに聞こえてしまいそうな声を上げた。勃起したミツルの性器を腸壁がぎゅうっと締め付けてきてたまらない。気を抜くとこのまま達してしまいそうだ。 体勢のせいで顔は見えないが、いつもセックスの時に見せている恥らうような表情を思い出すときっと今もあんな感じなのだと思った。 零とこうしていると、バイト先での辛かったことが頭の中から薄れていく。飲み慣れない酒を飲んで忘れようとしても、ずっと心に引っかかったまま消えなかったのに。 「ぜろ……今度は零が動いて、ね」 そう言ってミツルが動きを止めると、零は腰をゆっくり前後に動かした。月明かりの下、零の尻がミツルの性器をずぶずぶと飲み込むのを黙って見下ろす。 「自分で腰振ってみて、今はどんな感じ?」 「俺の奥に、お前のが凄い当たってる……!」 「今の零って大胆だね……声なんか出したら誰かに聞かれちゃうよ」 たどたどしい零の動きがもどかしく、耐え切れなくなったミツルは激しく腰を動かして零の腸壁やその奥を犯した。静かな公園で、肌がぶつかる音が生々しく耳に届く。 力が入らなくなっているのか、零の手が幹を少しずつ滑り落ちていくのが見える。 「み、ミツル、そんな激しくしたら俺っ」 「おかしくなっちゃう?」 「でもお前が、これでまた元気になれるなら……」 消え入りそうな声で呟く零が愛しくて、胸が熱くなる。本当は柔らかい布団の上で零の顔を見ながら、強く抱き締めて何度もくちづけて繋がりたかった。 昼間は手を繋ごうとすると拒む零が、夜中とはいえここまで許してくれた。 いつまでも過去の失敗にとらわれず、前向きに歩いていくことが零の気持ちに応える唯一の手段だと思った。 ミツルが奥を突き上げる度に零がきつく締め付けてくるので、気持ちよすぎてもう限界だ。 「零、俺もういきそう!」 「抜かなくていい、このまま俺の中で」 「えっと、もう元気になれたから、無理しなくていいんだよ」 「無理なんかしてねえよ……お前が好きだから、欲しい」 好きだという言葉が嬉しくて、感極まったミツルは腰を震わせながら零の中で達してしまった。 ミツルが精液を全て注ぎ込むと身体を支えられなくなり、崩れそうになった零を背後から抱き締めて 立たせると、すでに勃起している零の性器に触れてゆっくりと扱き始めた。 先走りを溢れさせてミツルの手を濡らす零の匂いや体温に興奮して、ミツルは再び股間に血が集まってくるのを感じた。 |