空白の時間 詐欺口座から金を引き出してテレビ局に送った日の夕方、皆でミツルの家に集まり計画の成功を祝った。 それぞれ食べ物や飲み物を持ち寄り、色々な話をしながら盛り上がった。死ぬために集まったはずの4人は義賊となり、詐欺に遭った大勢の被害者を救ったのだ。 これほどの達成感や充実感を、ミツルは味わったことがない。仲間とこんなに明るく笑い合ったことすらも。何もかもが初めてのことで、これがきっと零が言っていた 清新な空気そのものなのだろう。誰からも愛されず構われず、死ぬことしか考えていなかった陰鬱な日々が嘘のようだ。 数時間ほど飲み食いした後、そろそろ外も暗くなってきたので解散となった。ユウキやヒロシを玄関で見送ってから再び部屋に戻ると、まだ残っていた 零が部屋の端で寝転がっていて、起き上がる気配がない。その頬にはうっすらと赤みが差していた。 部屋に残された食べ物の空き袋などに混じって、誰が持ってきたのか分からないが中身のない缶ビールが数本置いてあった。先に帰ったふたりからは飲酒をした様子はなく、ミツルもコーラしか飲んでいない。 ということはこの缶ビール、零が全て飲んでしまったということだ。 しかしミツルは零よりも年上なのだから、注意をしなくてはいけなかったのかもしれない。計画が成功したこともあり今日ばかりは無礼講の気分だったので、誰が何を飲もうと細かく気にしていなかった。 とにかく零を起こさないと話にならない。その腕を揺すり、思い切って声をかける。 「おい零、そろそろ起きろよ」 「んん……ミツル、お前まだ居たのか」 「居たのか、ってここは俺の家だぞ」 「ああ、そっか、まあいいか」 心底納得したようにそう呟くと、零は再びミツルに背を向けて寝転んでしまった。結局また振り出しに戻っただけだ。 こうなれば零の家族に電話して迎えにきてもらおうかと考えたが、飲酒を知られると厳しく叱られるような家庭だとしたら零が気の毒だ。 それ以前にミツルは、零の自宅の番号を知らない。今までは携帯電話のみで連絡を取り合っていたので、それだけでも不都合は感じなかったのだ。 水でも持ってきて飲ませようと思い立ち上がりかけると、背中に重みを感じた。強い酒の匂いが至近距離から漂ってくる。 「俺を置いて行くなよ、ミツル」 「お、重い……!」 ミツルの背中に抱きついてきた零が、小さく笑いながら圧し掛かってくる。完全に酔っているのだと改めて思った。 衣服越しに零と密着してる、そんな事実にどこか興奮している自分が居た。仲間達との大騒ぎの後で、まさかこんな展開になるとは予想すらしていなかった。 今まではユウキやヒロシも交えて会っていた零と、今はふたりきりだ。しかし零は正気の状態ではないので、かなり複雑だった。 もし酔っていなければ、あのふたりと共に帰宅しているに違いない。特別なことがない限り、零にとってもうここは用のない場所だからだ。 耳に触れる、零の息遣いに意識が奪われてしまう。 「なあお前、いつもこの部屋でしてるのか?」 「何を」 「そんなの決まってんだろ」 背後から伸びてきた零の手が、ミツルの股間に触れた。ジーンズの上からそこを探られ、緊張で身体が固まる。 やけに積極的な零に戸惑いながらも、ミツルは無意識のうちに快感を覚えていた。 勃起した性器が生地を突き上げ、更に強い刺激を求めている。 「勃ってるぞ、気持ちよくなってるのか?」 「ぜ、零が触るからだろ……!」 「じゃあもっといいこと、してやるよ」 そう囁くと零はミツルのジーンズの前を開き、強引に脱がせた。上半身のTシャツはそのままで、先走りで染みができた下着を晒したミツルは絨毯の上に転がされる。 同じ格好になった零が、仰向けになっているミツルの腰に跨った。零の尻や勃ち上がりかけている性器の感触を、互いの薄い下着越しに生々しく感じる。 ゆっくりと腰を動かし始めた零の股が、ミツルの性器を扱いていく。まるで挿入を意識させるような動きだった。限界まで反り返った性器に零が腰を下ろしていく様子を 想像して、思わず変な声が出てしまう。ミツルを見下ろしている零が、愉快そうに薄い笑みを浮かべた。 「男の股で擦られて悦んでるのか、ミツルは変態だな」 「こんなことしてる零だって、変態じゃないのかよ!」 「俺は何て言われてもいい、お前になら」 最後の一言はあまりにも意味深だった。淫らに腰を振りながら息を熱く乱す零の姿を眺めていると、罵られた恥も憤りも何もかも忘れてしまう。 男相手に抱くには、明らかにおかしな感情が生まれてくる。 ミツルは自分の上に跨っている零の腰を掴み、欲望のままに強く突き上げた。 「あっ、ミツル……激しい……!」 「そんなに気持ち良さそうにして、いやらしいね零は」 下着越しに擦り合わせて、突き上げているだけなのに興奮はますます高まっていく。やがてそれが頂点に達し、ミツルは下着の中で射精してしまった。 布の内側で広がった、生温かくねっとりとした感覚が気持ち悪い。 酔いのせいで虚ろな目をしている零は、ミツルのそんな様子を見て確かに笑っていた。 翌日、休日なので昼近くまで熟睡していたところに携帯へ電話がかかってきた。 相手は零で、もしこれから暇なら少し付き合ってほしいと言われ、よく皆で溜まっていた馴染みのファミレスに呼び出された。 あの義賊騒動の後、4人の間ではもう連絡は取り合わないという約束をしたはずだ。それを言い出した零が自らそれを破るとは、よほど重要な用件なのだろう。 着替えて行ってみると窓際の席に居た零は、出された水にも手を付けずに俯いている。近くまで来たミツルに気付いて顔を上げたが、気まずそうな表情をしていた。 「どうしたんだよ零、そんな顔してさ」 「なあミツル……俺、昨日お前の部屋で何かしてなかったか?」 「何か、って」 「ミツルの部屋でビール飲んで、そのまま寝ちまったんだけど……家に着くまでのこと、全然覚えてねえんだ」 空いている零の向かいに座ることもせずに、ミツルは立ったまま呆然としてしまった。あれだけ激しく絡んでいたのに、まさか全然覚えていないとは。 あれから零は、少し落ち着いた後でミツルの家を出て行った。足元がふらついていたのでせめて駅まで送ろうとすると、きっぱりと断られてしまった。 零の住所が分かれば家の前でタクシーに乗せることもできたが、仲間内での住所のやりとりは一切していなかったのだ。 ミツルは零がどこの学校に通っているのかも知らない。分かるのは本人が明かしていた17歳という年齢のみ。 こうして見ると今の零からは、昨日酔っていた時のような大胆さは感じられない。 人付き合いが下手で、零と比べると明らかに要領の悪いミツルを罵ったことは1度もなかった。 「もし俺がとんでもないことをしてたら、全部話してくれないか」 零の思い詰めている深刻な様子を眺めながら、あの痴態を一体どういうふうに話せばいいのか分からずにミツルは言葉を詰まらせていた。 |