Limit 放課後、学校の近くまで迎えにきた板倉の車に乗りこむ。 板倉の仕事が早く終わった日は、こうして迎えに来て一緒に過ごすという日々が続いている。 知識が豊富な年上の相手と話すのは面白い。今まで知らなかった興味深い話が聞けるからだ。 職業柄、血生臭い出来事に遭遇するのは珍しくないようだが、物騒な話題は好まないと伝えてあるので、零にはそういう話はしてこない。 校門前に車を停めて零を待っていたことがあったが、白い外車があまりにも目立ちすぎて他の生徒達の注目を浴びてしまった。 しかもどこにでも居る普通の高校生がヤクザを待たせるという、傍目から見ると有り得ない光景だ。 「ちょうどいい時間だし、どこかで飯でも食って行くか」 「えっ……」 「どうした、腹減ってねえのか」 「減ってる、けどさ」 今日は午後に体育があったので、夕方のこの時間になると空腹になってくる。校舎を出る前に1度だけ腹が鳴った。 前にも何度か板倉と食事に行ったことがあるが、どこも高級な店ばかりだった。零ひとりでは入ることすらできないような。 せめて自分で食べた分の代金は払おうとすると、板倉が先にふたり分を払ってしまう。万札が何十枚入っているのか想像もできないような、分厚い長財布の中から。 板倉が零から金を受け取ることはなかった。 いくら相手が社会人でも、毎回奢ってもらうのは申し訳ない。 「いつも板倉に払ってもらうのは、ちょっと」 「気にすんなよ、お前と飯を食う金はいくらでも惜しくねえから」 「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ……やっぱり悪いだろ」 「俺と食うこと自体は嫌じゃねえんだな?」 その言葉に零が頷くと、板倉は車を方向転換させて今までとは違うほうへと走らせる。どこへ行くのだろうと思いながら窓の外を眺めているうちに、 車は板倉のマンションへ向かっていることに気付いた。 大きな皿に盛られた出来立てのスパゲティを見て、美味しそうな見た目や香りに再び腹の音が鳴ってしまった。幅の広い麺で作られたカルボナーラだ。 遠慮しないで食えよ、と言われて早速フォークを手に取り口に運ぶ。濃厚な味と、もちもちとした麺の歯応えがたまらない。こんなに美味しいスパゲティは初めてだった。 テーブルの向かい側に座っている板倉が自分の分には手を付けずにこちらを見ていることに気付き、我に返る。 「板倉、美味いよこれ」 「そう言われると作った甲斐があったな」 「特に麺が本当に美味いんだ、こんなの食べたことねえよ」 「それ、俺が粉から作ったんだぜ」 ひとり暮らしなので料理はそれなりに出来るとは思っていたが、まさかこの麺も手作りだとは思わなかったので驚いた。確か伸ばしたり切ったりで手間がかかるものだった ような気がするので、板倉の多才ぶりに感心するばかりだ。 零はひとり分より少し多めの量を、あっと言う間に食べ終えてしまった。 「ありがとう、美味かった」 「そうか、今度はピザでも作ってやるよ」 そのピザも、板倉なら生地から作るに違いない。将来、板倉と結婚する相手は幸せだろうなと考えて、どこか寂しくなった。そんな相手が出来たら、もうこうして家には 来られなくなる。誘われたとしても、向こうに家族がいるのに週に何度も出入りするのは気が引けてしまう。 「零、今日は何時まで居られるんだ?」 「明日も学校あるし、10時……いや、9時くらいまでかな」 「好きなだけゆっくりして行けよ、帰りは家まで送ってやるから」 今日、外食ではなく家で手作りの夕食を出したのは、金銭的なことで零に気を遣わせないための板倉なりの優しさだろう。こちらが年下のせいもあるのか色々と良くして くれるが、正直言って自分にそこまでしてもらえるほどの価値があるのかと思う。何ひとつ恩返しできていないのに。 夕食後、板倉とソファに腰掛けて好きな本や時事の話題などで楽しい時間を過ごした。どんなことでも馬鹿にしないで聞いてくれるのが嬉しい。 9時まであと2時間を切ったあたりで、急に沈黙が訪れた。別に気まずくなったわけでもないのに、焦ってしまって困る。 何とか次の話題を切り出そうと思い頭を働かせていると、隣に座っている板倉の大きな手が零の肩に触れて抱き寄せられた。右腕や肩が板倉に密着する。 「無理に喋ろうとしなくてもいいだろ」 数分前までは健全に盛り上がっていたのに、今では身体を寄せ合い何とも言えない甘い雰囲気になった。 テレビもラジオもついていないので、余計な音などが混ざらない本当にふたりの世界だった。ごまかせない、逃げられない、そして未だに話題が出てこない。 零はソファに膝をつき、板倉に唇を寄せて初めて自分からくちづけをした。重ねるだけの拙いものを、何度も繰り返す。 求めてしまえば後はどうなるか想像はついているのに、心の奥底ではそれを期待してしまっている。 身体に触れられることにすら抵抗を感じていた頃が嘘のようだ。 「なあ零、お前どうしたいんだ」 「どう、って……」 「ちゃんと口に出すまでは、これ以上はしてやらねえぞ」 くちづけの合い間にそう言って、板倉は零の耳や首筋に唇を押し当ててくる。それだけでたまらなくなる反面、もっと違うところにもしてほしいという欲が生まれた。 首筋を強めに吸われて、震えながら板倉にしがみつく。 「……す」 「ん、何だ?」 「セックス、したい」 恥ずかしいことを小さな声で囁き、熱くなった頬を見られないように板倉の肩に顔を埋めた。言わされたというより、言ってしまったという気持ちのほうが強かった。 「お前が珍しく甘えてくるのが嬉しくて、調子に乗っちまった。悪いな」 今度は板倉が零の唇を奪う。舌が触れ合うと、煙草の苦い味が伝わってくる。生温かく、ぬるぬるした感触に淫らな気持ちが煽られて止められなかった。 勃起した板倉の性器に、零はゆっくりと腰を落としていく。亀頭が尻の穴を拡げた瞬間、板倉の性器を支える手から力が抜けそうになった。 ベッドに仰向けになって零の様子を眺めている板倉の視線を感じながら、時間をかけてようやく性器を根元まで飲みこんだ。 亀頭が深いところまで入っているのを想像して、こんなに大胆な体位で受け入れた自分が信じられなかった。それほどこの行為を望んでいたのかと思い知らされる。 「板倉、重くないか?」 「全然」 「俺、身長の割に肉がついてるほうだと思うんだけど」 「そうか? まあ、確かにこことか……な」 板倉の手が零の太腿や尻を撫で回す。下半身に脂肪がつきやすい体質なのは自覚していた。撫でてくる手の感触がくすぐったくて身体を揺らすと、中に入ったままの性器が 腸壁を擦るので声が出てしまう。 「このままじゃ終わらねえぞ、自分で腰を使ってみろよ」 そんなことを言われてもどうすればいいのか分からない。試しに腰を上下に何度か動かしてみると、やり方がまずかったのか性器が尻から抜けてしまった。 板倉の小さな笑い声に気まずくなりながら、再び性器に腰を落として根元まで飲み込む。 「しょうがねえ奴だな」 「仕方ねえだろ、こんな格好初めてなんだし……そんなに笑うなよ」 「そのままじっとしてろよ」 目を細めて笑みを浮かべた板倉は、零の腰を掴んで固定すると下から強く突き上げてきた。自分で腰を動かしていた時とは比べ物にならない快感に、背中を反らして喘ぐ。 奥のほうを抉られる度に短い声が出て、感じていることを板倉に伝えてしまっている。 両方の乳首まで摘まれるともうたまらなくなり、触ってもいない零の性器まで勃ち上がって先走りを浮かべていた。 「もうすっかりセックス好きになったな、零」 「そんなことな……っ、ああ」 「責めてるわけじゃねえから、安心して気持ち良くなれよ」 更に激しく腸壁を犯されて、もう何も考えられなくなった。こんな身体になってしまったのは、板倉に抱かれるようになってからだ。 舐めた性器の味も、こうして突き上げられる感覚も、甘えられる心地よさも、深く胸に刻まれて忘れられない。 ベッドの軋む音が大きくなり、触れた板倉の上半身は汗で濡れていた。聞こえてくる息遣いも荒い。 零の下半身に伸びてきた板倉の手に先走りで濡れた性器を握られ、亀頭を指で刺激された途端にあっけなく絶頂を迎えた。自分の腹や板倉の手を精液で汚して、力が抜け た零の腰を再び掴み、先ほどとは違う調子で攻めてくる。激しく突き上げてきたと思えば不意打ちで動きを緩めたり、一切の余裕を与えられない。 やがて達した板倉が零の中に熱い精を全て注ぎ込むと、零は今度こそ気が緩んで広い胸にすがるように倒れ込んだ。 目が覚めて時計を見た零は、今までの余韻が吹き飛ぶほど真っ青になった。 9時には帰るつもりだったはずが、もう11時を過ぎていた。時間が経つのを忘れて板倉の腕枕で眠っていたのだ。家にも連絡を入れていないので、大変なことになる。 慌ててベッドから抜け出して服を着ていると、零よりも遅れて目覚めたらしい板倉が起き上がる気配を感じた。 「予定より遅くなっちまったな、大丈夫か?」 「大丈夫じゃねえから急いでるんだろ!」 「着替えより先に、親に電話したほうがいいんじゃねえの」 それを聞いて、下着を穿いてシャツを取った手が止まる。零は鞄の中から携帯電話を出して登録してある自宅の番号をアドレス帳から探す。 「俺がお前の親と話してやろうか、息子さんといやらしいことをして帰りが遅くなりましたって」 「あんたは黙ってろよ!」 この状況で軽口を叩く板倉を睨み付けすと、番号を表示させて通話ボタンを押す。 今は背中を向けているので分からないが、最後に見た板倉は薄い笑みを浮かべ、憎らしいほど余裕の表情で零を眺めていた。 |