身勝手な純情 この家に来た目的は、借りていた本を返すことだった。 前から興味はあったものの見つからずに苦労していた本を板倉が持っていると聞き、素直に飛びついた。 借りるまでには色々とひと悶着あったが、分厚く字は細かいが期待通りの内容だったその本にすっかり夢中になり一晩で読み終えた。 学校帰りに寄ってすぐに帰るつもりだったが、板倉に引き止められて部屋に留まっているうちに、おかしな雰囲気になってしまった。こんなはずではなかったのに。 太い亀頭を窄まりに押し当てられ、腸壁を拡げられると零は思わず声を出してしまった。 事前にじっくりと慣らされていたので苦痛は感じない。大きく足を開いて男の性器を飲みこんでいる現実に、何と言ったらいいのか 分からない快感を覚えた。指で内側を探られている時は、無遠慮に中まで覗かれて恥ずかしくて消えてしまいそうだったのに。 お前の全部を見たいんだよ、と気が遠くなるような甘い声で囁かれて、拒むことができずにされるがままの状態が続いた。 学校へ行って勉強して帰ってくるだけの毎日に、心が震えるような刺激は一切なかった。 ただひとつ、自殺サイトで知り合った仲間と振り込め詐欺の集団を欺いた時以外は。 拉致された仲間を助ける計画が狂い制裁を受けかけた時、そういえばこの男も居たのだ。 挿入されているだけで身体が悦び、自身を保つのも限界だ。覆いかぶさって腰を進めている板倉と目を合わせることができない。 喉のあたりや、逞しい肩を見ることでごまかす。 こんなことになるから、後ろからしてほしいと言えば良かった。板倉に背中を向けていれば、顔を見られずに済む。 「半分くらいまで入ったぜ」 「いちいち報告しなくていい……」 「気になってるかと思ったんだよ、俺のものがどこまでお前の尻を犯しているのか」 「そんなの知りたくねえから、もう何も言わないでくれ」 必死でそう訴えると、それまではゆっくりと腰を進めていた板倉は突然、一気に腸壁の奥まで突き上げてきた。 全くの不意打ちで、零は先ほどよりも大きな声を上げて目に涙をにじませる。 板倉は零の涙を指ですくい取り、笑みを浮かべながらそれを舐めた。 「あのままじらしてたら、俺は自分でも何を言うか分からなかったからな」 自身を抑えられなくなるほど板倉が未熟な男ではないことを、零はよく知っている。あまりにも見え透いた嘘に憤りを覚えた。 それでも予想よりも太く大きかった板倉の性器を全て飲みこみ、貫かれている今は冷静にものを考えられなくなっている。 もし何度も強く突かれたら、刺激を求めていたこの身体は堪え切れずに完全に板倉に主導権を握られてしまう。 「板倉、頼むから、動かないでほしい」 「今更無茶な頼みだな、このまま抜いて終われって言いたいのか?」 「こんなこと今日が初めてで、怖いんだ……」 すがるように板倉の腕に触れると、目の前の男が再び笑う。そして零の頭を撫でた。 「まあ、お前が初めてだって知ってて抱いたんだからな。だがその代わり、俺の言うことも聞いてもらうぜ」 「ど……どんなことを」 「簡単さ、普段の零がどういうふうに身体を慰めているのか見せてくれよ」 「何言ってんだ、できねえよそんなの!」 「あれもだめこれもだめって、わがままな奴だな」 そう言う板倉がこちらを睨んできた瞬間、嫌な予感がした。いくら余裕のある大人とはいえ、板倉はそれなりの地位を持つヤクザだ。甘く見ているとただでは済まない。 零は震える手で自らの性器に触れる。それはすでに勃起していて、先走りを浮かべて濡れていた。かすかに熱を持った性器を握り扱きながら、片方の手で乳首を摘まむ。 「扱くだけじゃ物足りないのか? 欲張りだな、零は」 「このほうが、気持ちいいから」 「どんなやり方でも構わねえぜ、お前のいやらしい姿をちゃんと見てやるよ」 乳首への鋭い刺激と、奥から押し上げられていくような性器への刺激に挟まれて、たまらなくなる。板倉と繋がったまま自慰を見られて、恥ずかしさで気が狂い そうだ。本当はそんな気持ちなど吹き飛ぶくらいに激しく突き上げられて犯されたいのではという、心の隅に浮かんだ疑問を慌てて打ち消す。 自慰だけでは足りず、男に抱かれなくては満たされない身体になってしまうのが怖かった。 男である零の身体は女とは違い、そもそも何かを受け入れるようには出来ていないのだ。 前でも後ろでも気持ちよくなるようにしてやる、と以前板倉に言われたのを思い出して、今まさにそうなりかけているのが信じられない。男として生きていけなくなる。 「自分でいじって、気持ちいいか?」 「……きもちいい」 「俺に抱かれるのは嫌でも、自分でするのを見られるのはいいってことか」 零の手の動きや顔を凝視してくる板倉に、何と答えたらいいのか分からなかった。挿入は許してもその先は拒むという矛盾に、板倉は苛立っているのだと思う。 結局自分の都合しか考えていなかった自身の身勝手さに、零は今までの言動を悔やんだ。中途半端になるくらいなら最初から受け入れなければ良かったのだと。 やがて零は絶頂を迎え、手や腹を精液で汚した。板倉の性器を強く締め付けながら。 「いたくら、ごめん……」 「はあ?」 「俺のこと、もう好きにしていいから」 「急に投げやりになってんじゃねえよ」 眉間に皺を寄せながら低い声で呟き、板倉は零の腸壁から性器を抜くと身支度をしてベッドから離れる。完全に怒らせてしまった。 零も汚れた部分を拭き取り下着を穿いた。 板倉との関係は、ここで終わってしまうのだろうか。そんな予感がする。 「俺は、自分のことしか考えられない酷い奴だ。勝手なことばかり言って板倉を困らせた」 シャツを羽織った板倉の背中は、こちらに向けられたままだ。それでも零は諦めない。 「もしあのまま最後までやってたら、自分がどうなっちまうか分からなくて怖かったんだ。入れられただけでもう、おかしくなってて……」 「要するに、どうなるのか分かれば問題ないって?」 振り向いた板倉は笑みを浮かべていたが、視線は冷たかった。気まずさに言葉が出てこないまま黙っている零に近づいた板倉は、表情を崩さずにベッドに腰掛ける。 下着を穿いただけでまだ肌を晒している零の肩を抱き、唇を寄せて囁く。 「どうしようもない淫乱になって、もう俺から離れられなくなるんだよ」 それを聞いた零が青ざめて身体を竦ませると、すぐに笑い声が上がった。今度は心底愉快そうに板倉は、腹を押さえながら何度も肩を揺らしている。 「なんてな、冗談だ」 「そんなふうには聞こえなかったぞ……」 「それは悪かった」 前髪に触れられ、露わになった額に板倉の唇が軽く押し当てられる。挿入していた時とは全然違う優しい行為に、胸が熱くなった。 「お前はどう思ってるか知らねえけど、俺もそんなに出来た人間じゃないんだぜ」 「そんなことはない、板倉は何でもできるし俺なんかと違って大人だし」 「それは買い被りすぎだ、嬉しいけどな」 零から板倉にしがみつくと、強く抱き締められた。あんな自分勝手なことをして板倉を不愉快にさせたのに、許してもらえたのだろうか。 身体を包み込む温もりに、何もかも任せてしまいたくなる。 顔を上げると、板倉の肩越しに壁の時計が見えた。この部屋を訪れた時にはすでに明かりがついていたので気にしていなかったが、もう夜の9時を過ぎていた。 板倉も零の視線を追い、時計が示す時刻に気付いたようだった。 「もうこんな時間か……家まで送るぞ」 「いや、毎回送ってもらうの悪いしひとりで帰るよ」 「今日は俺もやりすぎた、その詫びも兼ねて送らせてくれ」 真剣な顔でそこまで言われると、断れない。板倉がやりすぎたのではなく、零の身勝手で怒らせただけなので申し訳ない気がした。 「またいつでも来いよ。お前の好きそうな本、まだたくさんあるからな」 「本も読みたいけど、俺は……」 言葉の続きを促すように見つめてくる板倉と目が合うと、急に恥ずかしくなって俯く。 今度会う時は板倉に、今まで知らなかった淫らな行為の更に先まで教えてほしいと密かに思った。 |