密室で胸騒ぎ 「ねえ零、手を繋いでもいいかい?」 「何言ってんだ、こんなところで」 「いいじゃん、ちょっとだけ……」 「怒るぞ、ミツル」 伸ばした指先はすぐに振り払われ、一瞬こちらを睨んだ零はミツルを置いて先を歩いていく。 これって振られたのかな、と後ろ向きに考えてしまう。 確かに昼間から、街の中で男同士が手を繋いで歩くというのは珍しいというか、誰が見ても異常な光景だと思う。 もし零が女の子だったら、と有り得ないことを考えてはため息をついた。 しかし零はミツルよりも年下で背も低いが、運動部の生徒のように引き締まった身体や立ち振る舞いはどう見ても男だ。しかも全裸を何度も見ているので間違いない。 部屋でふたりきりの時は、ためらいもなく密着して指を絡ませているのに。驚くほど積極的に求めてくる様子を思い出すと、うっかり勃ってしまいそうだ。 街の中で股間を押さえながら歩くのは辛いので、浮かんでくる零の淫らな姿を慌てて頭から遠ざける。こんなことばかり考えているから、怒らせてしまうのだ。 気が付くとかなり前を歩いていた零は立ち止まって、遅れているミツルを見ていた。まだ不機嫌そうなのが気になる。 零の元へ走ると、再び並んで歩き出す。零はずっと何も言わず、ミツルも言葉が見つからない。横を通り過ぎて行く、幸せそうに盛り上がっている男女が羨ましかった。 「さっきはごめん、わがまま言って」 「いや、俺のほうこそ冷たくしちまって悪かった」 「そんな……零が謝ることないよ」 「でも男同士だし、人前ではちょっとな」 語尾が消え入りそうな声でそう呟いた零の頬は、うっすらと赤くなっていた。そんな顔をされてはどうしても、今すぐ抱き締めたくなるので困る。 「俺、昔から友達居なくて。誰かと一緒に街を歩くことってなかったから夢だったんだ、こういうの……今、すごく幸せだよ」 手を繋げなくても、零と一緒に居られるだけで嬉しい。ユウキやヒロシと共に命を絶とうとしていたところを零に救われ、生き伸びたおかげでこんな気持ちを知ることができた。 そんな今の自分が、もし零に見捨てられたらどうなってしまうのかと重い考えもよぎった。 目当てのカラオケ店に着くと、店員の案内で個室に入る。正面にあるテレビ画面には、名前すら知らない歌手のインタビュー映像が流れていた。 安っぽいソファに腰かけて店員に飲み物を注文した後は、曲目が載った分厚い本を適当にめくる。今流行りの歌は何ひとつ分からない自分が情けなかった。 「なあミツル、何歌うんだ?」 隣に座っている零が、ミツルの肩に触れながら本を覗き込んできた。そのせいで意識がそちらに集中してしまう。 とにかく視線は泳ぐばかりで、本に載っている似たような曲目の羅列は全く頭に入ってこない。何とか集中して今月の新譜ページを見ても、やはりどれもこれも知らない曲だった。 インターネットに繋いでもゲームの攻略サイトや、いかがわしい道具の通販ページなどを興味本位で見ているのが悪いのだろうか。ここに来て、視野の狭さが悔やまれる。 注文した飲み物を持ってきた店員が入ってきても、零はミツルから離れない。 ミツルの腕に身体を密着させてくる零に我慢できず、震える手で分厚い本を勢いよく閉じた。 それを乱暴にテーブルの上に投げ捨て、零の二の腕を掴んでソファに押し倒す。覆い被さった途端に目線が合い、胸が熱くざわめいた。 「人前じゃなければ、何でも受け入れてくれるってことかい?」 返事を待たずにミツルは零にくちづけをした。最初は唇を重ねるだけだったが、零がろくに抵抗しないので調子に乗って更に深いものに変える。互いに舌を拙く絡め合う。 シャツの上から胸をまさぐると、零は恥らっているのか熱い息を漏らしてミツルから目を逸らす。左胸に手のひらを押し当て、激しくなっている零の心臓の鼓動を感じた。 「ふたりきりになると、思わせぶりにくっついてきてさ。ずるいね、零は」 そう囁いて耳に息を吹きかけると、零の身体がびくっと跳ねた。まるで縋るように背中にまわされた両腕に興奮して、再び唇を重ねる。 個室とはいえ、まさかこんな展開になってしまうとは思わなかった。歩きながら手を繋ごうとした時のように、抵抗してくれたらやめられるのに。 ミツルの短く硬い髪に、零の手が優しく触れる。そのまま頭を抱き込まれて零の胸元に頬を寄せると、衣服を通じてかすかな温もりが伝わってきた。 零とカラオケに来たのは今日が初めてではなく、最初はユウキやヒロシも一緒だった。ヒロシのマニアックなアニメソングメドレーに、ユウキが延々と付き合わされていたのを覚えている。 なかなかマイクを離さないヒロシが用を足しに行っている間に、ミツルは零に誘われて1曲だけ歌った。カラオケは不慣れであまり上手く歌えなかったが、大切な思い出になった。 思い出に浸りながらも、このまま何事もなかったように歌えるだろうかと不安になる。そもそもここに来たのは歌うためだ。忘れてはいけない。 「ぜ、零……これからどうしようか」 「どうする、って」 「せっかく来たんだし、歌ったほうが」 そんな提案とは裏腹に、ミツルは零のシャツの中に手を入れて小さな乳首に触れる。指先で軽く引っ掻いたり摘んだりしていると、零は息を乱した。 何やってるんだと突っ込まれることを前提にした悪戯のつもりだったが、見せられた反応にすっかり欲情してしまった。そして、零の股間が少し膨らんでいることに気付く。 邪魔なジーンズを足首まで下げて抜き取り、自宅以外では初めて見る零の太腿やふくらはぎを晒した。 性器は下着を突き上げるほど硬くなっており、亀頭の部分には濃い色の染みができている。 慌てて股間を隠そうとした零の手を遮り、下着の上から性器を扱き始める。 手を動かすたびにそれは更に硬くなり、薄い布の奥では先走りが溢れ続けて染みを広げていった。 性器の根元にある、柔らかい膨らみも忘れずにじっくり愛撫していく。 「ああ……ミツル、このままだと俺、もう」 「俺に散々いじられて、パンツの中でイッちゃうんだろ……分かるよ」 分かってるならやめてくれ、と涙を浮かべながら叫ぶ零をよそにミツルは、腰を上げさせて尻の窄まりに触れた。 指先をねじ込むような動きで刺激を与えるうちに、いつもミツルの性器を飲み込んできつく締め付けるそこは、下着越しでも感じるほどひくついてきた。 「お前に抱かれるのは嫌じゃないんだ、でもせめて脱がせてくれないか」 「うん、零だけにこれ以上恥ずかしい思いはさせないよ」 目の前で乱れる淫らな零を見て、ミツル自身も限界だった。零の下着を脱がせると、ミツルもジーンズと下着を脱ぎ捨てて同じ格好になる。 痛いほど反り返った自身の性器を扱きながら、零の窄まりに指を埋めて腸壁を拡げていく。指を2本に増やし、指を内側で曲げると感じてしまう零の姿を堪能した。 「歌いに来たのに、俺が変な気起こしたから台無しになっちゃったね」 頃合を見て指を引き抜き、代わりにそこへ熱い性器を押し当てた。終わった後にはソファを汚しているかもしれないが、もう引き返せない。 頼んでいた飲み物はもう運ばれてきているので、途中で店員が入ってくることはないだろう。 腰に絡みついてきた零の足に誘われるまま、ゆっくりと挿入する。身体を前に倒し、喘ぐ零にくちづけをしながら闇雲に腰を打ち付けた。 「……俺もだよ、ミツル」 「何が?」 「お前と一緒に居られて、俺もすごく幸せだよ」 ミツルに揺さぶられている零が、表情を緩めてミツルの頬に触れてきた。その手の温かさや言葉に胸が締め付けられて泣いてしまいそうになる。 ここまで嬉しいことを言ってくれるのは、零以外は知らない。厚い殻に閉じこもって他人と関わろうとしなかった、こんな情けない自分にはもったいないとすら思う。 我慢できずに涙が次々に溢れて、零のシャツに染み込んでいった。 「こんな格好で泣くなよ、ばかだなあ」 「ご、ごめん……嬉しくてさ」 涙を手で拭い、ミツルは再び腰を動かした。半分ほど挿入していた性器をぎりぎりまで引き抜いてから強く突き上げると、零は身体を震わせながら射精して腹や服を白く汚した。 帰りの電車の中、座席に腰掛けながら大きな駅で乗客が次々と降りていくのを眺める。出発する頃には、この車両には零とミツルのふたりだけが残されていた。 「俺、会計の時店員さんの顔まともに見られなかったよ」 「それはミツルだけじゃないぞ……俺だって」 誰も入ってこなかったので見られてはいないはずだが、楽しく歌うための場所であんなことをしてしまった。 もし監視カメラでもついていたらどうしようかと本気で焦った。 どちらにしても、あの店にはしばらくは気まずくて行けない。 その反面、いつもとは違う場所でのセックスが新鮮すぎて燃えた自分が居る。 色々いかがわしい妄想をしていると、零の指先がミツルの手に触れた。何かの拍子でぶつかったのかと思ったが、零はこちらを見つめながら手を重ねてくる。 「どうしたの、零」 「今なら俺達以外、誰も居ないだろ」 零が言いたいことをミツルがようやく理解すると、零はミツルに手を重ねたまま俯いてしまった。そんな零がどうしようもなく愛しくて、ミツルはその手を強く握った。 |