汚れた制服 もうすぐ次の駅に着いてしまう。 ミツルは憂鬱で重い気分になり、吊革に掴まりながらため息をついた。 何故次の駅がこんな気分にさせるのかと言うと、授業を終えた有名な進学校の生徒達が大勢乗ってくる駅だからだ。 男女共学の、やたらと難しい名前の私立高校。そのブレザー姿を街で見かける度に、彼らは同年代でも自分とは全く違う世界の住人なんだと強く思う。 直接何かを言われたことはないが、お前は底辺の人間なんだよと蔑まれているように感じる。そんな被害妄想で頭が爆発しそうだった。 駅に着く直前、ミツルは開くドアのほうを見ないように俯いた。電車の時間をずらせば解決するのだが、この時間に乗らないと放課後のバイトに遅刻するのだ。 今日はバイトがない日だというのに、うっかりこの時間の電車に乗ってしまった。気付いた時にはもう遅かった。 平坦な調子のアナウンスが流れた直後に電車が止まり、ドアが開く。あの色のブレザーを着た生徒達が次々と乗車し、先ほどよりに車内は窮屈になった。 携帯電話を鳴らしたり、大声で騒いで周囲に迷惑をかけるような非常識な生徒は居ない。他校との雰囲気の違いがこんなところにも出ている。 自分が降りる駅までの時間が、やたらと長く感じた。どうせ駅で降りて帰宅しても、ひとりでゲームかインターネットをしているだけなのだが。 すぐ隣の空いている吊革に、誰かが掴まる。下を向いたままなので顔は見えないが、ズボンの色からして例の学校の生徒だ。頼むからそんなに近くに来ないでほしい。 「……おい、もしかしてお前」 突然声をかけられ、驚いて肩が跳ねた。こんなエリート学校に通う知り合いなど覚えがない。どうせ人違いに決まっている。 悪いと思いつつ聞こえない振りをした。 「顔上げろって」 「……」 「無視すんなよ、ミツル」 見知らぬ人間のはずなのに名前を呼ばれて、今度こそ顔を上げる。その先には確かに顔見知りの人物が居て、こちらを見ていた。 長い睫毛の、整った顔立ちの持ち主。普段は私服姿しか見たことがなく、まさかこの時間にこんな場所で会うとは思わなかった。 「ぜ、零……!」 「ミツルも学校終わったのか、偶然だな」 今までは何だかんだと想像はしていたものの、本人に直接尋ねることは出来ずにいた。零が学生か否か。17歳とはいえ、誰もが高校に通っているとは限らない。 家庭の事情か何かでもう働いているかもしれないとも、勝手に思っていた。 想像もしていなかった、零の制服姿。普段着も悪くはないが、それよりも年相応な感じがして、何よりもとても新鮮だ。 「なあミツル、これからバイトか?」 「いや、今日は休みなんだ」 「それなら……今から俺の家に来ないか」 「えっ!?」 「今までずっと、お前の家に押しかけてばかりだろ。だからたまには、な」 押しかけているもなにも、ミツルが零を自分の家に連れ込んでいると言ったほうが正しい。ふたりで楽しめるものがゲームくらいしかない、貧相で汚い部屋に。 電車で制服姿の零に会えただけではなく、今日はバイトがなくて本当に良かった。最悪の瞬間を乗り越えた先に、こんな幸運が待っていたとは。 しばらくして、いつもは降りない駅で下車すると零が、未知なる宇海家までの道案内をしてくれた。 2階に上がって通されたのは、何もかもきちんと整理された広くてきれいな部屋だった。 布団敷きっぱなしで雑誌や服が散らかっているミツルの部屋とは大違いだ。机のパソコンを見て、零もあの自殺サイトを眺めていたのだと思うと妙な気持ちになる。 あの日は頭に血が上って冷静に考えられなかったが、零は自らも死ぬつもりでサイトに出入りしていたわけではなかった。 ずっと温めていた命がけの計画に乗ってくれる仲間を求めていたのだ。 そうでなければ、廃ガスで死のうと事前に打ち合わせをしていたのに、用のない斧をわざわざ持ってくるはずがない。 菓子や飲み物を乗せた盆を持って部屋に戻ってきた零が、ミツルの隣に腰かけた。ふたりとも、ベッドを背もたれにして楽な姿勢を取る。 「零って高校生だったんだね、今日初めて知ったよ」 「ああ……ミツルが高校行ってるのは知ってたけど。俺のほうはずっと聞かれなかったから、ミツルはあまり俺に興味ないのかって思ってた」 「そんなことないよ! 俺は零にすごく興味あるよ!」 無意識に零の両肩を掴んで叫ぶ。上着はすでに脱いでいて白いシャツ姿なので、薄い布地を通して零の体温が肩から伝わってくる。 しかし我に返った途端、とても恥ずかしいことを口走ってしまったことに気付いて赤面してしまう。目を合わせた零も真っ赤になっていた。 「ごめん零、変なこと言って」 「そんなことねえよ、むしろそこまで想ってくれていて嬉しい」 「俺さ、あんまり人と仲良くしたことってなかったから。気持ちを言葉にするのが苦手なんだ」 「お前のそんなところも俺は、好きだぞ」 言い訳じみたミツルにも気を悪くする様子を見せず、零はそう言って微笑んだ。そんな表情で嬉しいことを言ってくれる零を、もう離したくないと思った。 制服のズボンを下ろすと、白い靴下に包まれた足や引き締まった太腿が露わになる。何度かすでに見ているとはいえ、今日はいつもとは違う感じに見えた。 上半身はシャツとネクタイを残したままだ。ベッドに仰向けになっている零がシャツを脱ごうとしていたので、それを慌てて制止する。 「これから汗かくんだし、脱がせろよ」 「いや、今日はせっかくだから上はそのままで」 「お前ばっかり脱ぐのかよ、ずるいぞ」 脱がせてしまうのは惜しい。要するに今日は制服姿の零と、いやらしいことをしたい。 変態だのマニアックだのと言われようが構わない。何とでも言ってくれという気分だ。 零には好き勝手に要求しておいて、ミツルは下着も脱いで全裸になった。 無言でも言いたいことが伝わってくる視線に気まずくなりながらも、それをごまかすように零にくちづける。指を絡ませ、身体を密着させていく。 零の両腕がミツルの背中にまわり、強く抱き締められる。くちづけが深くなると共に、気持ちも高まっていった。 唇を離すと、零の下着越しにお互いの性器が触れるように押し当てる。少しだけ勃ち上がってきている性器に更に刺激を与えるように、ぐりぐりと腰を動かし始めた。 「あ、こんなの、だめだ……!」 「だめなのに、零のも硬くなってきてるよ」 「それは……ミツルが、するから」 「だって零が嫌がらないから」 零の下着に、よく見ると濡れたような染みが浮かんでいた。上半身だけとはいえ、制服姿で淫らに先走りを漏らす零に密かに興奮する。 同じ学校ならいつでも見放題だが、能力があまりにも違いすぎるのでそれは想像するのも無謀な話だった。放課後にこうして会った時くらいにしか見られない。 下着越しに零の亀頭に触れ、そこを摘まんだり指先で執拗に刺激を与えていくと零の腰がびくびくと跳ねて面白いように反応した。 「で、出ちまう……このままじゃ」 「我慢しなくていいよ、制服着たままパンツの中でイッちゃっても」 「嫌だ……」 弱々しい声で拒否する零にたまらなくなり、ミツルは下着越しに零の性器を掴むと強く扱き始めた。完全に勃起したものが布地を突き上げている様子が卑猥すぎる。 いつの間にか拒むことを忘れ、呼吸を乱しながらミツルに身を任せていた零はやがてぶるりと震えて、全身の力が抜けたようにぐったりとしてしまう。 それと共に、零の下着の中からねっとりとした生温かさを感じた。 「気持ち悪いよね、今脱がせてあげるから」 ミツルは優しい声で囁くと、零の下着をゆっくりと脱がせる。そこから青臭い精液の匂いが漂い、達したばかりの性器は力を失い萎えていた。 下腹を汚している精液を指ですくい取り、零の両足を大きく開かせると後ろの固い窄まりにそれを塗りつけながら解していく。 まだ指しか挿入していない状態でも、零はミツルの指を強く締め付けてくる。このいやらしい穴に早く性器を挿入したくなり、内側は充分に解れていなかったが 欲望に負けてしまい、指を抜くと今度は自身の亀頭を窄まりに押し当てた。 「ミツル、まだ早くねえか?」 「だ、大丈夫だよ」 零からの不安混じりの問いかけに曖昧な返事をして、ミツルは零の腰を掴みながら挿入していく。解し方が不十分だったために、かなりきつかった。 痛みを堪えるような声を上げる零の身体は汗ばみ、白いシャツがところどころ汗で透けている。その表情を見ていると今更ながら罪悪感が生まれてきたが、やはり零の中は 狭くて気持ち良かったので快感に流されてしまった。 挿入したまま身体を倒し、再び零にくちづける。舌を割り込ませると零もその動きに応えてくれた。何もかも零が本気で拒めば途中で止めるつもりだったが、 結局はこうして受け入れてくれているので、ついその優しさに甘えてしまうのだ。 亀頭が奥までたどり着くと、腰を動かし始めた。零の両足がミツルの腰に絡みついてきて、引き寄せられる。密着しながら貪欲に求め合う。 零が着ているシャツやネクタイはふたり分の汗を吸い取り、擦れ合う身体に挟まれて皺だらけになってしまっていた。 「零……俺、またわがまま言っちゃったね」 「いつものことだろ、お前は」 「呆れてる、かな?」 「さあな」 そんな会話を交わしているうちに、そろそろミツルは射精しそうになった。制服の零とのセックスも終わりに近づいてきて、寂しい気分だ。 またしても良からぬ考えが浮かんできたが、さすがにそれはまずいだろうと思って却下した。しかし今日のようなチャンスは滅多に訪れるものではないと思うと、 どうしても諦められない。 「ぜ、零! ごめん!」 「えっ……?」 射精する直前に零の窄まりから性器を抜くと、汗に濡れたシャツに向かって精液を何度も吐き出して汚した。避けたはずが、濃い色のネクタイにも飛び散った。 制服姿の零に射精したかったという欲望が満たされたものの、さすがに呆然としている零に何と言えばいいのか分からなくなり、今日中で最も気まずい時間が流れた。 |