みだらなわがまま





互いに服を脱ぎ、下着姿になって布団の上で抱き合う。次第に深くなるくちづけは、これから始まる行為への期待を更に高めていく。
肌に触れる手つきも何もかもまだ不器用でたどたどしいが、あの真っ直ぐで優しいミツルに愛撫されているというだけでもうたまらなかった。 押し倒された後、零の乳首を舐めて歯を軽く当ててくるミツルの頭に触れて、気を抜けば漏れてしまいそうな声を抑える。
ミツルになら乱れた自分を見られても構わないという気持ちと、男の身で我を忘れて喘ぐのはおかしいという気持ちの狭間で揺れているのだ。

「零、痛い?」
「いや……気持ちいい」

不意打ちで強く吸い上げられて、びくっと身体を震わせてしまう。性器はいつの間にか反り返り下着を突き上げていた。布地越しに重なり合ったミツルの性器も同じような 状態になっていることに気付く。
そんな時、何かを思い出したかのように慌てて零から離れていったミツルが、机の引き出しの奥から出してきた小さな箱。それを見た零は思わず眉をひそめた。 シンプルな白い箱の表には薄さ0.02ミリと書かれている。それほど経験が多いわけでもない零でも、これが何であるかくらいは分かる。

「これ、通販で頼んだのがようやく届いたんだ……」

零の様子を伺うように箱を見せるミツルが何を言いたいのかは、大体予想がついている。しかしあえて零からはそれを口に出さずにいた。
今までは何も気にせずに楽しんでいたはずが、何故急にこんなものを。少し前まで身も心も満たしていた甘い興奮が、あっけなく引いていくのを感じる。

「今日から、する時はこれを付けようかと思ってさ」
「俺は男なんだし、そんなもの付けなくてもいいだろ」
「でもネットで調べてみたらやっぱり、男同士でも色々と気を遣わなきゃいけないって」

顔を赤らめながら小さく呟くミツルに、どこか苛立ちを感じてしまう。 箱から中身を取り出して開封し始めたミツルを見て、零はため息をついた。
仰向けになっていた身体を起こし、布団のそばに脱ぎ捨てた服を引き寄せる。

「悪いミツル……俺、今日はもう帰るからな」
「お、俺、零のことが心配で! 安心して最後までしたかったから!」
「お前の気持ちは分かったけど、そんな気分じゃなくなったんだ」
「零っ!!」

ミツルの辛そうな叫びを背中で受け止めながら、再びジーンズを穿いてシャツを着る。こんな展開を望んでいたわけではなかったのに。
自分の思い通りにならなかったというだけで、いつでも変わらずに優しいミツルの気遣いを素っ気なく振り切ってしまった。


***


常に親の居ない家に帰って部屋でひとりになると上着を脱ぎ、ベッドに倒れこんだ。
あまりにも子供じみた言動に、ミツルも呆れたに違いない。それでも今までのようにミツルの熱さを直に感じたかった。 あの感覚を何度も味わってしまった今ではもう、遮るものが薄い膜1枚でも我慢できない。
ジーンズと下着も脱ぎ捨て、腰を上げてうつ伏せになる。そうして指を伸ばした先は性器ではなく後ろの穴だった。勃ち上がっている性器の先走りを使い、慎重に解していく。 自分で後ろに触れるのは初めてで不安だったが、ミツルを受け入れることもできずに、中途半端に持て余した身体を満たすにはこれしかない。
指を激しく出し入れしている最中に思い浮かべているミツルは、勃起した性器で零の狭い内側を容赦なく犯している。

「面倒なことなんて何も考えなくていいから、もっと奥まで来てくれよ……」

浮かび上がる先走りはすでに溢れ、シーツに染みを作っていた。そして感じる部分を探り当てると、執拗にそこを指でいじる。ミツルがいつも触っているのもこの場所だ。

「みつるっ、そこ、そんなにいじられると俺……」

指の動きを更に激しくして、この部屋には居ないミツルの名前を呼ぶ。余裕がなく、飲み込めずに溢れた唾液が唇の端から流れ落ちていった。
零のことを考えながら自慰をしているというミツルの言葉を思い出して、更に身体が熱くなった。聞いた時は冷静な振りをして受け止めたが、本当は淫らな気分になってしまった。
もう片方の手で性器を強く扱き始める。せめて今だけは気まずく別れてしまった辛さを振り切るように、ためらいも何もかも捨ててひたすら貪欲に快楽を追っていく。

「ミツルのを、生で感じたかったって素直に言えばよかった…!!」

限界が近づき、腸壁が指をきつく締め付けてくる。 そして奥深い場所に射精された感覚を思い出しながら、達した零は性器を扱いていた手やシーツを精液で汚してしまった。それらを拭き取る余裕もなく、重い疲労でぐったりと寝そべる。

「今日も俺の中にたくさん出してくれたんだな……嬉しいよ、ミツル」

後ろの穴から性器を引き抜いている想像の中のミツルに向かって、零は小さく呟いた。表情が緩んでいるのが自分でも分かる。
夢心地になっている最中、脱いだジーンズのポケットに入れていた携帯電話が鳴った。
ベッドに寝転んだままそれを手繰り寄せて確認すると、ミツルからの電話だった。 激しい自慰の直後で、いつも通りに話せるだろうか。しかし無視はしたくなかったので、覚悟を決めて通話ボタンを押した。

『ぜ、零! 今どこに居るの?』
「たった今、家に帰ってきたところだ」
『そっか、さっきは本当にごめんよ。零に嫌な思いさせちゃって』

明らかに落ち込んでいると分かる声で、ミツルが謝ってくる。自身の勝手なわがままで部屋を出た零のことは、一切責めずに。
ユウキやヒロシも、零にとっては大切な仲間だ。しかしミツルはその中でもどこか特別な存在だった。義賊活動の最中、危険なことを頼んだ時に一瞬でも嫌そうな顔をせずに引き受けてくれた。
そして義賊の役割を終えて、仲間同士で連絡を取り合うのはやめようと提案した後も、ミツルだけは零に会いたいと言ってくれた。迷った末に、今では誰にも言えないような関係になってしまった。
こうして電話を通じて会話をしているだけでも、身体の奥が再び疼いてくる。あれだけ自慰をしてもまだ足りなくなってきた。

「ミツルは悪くない、だから謝らないでくれ」
『あ、あのさ……零は、今までみたいに何も付けないほうがいいの?』
「お前が許してくれるなら、そうしたい」
『ほ、本当は俺も……あっ! じ、充電切れそう!零っ……!』

ミツルの声は途切れ、通話は終わってしまった。深く息をつくと静かになった携帯電話を枕元に置いて、枕に顔を埋める。
最後の言葉は、ミツルも本当は零の内側を直接感じたかったということだろうか。
今すぐにでも会いに行きたいと思った。ミツルの温もりを覚えてしまったせいで、自慰だけでは心から満たされない。




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2008/4/20