17.


 どれくらいの時間が経過したのか。
 ただの体感時間であれば数日など疾うに過ぎていただろうが、この空間はアーチャー―――英霊エミヤの宝具とも言える固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)』の内部である。したがって、流れる時間の速度は外界とは異にしていた。
 言うなれば、外界時間に換算すると数時間が経過しただけに過ぎない。


 それを聞かされてランサーは色々な意味で安堵した。
 まずはアーチャーのかつての主である赤の少女の無事―――敵味方に関わらず「いい女」が死ぬことほどランサーにとってつまらないことはない。
 そして―――


「『自分』と決着を付けるか、アーチャー」
「…………無論だ、私はそのために」
 ―――守護者の生を甘んじて受けてきたのだから。

 言外に呟く言葉は以前と変わらない。
 けれど、その意味は大いに異なっている。

 そんなアーチャーの様子に満足するかのようにニヤリと笑みを浮かべたランサーは、
「じゃ、嬢ちゃんはオレがいただくとするか……それくらいの役得があってもいいだろ」
 と軽口を叩く。普段と変わらぬ飄々とした口ぶりの青の騎士に、半ば憮然と、残りの半分で苦笑せざるを得ない赤の騎士は、
「……君に扱いきれるか、あのはねっかえりは」
 と親しみを込めた口調で返す。
「悍馬を乗りこなすくらいの器量がなくて、男がつとまるか」
「フ……本当に君らしい」
 予想通りの言葉を返すランサーに鼻で笑ってみせるアーチャー。その様子には、以前ほどの澱んだ翳りは見当たらない。

「じゃ…まあ思う存分吐き出しちまえや」
「……言われるまでもない」

 その言葉を最後に、アーチャーは姿を消した。
 もうじき―――約束の刻限だ。
 耳を澄まさずとも衛宮士郎とセイバーの声が、気配を張り巡らせなくても少年と剣のサーヴァントの立ち上がる動きが手に取るようにハッキリとわかる。

「―――ま、これくらいの役得がなけりゃ、あんな下種野郎の使い走りなんてやってらんねーよな」
 そう呟くと、ランサーもまた外へと向かう。2人に合流してアインツベルンの城へ向かうために。



 ―――たとえ、そこで「運命」が待ち構えていたとしても。








 壮絶な戦いは幕を閉じた。
 かつての自分―――殺したいほど憎んで、消滅こそが唯一の方法だと思い込んでいた存在、衛宮士郎に確信を抱いた今、後は全てを託す……ならば、裡に確信を抱いたまま何があっても守らなければ……。
 ヒントは与えた。
 後は……衛宮士郎が英雄王ギルガメッシュとの戦いの中で「それ」を得るのを見届けられればいい。魔力の尽きかけた身体で、それでもアーチャーは歩を進めていた。

 くだらない感傷に過ぎないというのに。
 もう、二度と会うこともないと思っていたのに―――むしろ会う必要などないというのに。

 それでも、アーチャーは歩を進める。
 たどり着いた場所はアインツベルンの城内で最もさびれた部屋。そして、この城の崩壊の原因ともなろう炎熱の火元。
 燻ぶった炎はその手を延ばすようにしてアーチャーの身体に纏わりついてくる。同時に発生した煙も同様。けれど、その火元の中心に……本来ならば真っ先に跡形もなくなっているだろう人影を発見した時、アーチャーはまだ何か確かめるべきことがあるように感じた。

 炎と異なる赤で染められた人影の周囲には、生の色彩はない。
 背中から呪いの槍で貫かれた痕跡を残して絶命している黒衣の男も……柱に凭れる形で青い甲冑を自らの血潮で彩っている槍騎士も。
 その血まみれになった白い手には小石。刻んだ跡は「炎」を意味するルーン。
 出血の痕から考えるに、この青の槍兵は自らの心臓を貫いた後で…それでも簡単に屈することを良しとせず、黒衣の男を道連れにしたことが伺えた。

「まったく……最期まで君は、私が思い描いていた通りの男だよ」
 クー・フーリン。
 と、もう呼ぶこともないだろう槍兵の真名を弓兵……エミヤは口にすると、俯いたままの白皙の頬に手を当てた。
 どんな顔をしているのだろうか。
 ほんの少し興味を抱いたアーチャーだったが、思い当たる表情は1つ。
 ならば見ても詮無いこと。
 と、一度だけ頬を撫でると燃え盛る部屋に背を向けた。




 それが別れの挨拶であるかのように。
 それが―――再会の、再戦の約束であるかのように。





・END・






 と、いうワケで完結しました。いやしかし長かった(苦笑)。
 ラストは随分と駆け足になってしまったような感がありますが、それはそれで。
 しかし、後半部のHシーンを書いてて思ったのですが……ワタシ、槍受で「和姦」を書いたのってこれが初めてのような気が……うわ、惨殺決定? 助けてキー○ン先生!! 
 ……というのは冗談にしろ、また書いてるウチに色々とコンセプトが変わってきたりもしました。だって最初は単純に「アーチャー嫉妬と憧憬からランサー拉致監禁して犯りまくる」というミもフタもないものだったのですがね……書いてるうちに「Hシーンいらないんと違う!?」とか色々考えたりもしましたし(笑)。
 途中のPCトラブルなど多々障害がありましたが、ここまで書ききれたのは励まして下さった皆様のおかげだと思っています。本当にありがとうございました。




>戻る

>裏・小説部屋へ戻る
>小説部屋へ戻る