「魔力を受け入れたところで、ここまで肉体的に疲労すれば同じことか……」
 難儀なことだ、と余計な一言を付け加えるとコトをここまで導いた張本人は、完全に脱力したランサーの身体を抱き上げる。
「……まったく、貴様にのせられた所為で我とてこのザマだ」
 ギルガメッシュは不満を隠そうともせずに、マスターである言峰に吐き捨てる。それもそのはず、結局のところランサーへの魔力補給はギルガメッシュからのものだけになったのだ。
「…………………」
 それだけではない。言峰は一度とは言えランサーに魔力を与えた。けれど、一度与えたはずのそれを取り上げてしまったために、直後にギルガメッシュは一度目より多くの魔力を奪われてしまったのだ。いくら専用の餌箱があろうとはいえ、文句の一つも言いたくなるものだろう。だが、ギルガメッシュの最大の不満…というより怒りはそのようなことではなかった。

「しかも我の快楽を支配するとは何事か!」

 最後の交わりと解放。ランサーだけでなく、言峰はギルガメッシュの官能さえも思うように操って見せた。最古の最大の支配者であったギルガメッシュにとって、主とはいえたかだか人間ごときに自らを支配されるのは赦せるものではなかった。それが房事の最中であるなら尚更である。
「……気に障ったのであれば謝罪しよう。だが、ああすればより悦いと思ったのだ……いわば善意というもので他意はない」
 力を失ったランサーの身体をソファーに寄りかからせながら、言峰の口調はいつもとかわらない。
「……ぬけぬけと言う奴だ」
 動作を終えた言峰が手を貸そうという素振りを見せるのを一瞥すると、ギルガメッシュは疲れなど微塵も感じさせない軽やかな足取りで立ち上がった。
「『この世全ての悪』をどうこうしようという人間の吐く科白ではないな、言峰?」
 どっかりと空いたソファーを自らの玉座のように腰を降ろすギルガメッシュは、ロザリオを拾い上げて手首に掛ける言峰の後姿に毒づく。それに答えるように、神父は居ずまいを正すと英雄王に笑んで見せた。
 嘲笑とも諦念とも、夢想とも慈愛とも―――そのどれもが当てはまるかのような笑み。
「さて……私は御堂に戻る。お前はどうするのだ?」
「訊くまでもなかろう? 魔力の放出が酷かったのでな、少しばかり身体を休めてから食事を摂る」
 ストレートな当てこすりに、今度は愉しげに笑んだ言峰は何も言わずに扉の外へと姿を消した。


「………………」
 波間を漂う小船のような気分、というのはこういうものなのだろうか? 
 深い深い意識の底でランサーは自分に問い掛けていた。ゆらゆらと揺れているかのような不安定な感触、そんなものは初めての体験だった。力強く大地を踏みしめる両足、生涯を共にした相棒を掴む両手。四肢の感覚をここまで失うことなどなかったのに、何故こんなことに―――! 途端、アレを口にしたところから始まるおぞましい記憶が一気に彼の脳裏に流れ始めた。
「………っっ!!」
 その衝撃に抵抗するために、ランサーは咄嗟に両の拳を握り締めた。血管が浮き出るほど強く。感覚が戻ってきていることを実感すると、現状を確認するために目を開けると首を巡らす。すると目に入ったのは煌びやかな金色の髪。
「……怠惰なものだ」
 そんなランサーの様子を、面白くもなさそうに見つめているギルガメッシュの姿だった。ランサーにとってギルガメッシュはある意味言峰以上に扱いづらい男だった。
「……テメェ、何の用でここにいんだよ」
「なに…よい眺めなもの故にな」
 その視線が自分の身体―――散々に衣を破り剥がされた―――に向けられているのを悟って、ランサーは慌てて体内に魔力を行き渡らせる。一瞬にして、青い護衣はすっぽりとランサーの身体を覆い尽くした。
「ほう、そこまで回復したか……まあ、我自ら魔力を与えてやったのだから当然か」
「感謝しろ、ってか? 人をあそこまで虚仮にしやがって……!」
 ゆっくりと起き上がると、ランサーは扉と反対側にある窓を開け放つ。
「行儀がなっていないな、狗」
 一々突っかかってくるギルガメッシュに対して、明らかに聞こえる舌打ちをするとランサーは窓枠に足を掛けた。
「テメェに褒められるくらいだったら、行儀が悪いままで充分だってんだよ!」
 そのまま一陣の風のようにして姿を消すランサー。
 英雄王はその青い突風が消え去った後を数瞬ばかり見つめていたが、体力の回復を終えたのか優美な動作で立ち上がると扉へ向かった。

「全く……」
 
 その後に言葉を続けず、ギルガメッシュは場を後にした。
 もう一つの聖堂へ向かうために。


 
 

 神父は一人、聖堂の説教壇にいた。
 礼拝の行われていないこの時分、一人として信徒の姿はない。
 それでも彼は口を開く。
 旧約聖書『出エジプト記』の一節を開き、文字を辿って読み上げる。


「過越の祭りは近い、か」
 生贄の羊は英雄王か光の御子か……どちらにしても何とも上等な神の子羊。
 それだけを思い、神父は静かに本を閉じた。



・END・



 ここまでお読みいただきまして、お疲れ様でした〜。いやもう1と7以外は汁気祭りとでもいうような話でした(笑)。ここまで書いておいて遣り残し(←今ナチュラルに「槍の腰」とか変換しやがった…)が。顔射ですよ、顔射! くわー、入れたかったのに! 屈辱に打ち震える槍とさー、飛び散った白いのを掬い取って舐めさせる神父とかさー……。まあそれは次回の課題ってコトで〜。




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