子供の浅知恵 1〜恋とはどんなものかしら?





 アイスクリームを食べている顔はいたって普通。
 普通というもの何かヘンだが、「アイスクリーム」なるものが存在しなかった時代の生き物の反応としてはごく当たり前。だから普通としか言いようがない。
 冷めえなー、珍しいなー、甘えなー、とか顔の筋肉が動くたびに思っているのだろうことが窺える。
 何しろ、彼は表情も瞳も雄弁。雄弁というよりは、素直。
 雄弁というならば、その行動。
 確とした自身を持つ彼の行動は、いつでも彼の精神の基盤を雄弁に物語る。
 だから今だって、
 ガキとはいえ、なんで野郎と一緒にこんなもん食ってっかなーオレは。
 ―――そう思っていることくらい少年にはお見通しだった……まあ、だだ漏れなのだから仕方がない。



「………………」
「………………」



 それでも少年は心底楽しげに首を傾けて隣の人影を見上げる。
 ぽかぽかとした秋の日のいい陽気。公園を渡る風は清清しく、ベンチに並んで腰掛けてひたすらアイスクリームを舐める。
 口唇から垣間見える白い歯、その隙間から出てくる赤い舌。
 少年は、思わず自分の口元を疎かにしてまで見上げてしまう。
 肌の白、口唇の赤、皓歯の白、舌の赤。
 交互に繰り返される色と、小気味良くそれらが律動を刻む様に、視線が吸い寄せられるのは仕方がない。アイスクリームを舐める仕草の一つ一つが子供のようで、けれど身体のパーツは完全な大人で。そのギャップの大きさもあるからいけない。


 少年は、視線を外せない。


 すると、
「ほれ」
 いつの間にか少年を見下ろしていた男は、先ほどまで自分が舐めていたアイスクリームを差し出してくる。ご丁寧に、添えられてはいたものの遣っていなかったスプーンまでさして。
「え?」
 不思議そうな顔をして自分を見上げてくる少年に目配せすると、
「こっち、食いたかったんだろ」
「ええと………」
 どうやら、男は下方から向けられる視線を「そういうふう」に解釈したらしい。
 少年の付け狙う獲物は、赤と白が混ざってできたピンク色のアイスクリームだ、と。
「一口やる」
 やるもなにも、アイスクリームの出どころは少年のフトコロ。正確に言えば、少年の黄金律(おさいふ)からなのだが。


 まるっきりな子ども扱い。
 ようやく同居人レベルの会話ができるようになったかと思えば、子ども扱い。
 徹底的に嫌われるか、子供として扱われるか―――この朱色の魔槍の使い手の青い男と自分の関係は二つに一つ。

 だから―――

「じゃ、いただきます」
 徹底的に子供を装うしか、少年には方法がない。
 邪気を無邪気に包み隠すしか、方法がない。


 差し出してきた手に手を重ねて捕らえて、自らの方に引き寄せて、少年は山の頂上にかぶりつく。
「あ…………」
「むぐむぐ……うん、美味しいです。やっぱりそっちにすればよかったかなー」
 鋭い山脈のような形に整えられた、コーンの上のジェラート。根元に添えられたスプーンをきれいさっぱり無視して、人工的な甘みを噛み締める。
「・・・がっぷり噛み付いたな」
「あ、すみません食べすぎちゃいました?」
 はい、と少年は少しも悪びれた様子を見せず、今度は自分の左手を男に差し出す。
「等価交換ですから、どうぞ」
 少年の手にある空の色に似た山と、自分の手にある噴火後で形の崩れた山を見比べると、
「あー……遠慮、しねえぞ」
 男は軽く視線を逸らしてぼやくと、少年のアイスクリームに齧り付いた。



 そして―――青い山は、青い平地へと姿を変えた。



「今度は別のアイスも食べてみたいですねー」
「………あのアイスクリーム屋の、ほとんどを制覇しておいて何言ってやがる」
 帰り道、連れ立って歩く二人連れ。
 金髪の少年の足取りは軽い。連れの男とのコンパスの差を感じさせないくらいに、軽い。
 対する青髪の男の足取りは・・・普段の彼を知るものかせすれば、格段に重苦しかった。
「まさかと思いますけど、ランサーさん」
 二歩ほど男より歩を進めると、まるで通せんぼをするように少年は男の前に立ちはだかる。
 無邪気な中にも、何か策を弄しているかの如き笑顔をその愛らしい顔に浮かべたまま。

「ボクとの約束、反故にしたりするつもりはないですよね」
「・・・・・・・」

 瞬時に、周りの空気が殺気を帯びる。
 秋の夕暮れだというのに、男が発する極寒の冷気が周囲を覆い尽くす。
「失言でした。忘れてくれると嬉しいです」
「…………ふん」
 そんな氷点下の温度にも動じることなく、子供は今度は無邪気な笑みで素直に謝意を示す。すると、全身から冷気とも取れる殺気を漲らせた男もまた、その槍の穂先を静かに下ろした。
 約定は誓約。心の中に留めるもの。
 そういう信念の下に在る男にとって、少年の発言はたとえ軽口とはいえ容赦するようにはできていない。
 男の矛先を静めると、
「じゃ、今度は海浜公園の反対側の入り口でお会いしましょう」
「ああ」
 少年は再び純度100%の笑みを見せると、てってけてー、と軽い足取りで男の前から姿を消した。




「しかし、海浜公園の反対側……って、一体何があるんだ?」
 等価交換とは言えないほど、金髪子供のチョコミントを貪った男は、子供から突きつけられた約定を思い出すと顔を顰めた。
 が、
「ま、とりあえず行ってみりゃー分かるか」
 そう思いなおすと、自らのねぐらである港へと歩を進め始めた。




>続く



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