こどもの浅知恵 2〜どこでそんなこと覚えてきた?





「約束どおりですね」
「・・・テメーが言ったんだろうが」


 数日後。
 ループを経たのか経ていないのか、約束の四日間内での出来事か。
 ―――或いは永久螺旋から解かれた後のことか。
 とにもかくにも、青の槍兵は金の弓兵(小)との約定に従い、冬木の中心部に位置するデートスポット・海浜公園の裏口へとやって来ていた。

 微妙に重い足どりで。

 別に果し合いとか殺し合いとかの類いではない。むしろ、ランサーからしてみれば、そっちの方なら「のぞむところ」とでも言いたいくらいだ。ところがランサーが呼び出された理由は、まったくもって不明。
 いや、原因はある。
 一口どうぞと薦められた子供のアイスクリームを、遠慮会釈なく彼流の一口でいただいたのだ。

 子供の一口と、大人の一口。
 ……ついでにいうならば、遠慮会釈ない成人男子の一口。当然、山のように盛られたジェラートは跡形もなくなった。
 ・・・その時の小さい英雄王の反応は、ランサーにとってあまりにも衝撃的だった。
 いつもいつも大人びたこの少年王は、あろうことか―――癇癪を爆発させるようにぽかぽかとランサーの胸を叩いたのだ。
「ひどい……! ひどいですよう……!!」
 ぽかぽかぽか。
 ぽかぽかぽかぽか。
 まるで本当の子供のように、理不尽な大人からの仕打ちに懸命に抵抗する本物の子供のように、ただひたすら大人の胸に怒り―――? らしきものをぶつける。

 だから、反射的に大人の口から言葉が漏れるのは仕方がない。
 悪かった、と。

 けれど、大人が騙された、と知るのは直後のこと。
 大人の言葉尻を捕らえた子供は、ぬけぬけと言ったのだ。
「じゃ、またボクにつきあって下さい。そうですね、今度はこの公園の裏口で」
 にぱにぱ、と。
 にこにこ、と。
 それはもう天使、エンジェル級の笑みを浮かべて。

 天使のようなあくまの笑顔、とは何処の賢者の言葉であろうか……?




「……で、何でまた裏口なんだ?」
「ふふふ、それはですね―――あ、」
 何かを見つけたのか、子供は大人の手を引くと軽い足取りで歩を進める。
 子供が2歩進むごとに、大人は1歩。それは単純なコンパスの差。
 行く気充分な子供と行く気不充分な大人の差ではなく。

「すみません、2本下さい」

 たどり着いた場所にある人影に、金髪子供はにこにこと屈託ない笑みを浮かべて話しかける。
 あいよ、と銀貨2枚と引き換えに子供に渡されたものは、長い棒状のものだった。

「はい、これ」
「?」
 近くにあるベンチに腰掛けると、ギルガメッシュは手にした1本をランサーへ手渡す。
 とりあえず受け取ったランサーはというと、珍しいものでも見るようにしてひらひらと眇める。
「アイスキャンディーですよ。まあ、アイスクリームの仲間みたいなもので」
「甘くて冷たい菓子の類いか」
 ぺりぺりと袋を向いて、アイスキャンディーの先端を口に含むランサー。性急な動作に、思わず小さな王さまは、自分が手にしているもう一本のアイスキャンディーを取り落とすところだった。

 ここのアイスキャンディーの固さは半端ではない。
 以前、遊び仲間たちとサッカーの帰りに喉を潤そうと数人で立ち寄った時、少年たちから異口同音に漏れた言葉は、
「かたい〜〜〜!!」
 と、
「歯が折れる〜〜〜!!」
 だった。実際、口にしたギルガメッシュだってそう思った。
 何とか、その場に居合わせた全員は苦戦を強いられながらスッキリとした甘みを味わうことができたのだが、各自工夫していたのが面白いとも言えた。

 だから―――ちょっと見てみたかっただけなのだ。

 先端を口に含みながら舌を這わせるのか、横向きに咥えながら柔らかくしていくのか、喉の奥まで入れて甘みを感じながらもちょっと苦しそうにげほげほやってしまうのか。

 この人はどんな風に食べるんだろう―――子供にしてはやたらと邪悪なことを考えつつも、それでも照れ隠しに俯いてしまってた小さな王さまが、期待に胸を膨らませて顔を上げてみれば……!!



 がり。
 しゃりしゃりしゃり。


「・・・!?」
 青の男の手にある棒の先端、2センチほどは既に露出してしまっていた。
 男に視線を向けたまま、思わず絶句する少年王。すると、そんな視線を受けて不思議そうに男は少年に目を向ける。
「……どーかしたか?」
「い、いえ……ランサーさん、それ……固くないです、か………?」
 呆然と唖然の間の声音で問うてくる子供に、男はいつもと変わらぬ気軽な口調で返す。
「……まー、珍しく歯ごたえのある食いモンだけどよ……」
 大して変わらねえぜ、とむしろどうしてそんなことを聞いてくるのか? というような不思議そうな表情を浮かべて金髪子供を見下ろす。

「あはははは……そうですよね、ランサーさん、昔の人ですもんねえ………」
「お前が言うな、お前が」

 ちょっとばかり哀しげな子供は、乾いた笑いを溢しながら自分の手にしたアイスキャンディーの袋をぱりぱりと毟ると、大人しく口へと運んで味わった。


 冷たく固い氷菓子は、子供の欲望を無残に打ち砕くとともに、切なくなるくらいの甘さを与える。
 まるで、慰めるかのように。



>続く

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