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子供の言い分 |
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1. 「……………………」 ねぐらの中で一人、寝袋にくるまったまま……それでも、ランサーはその双眸を開いて虚空を見つめている。 どの時代だろうと、糧を得るために人は働く。 そういった意味で、この時代に最も順応しているだろう"アイルランドの光の御子"は今日も1日の労働を終え、眠りにつこうとしていた。 日々のささやかな糧を得て、のんびりと釣り糸を垂らす生活はそれなりに楽しい。というより、「本分」意外は全て楽しみに昇華することができるのが彼の強みと言えば強みかもしれない。 そして、その本分と出会うまで自らを決して失うこともない。 そんな男がいい加減眠りの淵へ落ちようと瞼を落とした瞬間のこと、 「・・・・・・・」 紛れもない、人の気配を感じた。 それはランサーもよく知る男……いや、少年のものであることは瞬時に理解できたし、彼が自分のところにやってくる理由も大体は解っていた。すなわち、 「で、あの腐れマスターが何だって?」 「あー………またそんなこと言って」 伝書鳩ならぬ伝書小僧を律儀に務める少年の金色の頭がひょっこりと現れた。月の光が微かに差し込むだけのこの洞穴に、僅かばかりの光を受けて少年の金髪が大輪の向日葵のような輝きを放つ。 「どこで聞いてるか分かりませんよ、あの人」 「オマエが言わなきゃ漏れねえよ」 「えーと色々反論はあるんですけど………そのチクり小僧みたいに言うのは止めて下さい」 ボクだって何が哀しくてチュウカンカンリショクなんてやってるわけじゃないんですから、と大人びた子供の口から出てくる言葉は、まるで本当の子供。 覚えたてのオトナの言葉を使いたがる本当にタダの子供。 けれど、少年の形に騙されてはいけない。 英雄王ギルガメッシュの幼年体だけあって、思考回路も論理構成も只者ではない。その上、世界の全てを手に入れた、王の中の王の驕りや慢心とは未だ無縁な分、この小さな英雄王の方が「最強」かもしれないのだ。 「ええと、明日はアルバイト終了後に教会の方へ………ついでに、紅茶の茶葉が切れてるので勤め先から都合していらっしゃい、だそうです」 「………いつから、アイツは人のアルバイトシフトを把握してやがる」 苦味の強いエールでも飲んだ後であるかのように、うへー、と顔を顰めるランサー。 光源など月光以外にないこの場所だというのに、まるでそんな槍兵の表情を見たかのようにして金色の少年はぼやく。 「………本当に油断も隙もないですね、あのマスターは。ボクだって数日前に販促用の無料入場券を巻き上げられましたから」 「・・・あの身体で水に浸かってどうするよ」 女には独特の臭気がある。 もちろん、香水などの関係もあるだろうが、それでも女性特有の体臭はランサーの雄の部分をいたく惹きつけてやまない。けれど、 「確かに。その度ごとに包帯の巻きなおしですからね」 彼らのマスターであるカレン・オルテンシアの僧衣の下に、生々しい傷跡が絶えることはない。悪魔憑きの特異能力者である彼女の身体は、悪魔を顕現させるための形代に過ぎない。他でもない、当事者である彼女こそがそれを自覚しているのだ。 だから、 「ただ雰囲気を楽しむだけみたいですね。人工の浜辺と人工の太陽と―――」 「………人工の楽園、をか? ハッ、あの不感症な女が楽園とは笑わせる」 一番"楽園"なんてものの所在を信じていないだろう修道女。そんな彼女の冷たく光る淡い金色も瞳を思い出しながら、青の槍騎士は鼻でせせら笑った。 「・・・聞かなかったことにしておきます。じゃボクはこれで」 声音からランサーの表情を察しえたのだろう、それでも金色の少年は大人の態度で槍兵に挨拶をすると、その場から立ち去ろうとする。が、 「ちょっと待て」 がさ、と化学繊維の衣擦れと共に男は少年に声をかけた。 「何か?」 「お前、そのまま教会に戻るのか?」 洞穴から半歩だけ踏み出した少年だったが、奥からの声に立ち止まると、 「そうですけど? いくらボクだって公園で野宿とかは無理ですから。色々な意味で」 だから屋根のある寝床がある場所に戻る―――少年は何でもないことのように返事をする。けれど、 「いくらお前がギルガメッシュだろうと、子供が出歩く時間じゃないだろう。それに………」 などと少年を止めるランサー。けれど子供は、 「あはは、大丈夫ですよ。星を眺めながらの帰り道も悪くないですし、柔らかい寝床で休みたいですし」 などとあの英雄王の片鱗らしきものを垣間見せると、そのまま歩みを進め――― 「だから、雨が………」 「え?」 後姿に声をかけてくる男に構いもせず外に出た子供は、鼻の頭に雫が落ちる感触に目を見開いた。 「うそ………さっきまで晴れてたのに………?」 「……って、言いたかったんだけどよ」 少しばかり呆然とした少年の声に、苦笑を滲ませるとランサーは声をかけた。 「とりあえず、雨宿りくらいしていけよ」 と。 >続く |