冬木町お子様事件簿〜やっぱり最後はお約束?



「じゃ電気消すぞ」
「ああ」





 結局。
 そのまま士郎の部屋にもう一組敷いた布団が、今宵の子ランサーの寝所になった。風呂から出てパジャマ代わりの浴衣を着せられて居間に向かった子ランサーを、
「いや〜ん、子アロハくん可愛い〜〜〜v」
 とそのままお持ち帰りしそうな大河から引き離す士郎。
「ウチで面倒みたんだから、最後までウチに泊める。ほら、藤ねえ、いい加減帰らないと爺さんに怒られるぞ」
「え〜〜〜!! 士郎ってば横暴! ひどいー!!」
 ぶーぶー、と子供のようにブーイングを飛ばす大河に対して、

「姉ちゃん、オレ、兄ちゃんと男同士の話してもいいかなー」

 と、子ランサーの方が話を切り出した。
 周囲の人間が思わずきょとんとして動きを止める中、青い仔犬は猛る雌虎の袖にすがりつくようにして耳元に口唇を寄せる。引っ張られるように腰を落とした(ついでに静まる)大河に、子ランサーは何事かをこっそり耳打ちした。


「・・・・・・な?」
「う〜〜〜〜ん」


 にっこり、と百万ボルトの笑顔でダメ押しする仔犬に、雌虎は考え込むと、
「・・・わかった」
 と、渋々ながら踵を返す。ありえないほどの彼女の変化に目を丸くした周囲の面々だったが、猛獣を御した小さな子供だけは「ばいばい」と葉っぱのような手を振って見送っていた。






「そういや、さっき藤ねえに何て言ったんだ?」
 布団にもぐりこみ、天井を見上げながら士郎は傍らにいる子供に話しかけた。
「別に。オレは寝相が悪いから蹴飛ばしてもいいように兄ちゃんと一緒に寝る、って言っただけだぜ」
「うげ、寝相悪いのかオマエ」
 思わず身を離そうとした士郎だったが、
「ばーか、んなはずねえだろ………あのな、意固地になった女を説き伏せる時には、男の方がチラっとでも弱みを見せてやらねえとダメなんだよ」
「・・・・・・」
 子供の口から「女」のという生き物を語られ、思わず絶句する。
 そして、ナリは子供でも中身はアイルランドの大英雄そのままなのだということに、今更ながら気が付いた。
「あの姉ちゃんはまあ、色々と掴みどころのない女だけどな………結局、女であることには変わらねえんだしよ」
「…………何の話になってるんだ」
 どうやってあの雌虎を御したのか聞いただけなのに、いつの間にか女という生き物の話にすり替わってることに気付いた士郎が口を突っ込むと、


「だから、女を言い含めるときは正攻法だけにこだわるな、ってコト」
「・・・『男同士』の話ってのは、そのことかよ」


 おう、と打てば響くような返事。そして、
「オマエ、ガキの頃から融通が利かなかったみたいじゃねえか。やりすぎると自分を追いつめるだけだぜ………ま、何だ、そこが一本筋の入ったオマエらしさでもあるんだろうけどよ」
「・・・・・」

 子供の姿に思考が騙される。
 けれど、間違いなくこの子供はランサーだ。
 しなやかに強い槍の英雄は、エミヤシロウの内部(なか)までお見通しらしい。



「けどさ、ランサー…………」
「・・・・・」
「オレは…………」
「・・・・・」
「こういう生き方しかできないと、思う。んだ………」
「・・・・・」
「…………って、聞いてんのかよ!?」


「ZZZ〜…………」


 聞こえるのは、規則正しい寝息。
 すぴー、すぴー、とどこからでも子供のものにしか聞こえない寝息。


「あー……やっぱり、子供だよなあ………」
 ちら、と苦笑が漏れる。精神的には大人であろうとも、肉体的には子供であるらしい。
「・・・・・・」
 そんな少年の寝息をBGMに、士郎は思考を巡らせる。

 自分の在り方。
 自分の行く末。
 自分の最期。
 ………そして。



「・・・考えても仕方ないことなんだよな」
 器用でない自分にできることは、ただ毎日を誠実に過ごすことしかないというのに。
 その帰結するところに思いを馳せてみたとしても―――何も実るところなどないのだ。

「………いい加減、寝てしまおう」

 深い眠りの淵へと沈み込む。
 毎日の生活を精一杯生きていくのが今の自分にできることだから。
「アンタ、本当に英雄なんだな」
 と、寝息を立てる少年に礼代わりの一言を向けると、士郎は今度こそ瞼を落とした。







「・・・ぱい、先輩…………」
「ん…………」
「先輩、あの…………」
「ん、桜? おはよ………いった」


 い、何?―――そう言おうとして、士郎は身体を凍らせた。


「おはようございます。朝ごはんができたので呼びに来ました」
 襖の向こうから聞こえる、少女の柔らかな声。
 いつもであれば、もうそんな時間か、とか言いつつすぐに身支度に取り掛かるであろう士郎だが、今日ばかりは如何ともし難い。
「あ、そ、そうか………さ、先に食べていてくれて、構わない、から…………」
 とりあえず言葉を返すが、向こうから困惑気味の声が聞こえてくる。
「それが………カレンさんとバゼットさんがいらしていて、先輩にお話があるとかで………」
「い゛っ………!!」

 この状況で!?
 何でこんな時にっっ!!
 思わず心の中で天を仰いだ士郎。と、そこに、

「失礼、早朝から失礼します、士郎くん?」
「随分と自堕落な生活を送っているのね。もう充分に日は昇っているのだからよいでしょう?」
 と、普段の衛宮邸にない女の声が二つほど重なる。その上、
「貴方に用があってきたのですから、さっさと出ていらっしゃい。それともそこにいる子供といかがわしい事でもしているのかしら」
 などと爆弾を落とすかのような一撃が修道女の口から発せられる。
「せ、せんぱい……っ………そんなコト………!!」
「まさか、士郎くんに限って」
 フォローらしき言葉が後輩と男装の麗人から入るが、今の士郎にそれを肯定することはできないだろう。なにしろ、


「ん………………」
「…………………」


 自分の首に縋りつく形で、胸に頬を寄せるようにして抱きついている『男』がいるのだから。
 何があったのかは定かではないが、今の時点で士郎と同衾している男は、まぎれもなく「ランサー」である。
 それだけではない。
 いきなり大人の身体になっているコトで、それまで着ていた子供用の浴衣なぞ見るも無残に千切れきっている。

 つまりは、全裸。
 そう、士郎の現在の状況。それは全裸の男に抱きつかれている………あたかも、情事の後であるかのように―――その一言に尽きた。

 これはヤバい。
 色々な意味でヤバい。

「あら、ならココを開ければ全てが明らかになるのではなくて?」
 そんな士郎の心中を見透かすかのように、カレンは容赦ない一声を発すると、
「僭越ではありますが、よろしければ私がご開帳の儀を務めさせていただきます」
 と、最後の一撃とばかりに、



「失礼します―――」



 襖に手をかけた。






 その後のことは―――定かでは、ない。



・END・



………あまりにもお約束的結末です。
桜もバゼットも怒らせたら怖いというか、黒化にフラガラック(笑)。
その背後で「大変ね(くす)。駄犬は駄犬の夢を見るがいいわ」と、一人楽しそうなシスター・カレン。

そして、この度は『まなびや』のまなぶくんから素晴らしいイラストをいただきました!
使用許可をいただきましたので、第2話で使わせていただきました。
元気な子ランサーとちょっと戸惑い気味のバゼットさん………いやもう、何か幸せ………!!
まなぶくん、本当にどうもありがとうございました!



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