9. 「…………くっ……!!」 「……ん………っ!!」 それはどちらが先だったのか、終わりは唐突に訪れた。 双方の身体を白く彩る飛沫と、内に注ぎ込まれた…熱さと魔力を内包した迸りと。 髪を握る指から伝わる快感は、醒めたはずのギルガメッシュを再び道連れにしようとしていた。 プライドも何もかなぐり捨てて一心に腰を使うランサーの隙を見計らって、自らもタイミングよく腰を動かす。引いたところを突き上げてやる。すると、次第にランサーの喘ぎが鋭く短くなっていくのが手にとるように分かった。 「………っ! ………っっ!!」 途切れ途切れの喘ぎを漏らしつつ、それでも目的のために受け入れるランサーの行為はギルガメッシュの嗜虐心を申し分なく満足させる。けれど、それは平時の話だった。 金色の王にとって今必要なこと、 それはただ機械のように獣のようにランサーを犯すことだけだった。 何も感じず、何も思わず。 ただ性感刺激に対する反応だけを身の内に育てて、それを放つ。 それだけ。 髪を掴む熱い指の感触なぞ、もはや必要ない―――。 際限なく与えられる快楽は、幾度となくランサーを突き落としにかかる。緩急をつけるだの優しく触れられるだのそんなコトは一切ない。ただ絶頂へ向かって追い立てるその一点。 中の敏感な部分、外の敏感な部分共に容赦ない愛撫が、攻撃が加えられ、その度に感極まったかのような喘ぎを、吐息を漏らす。 「………………………」 いつもであれば容赦の無い言葉での攻めが加わるところだが、それはいつの間にか一言もなくなっていた。羞恥やら屈辱やら、そして頭を過ぎる贖罪という二文字はランサーの身体を肉の楔以上に攻めたてるものであるのに。けれどランサーにとってそんなことはどうでもよかった。 青い獣にとって必要であったのは、 ギルガメッシュが自らの肉の内に注ぐ魔力のみなのだから。 受け入れてしまえば自らも放つ。 膨大な魔力を受け入れる代償として自らの魔力も放つが、それでもおつりがくるくらいの魔力だ。 充分だった。 ただ優しく包み込む手の感触なぞ、もう忘れろ―――。 周囲にたゆたう湿り気を帯びた空気は、いつの間にか乾いていた。まだ幾分息の荒いランサーはギルガメッシュの髪に指を絡ませたまま、額をも金の髪に押し付けるようにして気息を整えていた。 「………退け、狗」 そんなところで、ギルガメッシュはぴちぴちと軽い音を立ててランサーの胸板を容赦なく叩く。重い息を吐き出そうとしていたランサーだったが、それをごくりと飲み込むと、 「……テメェが、鎖で………」 反論を口にするが、後が続かない。それもそのはず、縛められていた手首はいつの間にか解放されていたのだ。 そうでなくば、髪に指を絡めることなどできはしない。 「鎖で、何だ?」 「……なんでもねぇよ………」 一応追い打ちをかけるギルガメッシュを振り払うようにして身体を引くと、珍しいことにギルガメッシュはそれ以上何も言ってはこなかった。 「ん…………っんっ……!」 膝をつき、その力で繋がっている部分を離す。その拍子に、溢れた白い液体がランサーの大腿の内側を伝って零れ落ちた。 「不作法な」 見咎めたギルガメッシュは指の先でそれを掬うと、ランサーの口元へと運ぶ。 「…………」 抗わず、ランサーはそれを口にした。舌を這わせ、喉の奥へ押し込むようにして嚥下する。見上げるような姿勢でギルガメッシュはそれを見届ける。途端、英雄王の瞳にはいつもの傲慢な美しさが妖しく煌めいた。 「フ………」 意識せずにいつもの、王の笑みを見せるギルガメッシュにハッと気付くと、ランサーは軽やかな動きで身を引くと瞬時に青の鎧を纏う。既に、神速のサーヴァントとして動きをするのに何の支障も無い。 「……ほう、充分なようだな」 「……おかげさんで」 力強く地面を踏みしめて立つランサー。その手にゲイボルクは握られてはいないが、紅蓮の魔槍を手にすることも、その真の力を解放することも今のランサーにとっては造作もないことだろう。それを知った上でなのか、ギルガメッシュもすぐに立ち上がると魔力で編み上げた黄金の甲冑をその身に纏った。 「……戦闘態勢、ってワケか?」 「たわけ。王の更衣を下賎に晒すか」 現世の衣服を門の内側に叩き込むと、金色の英雄王は優雅な動きで青の獣に背を向けた。 「……これに懲りたら、言峰の命令に従うのだな……狗は狗らしく、命令を素直に聞いておるのが一番だ」 そうでなくば存在価値なぞない。 それだけを言って、ギルガメッシュは金色の軌跡を微かに残すと鮮やかに消えうせた。 「英雄王だか何だか知らねえが、キサマこそあの外道の飼い犬だろうが!!」 負け犬の遠吠えを地でいっていることなど百も承知の上で、それでもランサーは言わずにはいられなかった。痕跡をこれっぽっちも残さずに姿を消したギルガメッシュに向かって悪態をつくこと数回、いい加減ボキャブラリーも尽きたのか黙りこくったランサーはギルガメッシュが姿を消した空間をただ見つめていた。 ―――ありえない。現にあいつの手がただ優しかったことなど一度もなかったのだから――― 容赦なく自分の身体を暴き立てる手と指。ただ冷たく自分を犯していく手と指。それが、ランサーの知るギルガメッシュだった。けれど、瀕死の状態でここに入り込んだ自分を優しく包み込むようにして撫でた手の持ち主もまたギルガメッシュ以外に考えられなかった。 どこか遠くへ置き忘れてきた、安らぐ、という気持ち。それを呼び起こすような柔らかな、そして温かな手の感触。 ―――違う…違う……違う!! そんなわけがない! 絶対にありえない……! ――― それがギルガメッシュの手であることも。何よりその手に安らぐという気持ちを抱いてしまった自分も……! 助けを求めるように視線を巡らしたランサーの紅の瞳に入ってきたものは、かつての主の残した腕と血痕のみ。それを双眸に宿すと、ランサーは一度だけ固く瞼を閉じた。 「オレが……オレが欲するのは、血を沸き立たせる戦い、だけ、だ……!!」 天を仰ぎ、誓約の言葉を吐き出す。そして、そのまま青い獣は姿を消した。 新たなる戦いを求めるために。 「チ……」 ビルの屋上で、ギルガメッシュは小さく舌打ちを漏らした。それもそのはず、英雄王の玉体…その白い指先には彼の瞳の色にも劣らない鮮やかな血が一筋流れていたのだから。 「……こうまでして、あの天の獣を縛るか、女」 見えない障壁は、それを編み上げた術者と術者が特に許したもの以外を排除する力を持っていた。それは他ならぬ英雄王ですら拒絶するほどの威力を持って。 ―――脆弱な器のみしか持ち得ぬ雑種が、天の獣を縛ることなぞ赦されぬと知れ……! ――― ただ赦せなかった。神の血を持つ何よりも気高い高貴な獣が、雑種ごときにまるで操立てのような真似をすることが。そして、それをいいことに獣を縛り付ける女が。普段であればギルガメッシュとて捨てて置いていただろう。けれど、暇潰しとして戯れに手を出して弄んだ。そして今回もその一環だったはずが、思いもよらないことが起きた。 ―――あの指……我を我の知らぬところへ導こうとした指……! ――― 身体の奥が痺れるどころではない。頭の奥が痺れ、何も考えられなくなった。ただそのまま、繋ぎ合っていることに充足感を覚えた。ただそのまま、甘い痺れに身をまかせていたいと思った。 「有りえぬ……」 剣が鞘に収められるように、杯に酒が満たされるように。 力ある獣が相応しい主のもとにあるのは必定―――ただ、それだけのこと。 「天の獣…貴様が在ることを赦されるは、我が足元のみ」 声を張り上げるまでもなく、ただ宣下を下すかのようにしてギルガメッシュは呟く。そして、指を伝う雫を口にして瞑目すると、砂漠の蜃気楼のように輝ける姿を消した。 ・END・ 一応、シリアス&汁気&金槍という課題で書き始めました。ホント、ギルっちは欲しいと思ったものは容赦ないです。 我様子供レベルです(笑)。ランサーもね、あれだけ過酷な戦いの中にずーっと身を置いててよくもまあ心が萎えないよな。もっとも、それが英雄たる所以なんでしょうけど、そんな彼にちょっと弱音を吐かせてみたかった。 佐々木的にこのCPのツボは「すれ違い」「相互不理解」なので、そんな風味を味わっていただけたら嬉しいです。 >戻る >裏・小説部屋へ戻る >小説部屋へ戻る |