随分と長い間、恋人と会うどころか連絡すら取れなかった。


ヒュンケルは署から出て帰宅すべく車に乗り込むと、ようやく終わった案件を振り返りつつ携帯電話を開いた。
デジタル数字はそれほど遅く無い時間を示している。
登録している電話番号を呼び出して発信しようとボタンを押しかけて、やめた。
きっとこの時間だ、電話をして仕事が終わったなどといえばきっと飛んでくるに違いない。
遅くない時間とはいえ、それは負担になるだろう。
ただでさえ、色々と無理をさせている関係なのだ。
恋人同士という関係なだけだというのに。

幼い恋人、ポップの姿を思い浮かべて、焦がれた自分を覚えながら車を走らせる。
どうにも落ち着かなくて煙草を取り出して火をつけた。
窓を薄く開ければ、逃げていく紫煙。

ポップをこの助手席に乗せたのはいつだったろうか。
運転中のヒュンケルの口元に煙草を持って行き、火までつけたというのに煙たいと騒いでいた。
窓を開ければいいと言うと拗ねた顔で窓を開けて、口元から自分が火をつけた煙草を奪い備え付けのアシュトレイに押し付けてきた。
信号が赤になり車を止めて、本気ではないが文句を言おうと開いた口に。
重ねられた、未だ幼さを残す唇。

ヒュンケルは思い出しながら、苦笑を零す。
自分の持つもの総ての延長線上に、ポップがいる。
溺れている自分を笑いながらも、この胸を満たす甘く暖かなな感情は何にも変えがたい。

ごたついていた案件は片付いて、明日は休み。
それに事後処理が終われば、どうせまた溜まった代休だの有休だのを消化しろとお達しがくるだろう。
そうしたらポップの休みに合わせてどこかへ行こうかと考えて、会いたい焦燥をやりすごす。
だから今日は電話だけで満足しろ、と自分に言い聞かせて。

もともと意識することがあまり無い職業の上、最近は家に帰ることもままならない程で。
ヒュンケルからは今日が『金曜』であること、高校生も明日が休日であることに。
まったく気がついてなかった。



自分のマンションの部屋へとたどり着き、扉を開ける。
玄関に見慣れたスニーカー。
以前、不意打ちされてからというもの玄関は極力綺麗にしている。
と、言うことは。

来ているのか。

革靴を脱ぎ、ネクタイを緩めながら室内へと入る。
流石にこの時間では寝てはいないだろうから、会えないと思っていた恋人に会えるかと思うと自然と笑みが漏れる。
我ながら現金だと苦笑を零しながら、部屋に入るもポップの姿は無く。
しかし明かりがついているところを見ると、いることにはいるらしい。
まさかもう眠っているのかと寝室の扉を開けると、明かりの無い部屋の中、ベットの上には人型の山。
声をかけようとヒュンケルが口を開いたその瞬間。

ヒュンケル、と泣くようなか細い声で響いた自分の名前。
甘さと焦燥とがない交ぜになったような吐息。

先日の不意打ちよりももっと予想しなかった事態に、ヒュンケルは普段仕事でもあまり見せない驚愕の顔となる。
そして次の瞬間、どうしたものかとやけに冷静な頭で考え始めた。
少しの逡巡の後、これは出て行ってやるのが懸命だろうと踵を返したその時。

「も、や、だ・・・ッ」

どこか、怯えたような声に足を止められる。
横になっていたポップはいつの間にか仰向けになり、ブランケットからその姿を露にしていた。
瞳を閉じた顔はどこか苦しげなのに、染まった目元と頬、濡れた唇、そして色づいた吐息が酷く艶っぽい。
首を傾げて肩につけ自慰に没頭する姿は、きっと誰もの劣情を誘うだろう。
釦を外した学ランに、胸元を少し緩めただけのワイシャツ。
腰まで下ろされたズボンと下着。
露出している肌が少ないのにやけに淫猥だとヒュンケルは思いながら、惹かれるようにベットへと近づいてゆく。
近づけば近づくほど、月の光に照らされたポップの姿があらわになってゆく。
あらわになればなるほど、ヒュンケルの喉は干上がっていく。

いつもならばとうに達していてもおかしくないほどに張り詰めた、ポップ自身。
どこか焦ったような、吐息。
時折じれたように蠢く、腰。
ヒュンケルは自分でも分かるほどに意地の悪い笑みを浮かべ、ベットサイドへとたどり着いた。
しかしポップは気がつかない。
自身を乱暴に擦りあげて、泣き出している。
その擦り上げる手付きを見て、ヒュンケルは笑みを更に深くする。

どこまでお前は可愛いんだろうな。

ベットサイドへ腰をかけると、ベットのスプリングは思った以上に軋んだ音を立てた。
その音といきなり沈み込んだマットに、ポップはようやくヒュンケルに気がついた。
見開かれた濡れた瞳。

「随分と楽しそうだな。オレも混ぜてくれるか?」

返事を貰うつもりも無く、問いかけた。










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これまたちょっと切りまする。
前編がポプ視点なので、中篇は淫行刑事視点です。
後編はまたポプ視点かなあ。

中篇はあんまりエロくなりませんでした。
もうしわけない。




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