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 マルクク愛の劇場(?)
  scene 1 「たま○っち事件 前編」
  scene 2 「たま○っち事件 後編」
  scene 3 「ちょっとした日常編」
  scene 4 「夫婦の謎編」
  scene 5 「父の日特別編」

 

 

 ***「たま○っち事件 前編」



 オレの名前はククール、愛する旦那様と可愛い子供2人の4人家族だ。そろそろ3人目が欲しいなーなんて思ってる。
 オレたちは人も羨むラブラブ夫婦。周囲に自慢するのも厭わない。
「オレたちまだラブラブなんでv」なんて言ってみるが、隣の夫の顔は引きつっている。なんでだよ!

 さて、うちの可愛いゼシカとリュウがある日電池切れのたまごっちを持ってオレのところにやってきた。昔欲しがったので買ってやったのだが、すぐに飽きて放置していたものだ。なんとそれにもう一度電池を入れろと抜かしやがる。
 ふざけんな! 昼間お前たちが園に行ってる間世話するのは誰だと思ってるんだ! こんな時に専業主婦は困るね。家にいるからって暇なわけじゃねえんだけどな。外に仕事に出たいって言ったらマルチェロのバカに猛反対されたんだ。子供たちが小さいうちは家に居ろってよ。まあそのうち職場復帰してやるさ。オレ、前は幼稚園の先生だったんだぜ。

 オレがいい顔しないので、子供たちは父親に泣きついたらしい。あんな顔でも意外と子煩悩なのね、あの人。電池入れ替えちゃったよ…。オレが恨みがましい目で見ても知らん顔してる。子供たちは大はしゃぎ、オレはどん底まで落ち込み。あーやってられねえ。離婚してやろうか。
 そんなオレの心などつゆ知らず、ゼシカとリュウはたまごっち片手に大喜びしている。
 どうやらゼシカの方のたまごっちに赤ん坊が生まれたらしい。どうせならリアル赤ん坊作ろうぜマルチェロ。するとまたマルチェロは知らん顔している。畜生、襲ったろか!

「ねえゼシカ、赤ちゃんの名前何にしたの?」
「色々使っちゃったから思いつかないのよね」
「”やんがす”にしたら?」
「やーよ。それなら”まるちぇろ”にするわよ」

 なんとゼシカのたまごっち(くち族)は”まるちぇろ”になったらしい。ひらがな表記だとやけに可愛いなおい。
 頭が痛い。と思ったら、隣で夫も同じように頭を抱えていた。気が合う夫婦だねオレたち。

「あ! まるちぇろがうんちした!」
「まるちぇろ寝ちゃったよ」

 ………。
 いいんじゃね?
 なんだかオレは子供たちを応援したくなってきた。

「まるちぇろ進化した!」

 どんな風に!?
 進化ってまさか頭が後退したってわけじゃねえだろうな!
 思わず叫んだら、どうやら本人に聞かれていたらしく、オレは夫のラリアットを食らう羽目になった。これってDVじゃねえか?

「ねえねえククール、見て見て!」
 だからお母さんと呼べと何度も言ってるだろうが。親はどんな躾してるんだ。……あ、オレか。
「どうしたゼシカ」
 可愛い娘相手にも流し目は忘れない。後ろではマルチェロが暗黒のオーラを発しているが知るもんか。

「まるちぇろが入園したの!」

 ……!

「まるちぇろがお遊戯の時間だよ、ゼシカ」

 ………!!

 も、も、も、

 萌えっ!!


 オレはこれから喜んでたまごっちの世話をすることにした。
 わざとご飯を与えずに放置して、ひねくれているところも見てみる。ああ可愛い…。まるちぇろったら、背中なんか見せちゃってv 可哀想なのでカニを食べさせてやったら踊りながら喜んでいる。
 なんだか楽しくなってきたぞ!
 うきうきしてるオレをマルチェロが酷く嫌悪感まるだしで見ているが、気付かないふりをすることにした。
 これからもオレは”くち族 まるちぇろ 男 1歳”の世話に励むのだ。



 もしかしたら続く。 

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 ***「たま○っち事件 後編」



 長い休み(←おそらく土日連休に何かの祭日が入ったのだと思われる)に入るので、自分で世話をする。
 子供たちがそう言ってたまごっちを奪っていったのはいつのことだろうか。オレは愛するまるちぇろを取り上げられてしまい、かなり荒んでいた。
 オレが世話をしていない間に、どうやら今度はリュウのたまごっちに子供が生まれたようだ。まめ族の可愛い女の子、名前は「くくーる」。大きくなったらまるちぇろと結婚させるのだと言う。


 天国の院長、オレとマルチェロの子は本当に良く育っています(涙)


 隣でげんなりしているマルチェロにはやはり気付かないふりをして、オレはにこやかに微笑んだ。
 確かまめ族とくち族の子供はまめ族になるはず…。きっとオレたちの子は可愛いことだろう。
 オレはまるちぇろとくくーるを大切に大切に育てた。まるちぇろが学校を卒業してレストランに就職したときには、コック姿のマルチェロを想像して悶えたりもした。
 さて、そうなればくくーるは「めいどっち」にするしかないだろう。必死におしゃれを上げてまるちぇろの元に嫁ぐ日を待つ。

 子供の名前を考えることも忘れない。男の子ならオディロ、女の子ならマイエラにしようそうしよう。兄貴はどう思う?と尋ねたら途端に嫌な顔をされた。ああ、ごめん。もう兄貴じゃないんだっけ。院の時代を思い出していたらついつい昔の呼び名になってしまった。

 しかし、それからしばらくオレはたまごっちの世話を出来ない状況になってしまった。
 院長の三回忌の法要があったりして手伝いに行かねばならなかったからだ。とりあえずオレは愛するまるちぇろとくくーるの朝ご飯だけ食べさせて、後は園から戻った子供たちに任せることにした。
 子供たちのお迎えは近所の奥様、ビアンカさんがやってくれるという。いつもお世話になってます。可愛い双子のお母さんで、なかなかの美人さんなのだ。畜生、オレにマルチェロが居なかったら間違いなく口説いてたのにな!

 そんなこんなでオレが夜の9時頃クタクタになりながら家に戻ると、寿司の皿が玄関にあった。
 おい! オレの不在中に寿司なんて取って食ってるんじゃねえよ! マルチェロは「早かったな」なんて知らん顔している。オレの分はないらしい…。たまにこの男の愛が信じられなくなる。オレが法事の準備で疲れてるっていうのに、この男は容赦なく「わたしの礼服を用意しておけ」と偉そうだ。
 腹が立ったのでバギクロスをお見舞いしたら、祈りをこめて十字を切りやがった。もういい。たまごっちもゼシカもリュウも寝ちまったし、オレもこのまま寝ることにする。


 前日苛々して寝つきが悪かったせいか、翌日オレはまるちぇろとくくーるの世話を忘れて家を出てしまった。オレは焦ったが、確か半日程度なら世話しなくても病気になるくらいで済むはず。取りに戻るわけにもいかず、オレは後ろ髪を引かれながらマイエラに向かった。
 あ、そういえば兄貴の礼服出してくるの忘れてた。まあいいか今夜で。法事は明日だもんな。

 午後5時を回ったころ、明日に備えて休んでいいというのでオレはウキウキしながら家に戻った。まるちぇろとくくーるに逢うのは久しぶりだ。それに、今夜はゼシカとリュウにも夕飯を作ってやれるだろう。マルチェロ? ふん、あんな奴知るもんか。出前でも取って食ってればいいんだ!
 ビアンカさんにお礼を言ってゼシカとリュウを引き上げる。そして子供たちの持っていたたまごっちを取り上げ…もとい預かった瞬間、オレは言葉通り固まって動けなくなった。

 オレのまるちぇろが…ハゲた変なジジイになっている。
 おいおい、マルチェロだってこんなに禿げてねえぞ! 一体これはどういうことなんだ。
 ゼシカとリュウを問い詰めると、ショックを受けているオレに構わず残酷に言い放った(この辺は絶対に父親似だ!!)

「産卵期を越えるとたまごっちはこうなっちゃうのよ。知らなかったのククール」
 だからお母さんと呼べと……まあいい。今はそれどころじゃない!
「じゃあ、結婚は!? くくーるとの結婚は!?」
「しなかったわよ」
「どうして!?」
「だって仕方ないじゃない。まるちぇろはくくーるが成長するのを待ってたのよ。何度もお見合いの話が来たけど全て断って。でもなかなかくくーるに産卵期が訪れなくてね。待ってる間におじいちゃんになっちゃったってわけ」
 淡々とゼシカは言う。隣でリュウもにこにこ笑っている。
「年の差がありすぎたみたいだね。まるでどこかの夫婦みたい」



 いやあああああっ!!



 オレは頭を抱えて蹲った。まさか、まさかたまごっちでまでオレたちの年の差が障害になるとは。
 走馬灯のように流れていくのはオレとマルチェロが結婚を決めた日のこと。
 一回りも歳が違うオレたちの結婚を祝福してくれたのは院長だけだった。マルチェロ本人もその気でなかったのに、今こうしてオレが彼の妻としてこの場にいられるのは院長のアドバイスがあったからこそ。

『マルチェロとしか結婚したくない? では、既成事実でも作ってしまえばいいんじゃないかの? 思わずマルチェロが奇声を上げそうじゃが』
 院長には悪いけど、その頃「既成事実」だけは出来ていたんだけどね…。
『お前たちの子はわしにとって孫みたいなもんじゃのー。まごまごするでない、急ぐのじゃ。なんてな』
 寒い、寒いです院長! でも、おかげでオレはマルチェロと出来ちゃった婚ができました!

 そうだ、オレは最後まで絶対に諦めない男三井……違った、ククール。
 まるちぇろがハゲようとアレが使えなくなろうとも愛し続けるんだ。それでいいんですよね安西先生。

 オレの強い意志が伝わったのか、ゼシカは深く溜め息をつく。
 リュウはにこにこ笑っている。
 いつのまにか帰ってきたマルチェロは出前の天丼をみっつ頼んでいる。ちょっと! オレのは!?

「ククール、気持ちはよく分かったわ。まだ方法がないわけじゃない、絶対あなたたちを結婚させてあげる」
 その時オレはゼシカが女神に見えたね。ありがとうゼシカ、オレはお前だけの騎士になるよ。
 リュウ、天丼の海老の尻尾だけでいいから分けてくれ。あ、しいたけくれる? そう、ありがとう。お前たちは本当に良い子だな。


 そして数日後。
 院長の法事も無事に終わって一息ついたオレに、ゼシカが嬉々としてやってきた。
「ククール、喜んで! まるちぇろとくくーるに子供が出来たわ!」
 とうとう出来たか、オレたちの愛の結晶。オレは感慨深くたまごっちを見つめた。その目に飛び込んできたのは。







oyaji


 いやあああああっ!!!(二度目)



「ちょっと! 結婚したいって言ったのはククールでしょ? くくーるにもお見合いの良いお話は沢山いただいてたのよ。それなのにあんたがどうしてもまるちぇろと結婚したいっていうから…。産卵期を越えてばあさんにしたんじゃない。おじっちになったまるちぇろが結婚するのはそれしか方法がなかったのよ。恋愛結婚なんだから喜びなさいよ」

 がっくりとうな垂れるオレを冷めた瞳でゼシカは見ている。
 リュウは腹を抱えて笑っている。
 やはりいつの間にか帰ってきたマルチェロはキッチンでカップラーメンを食べている。あ、マルチェロのメシ作るの忘れてた。

 オレたちの愛の結晶は、生後1時間で酒が飲めてだじゃれが大好き、おまけにスケベと三拍子揃った「おやじっち」
 誰かさんにそっくりだ…と感心したように呟くキッチンからの声は聞こえないふりをした。つーか、オレはだじゃれ好きじゃねえ!
 でもいいや、うん…。こんなんでもまるちぇろとくくーるの子だもんな。愛情を持って育てねえと。
 オレはゼシカとリュウのたまごっちの世話を始める。おやじっち二匹、なんか泣きたくなってきた。
 【注】たまごっちでは恋愛結婚すると双子が生まれ、それが父親と母親に一匹ずつ引き取られることになっている。

 マルチェロはカップラーメンを食べ終わって、容器をオレに差し出した。スープ飲むかってことらしい。
 いつもは喜んでもらうけど(もらうのかよ!)今日は要らない…。
 落ち込んでいるオレを見て、やれやれとマルチェロは溜め息をつく。

「……子供、また作るか?」

 オレはぱっと顔を輝かせた。
 そうだな、また最初から作ればいいんじゃん!
 今度は歳の差が開いてない男の子と女の子、それが出来るまでには苦労があるかもしれないけど、きっとオレはやってみせる。
 今度はまめっち「まるちぇろ」と、めめっち「くくーる」がいいな。やっぱりマルチェロと名がつくからには賢くなくちゃ! オレだってオシャレで可愛いめめ族がぴったりじゃね?
 すっかりご機嫌になったオレはウキウキとコーヒーを淹れ始める。



 そんなオレの後ろで、頭を抱えていたマルチェロにオレは気付くことが出来なかった。
 リアル三人目の夢を逃してしまっていたことにも。



 また忘れた頃につづく。かも…




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 たまごっち豆知識(じんせーエンジョイ版)

・まめっち――かしこくて礼儀正しいらしい。
・めいどっち――お掃除とお料理が得意。お嫁さんにしたいタイプらしい。
・めめっち――おしゃれで可愛いらしい。
・おじっち――爺さん。10歳を超えるとこうなる。おときっちとしか結婚できない。
・おときっち――婆さん。上に同じ。
・おやじっち――おじっちとおときっちが恋愛結婚をすると生まれる。

・お見合い結婚――産卵期になるとおせっかいばあさんがお見合いの話を持ってくる。恋愛結婚したいなら片っ端から断るしかない。ちなみに一度見合いすると絶対に結婚させられてしまう。
・恋愛結婚――他の人が育てたたまごっちと結婚できる。しかし歳が合わなかったりすると上の話のようになる。ついでに言うが女同士でも男同士でも結婚できない(当たり前)



そして、ただのギャグに後付けで出てきた無駄設定(その1)
マルチェロとククールは同じ施設で兄弟のように(この場合兄妹なのか?)育ったらしいです。でも血は繋がってないという。ゲームと全く逆です、すみません。
でも見た目は男で考えてください(笑)更に訳が分からなくてすみません。

そしてこんなギャグからは考えられないシリアスが出来上がりました。色々捏造しまくって何だかありえないことになってます。
それでも宜しければ番外編その1「決意」をどうぞ。


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 ***「ちょっとした日常編」



 家に帰ってみれば、目の前にあるのはククールの泣き顔だった。

 正直ギクリとしたのは内緒であるし、おそらく誰にも気付かれていないだろう。自分のポーカーフェイスっぷりに拍手を贈りたい気分だ。
 私はククールの泣き顔に弱い。色々な意味で弱い。ぶっちゃけて言えばぐっとくる。はいそこ、変態とか言わない。
 あの蒼い瞳が潤むのを見るとたまらない。のだが、それは自分が泣かせた時限定だ。誰かにククールが泣かされるのは好きではない。(絶対に言わないけど)

 しかし、大体犯人はタマネギの奴だったり、くだらんドラマだったりするのでどうでもいい。今回もおそらくそんなところだろうと思っていたら、やはり似たようなものだった。
 子供たちに絵本を読んでやって感情移入したらしい。

「もう駄目、マルチェロ。オレ、無理……出来ないよ」
 ぐっとする目でぐっとくる台詞を私に投げかけてくる。ちなみに私はこいつの泣き言も嫌いではない。はいそこ、このドSとか言わない。
 ククールの手にあったのは、今日買ってきたらしい絵本。それを片手にククールは切々と訴えてくる。
「この絵本さ、すげー泣けるんだよ。途中からオレ、トラ猫をマルチェロで白猫を自分に当てはめちゃったわけ。そしたらもう駄目!」

 いつも思っていることだがあえて言わせてもらいたい。
 うちのククールはアホだ。間違いない。
 第一、その話に私たちを当てはめるには突っ込みどころが多すぎる。

 マルチェロは野良になりました。
 誰もがかっこいいマルチェロと結婚したいと考えました。
 彼に気に入られようと金品や宝石などを贈ってきたりしました
 (注)本文はこんなんじゃありません

 うん、まあこの辺りは納得できる。私は賄賂で心が動くような人間ではないが、もらえるものはありがたく頂戴する。


 そんな中美しいククールだけはマルチェロに見向きもしませんでした。
 マルチェロはククールの気を引くために何度もククールの元を訪れました


 ここがおかしい。ククールが私に見向きもしないなんて、そんなことは太陽が西から昇るほど起こり得ないことだ。ついでに私からククールを口説くなんてことも(以下略)

 私が絵本を片手にククールに指導していくと、段々ククールの顔がげんなりしていく。夫のありがたい考察を受け止める態度ではないとは思ったが、そこは許しておくことにした。私も鬼ではないし。
 とりあえず言いたいことを言って気が済んだので絵本を返し、着替えるために自室に戻る。
 すると不思議そうな顔でククールが私のスーツの裾を掴んだ。

「ねえ、そこだけ?」
「何がだ」
「突っ込むとこって、そこだけ?」
「……そこだけだ」

 嬉しそうな顔でククールは食事の支度をしに戻っていく。
 まったく泣いたり笑ったり忙しい奴だ。振り回されるこっちの身にもなってほしい。

 リビングに戻れば、子供たちが今度は自分に絵本を読めと言う。さっきククールに頼んだけど、最後まで読んでくれなかったからだそうだ。
「ねえねえ、マルチェロも泣く?」
 膝に乗せたゼシカが、にこにこ(というよりもニヤニヤという言葉のほうが相応しい気がする)しながら尋ねてくる。
 だからお父さんと呼べと何度も…。全く親はどういう躾をしてるんだ! …って私か。
 まあいい。ついでにキッチンで「マルチェロの膝はオレの!」とか叫んでるバカがいるがそれもどうでもいい。

「私は泣かないから安心しろ」
「そうなんだ。残念ー」

 本当にがっかりしたような顔でゼシカが言うので、私は本当に子供の教育を間違ったかもしれないと頭を抱えた。



 私をどうしても泣かせたければ、キッチンで醤油の瓶を倒して慌てている、単純でちょっと脳みそが足りない”あれ”をどうにかするしかないだろう。
 まあ私の方が12も年上だから、順番的には私が先のはずだ。そのはずだ。

 深く考えたくなくて、打ち消す。
 私は絵本のページをめくると、淡々と「100万回生きたねこ」を読み始めた。





 動かなくなった白猫を抱いて
 ねこははじめて泣きました。



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 ***「夫婦の謎編」



 現在午後5時。リュウとゼシカは、ビアンカの家でのんびりテレビを見ていた。
 男の子2人と女の子2人が仲良くテレビの前に座って「となりのトトロ」を見ている姿は非常に愛らしい。

 家電が鳴り、慌ててビアンカが走っていく。受話器を取り上げると、彼女は嬉しそうに花のような笑みを浮かべた。
「まあ、本当? 今日は早いのね。嬉しいわ。……ええ、気をつけてね」
 うふふ、と可愛らしく笑ってビアンカは受話器を置く。電話の相手は勿論彼女の夫、どうやら今の電話は帰るコールだったらしい。

 会話が聞こえたのだろう、ゼシカが気遣わしげな視線を送る。
「ビアンカさん、長居をしてしまってごめんなさい。本当ククールは愚図なんだから」
 6歳とは思えない怖い台詞を放つゼシカだが、ビアンカももう慣れたものだ。人差し指で彼女の額をちょんと突きながら、気にしなくていいのよ、と微笑んだ。

「いいわね、ビアンカさんのところって何時までもラブラブで。ご主人も優しいし…」
 溜め息をつきながらゼシカが言うと、ビアンカが不思議そうな表情を見せる。
「あらあら、何を言っているの。ゼシカちゃんのところのお母さんとお父さんも仲がいいじゃない」
 夫婦喧嘩の締めにメラゾーマとザラキーマを打つような奴らが?
 ゼシカは涙ながらに訴えたかったが、家の恥を晒すわけにもいかないのでやめておいた。
 トントン、とリュウが彼女の肩を叩いている。同情するような視線で、うんうんと頷かれ頭も冷えた。

「マルチェロさんとククールさんは、大恋愛の末に結婚されたんですってね」



 なんですと!?



 その時ゼシカとリュウの脳裏には、白雪姫、シンデレラ、眠りの森の美女などハッピーエンドの典型とも言える童話が……そして王子様とお姫様なマルチェロとククールが浮かんでしまったという。(当然背景には豪奢なお城と沢山の薔薇、無駄にキラキラ輝いている)

「それは……大方ククールが見た夢ってとこじゃないかしら」
「日々妄想だけで生きてるもんね」

 見事なまでの信用のなさ。ビアンカは少しククールに同情した。
 どうやらあの夫婦は「自分たちのこと」を余り子供に話さないらしい。
 子供なら両親にはいつまでもラブラブであって欲しいと望むもの。しかしながらあのふたりの愛情表現は分かりにくい、というか少々過激であるとビアンカも納得する。

「どの辺が大恋愛なのか一度聞いてみたいもんだわ。できちゃった婚で、結婚式も挙げてないのよ。あのふたりは」
 呆れ顔でゼシカ。
 すると、ビアンカがまた邪気のない笑顔で爆弾発言をかました。
「結婚式で思い出したけど、マルチェロさんったらククールさんの結婚式に乗り込んで花嫁を連れて逃げたのよね」



 は……?



 話の意味が分からず、ゼシカとリュウが目を点にさせていると、うっとりとしながらビアンカが続ける。
「ククールさんが望まない結婚をさせられそうになって……本当に素敵なお話よね」

 その時ゼシカとリュウの脳裏には、某ゲームのエンディングのように、バーンと教会の扉を開けるマルチェロが、そしてウェディングドレスを着たククールが彼と共に逃げ出す姿が浮かんだという。




 うわあ……。




 あのふたりは本当に謎が多い。多すぎる……。
 どうやらビアンカは色々と詳しい話を知っているようだ。この機会に色々尋ねてみようとふたりは目を輝かせたが。

「ゼシカ、リュウ、迎えにきたぜ!」
「お前という奴は……親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らんのか!」
「いてえ! 殴ることねえだろ!?」
「こんばんは、ビアンカさん。いつも預かっていただいてありがとうございます」
 騒々しくも夫婦仲良く?迎えに来られてしまったので、彼女たちの野望は達成されることがなかった。



気が向いたらつづく。


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 ***「父の日特別編」



 仕事を終えて家に到着したのは午後6時。
 周囲はまだ明るい。随分と陽が長くなったものだ。
 鍵を開けてリビングに入ると、ソファの上でククールが死んだように眠っている。
 子供たちはテレビの前に仲良く並んで座ってDVDを鑑賞していた。
 さすがに呆れてククールを叩き起こそうとすると、なぜか私の行動をゼシカが止める。

「寝かせてあげて」
 普段のゼシカらしくない行動に私が首を傾げると、リュウもそれに倣って首を縦に振った。
「ククール疲れてるんだ」
 そういえば、今日は幼稚園の父の日参観だった。原因がそれだとすれば、少々私としても申し訳なくなる。
 どうしても抜けられない仕事があって、行ってやることができなかったのだ。
 仕事なんだから仕方ない。子供たちもちゃんと分かってるし、来られないのはあんただけじゃないよ。そう言って笑った朝のククールを思い出す。

「今日ね、ククール凄かったのよ。父の日参観は毎年ちょっとした運動会みたいなことをしてるじゃない? 今年はね、時間が余ったから特別にクラスから10人のお父さんを選んでリレーをすることになったの。
 まずは年長さんとか年少さんとかのクラスで走ってね、1位になったところが最後に決勝をしたのよ。ククールはわたしのそら組とリュウのさくら組で走ったのね。
 それがね、凄く速かったの! ククールは誰にも負けなかったわ。それでね、年長ではそら組が1位になって、年少ではさくら組が1位になったんだ。
 でもね、どっちも決勝に残っちゃったでしょ? ククールはどちらで走るかで問題になったの。そしたらね、ククールなんて言ったと思う? どちらでも走りますって! さくら組は1番目に走って、そら組でアンカー走りますって言ったのよ!」

 瞳をきらきらさせながらゼシカが言う。
 なぜ父親のリレーに正々堂々とククールが出たのか……突っ込みたくて仕方なかったが、やめておいた。

「最初にククールが走ったから、さくら組がずっとトップだったの。そら組はビリだったんだ。でもね、アンカーでククールが走ったら、年中さんを抜かして、とうとう年少さんも追い越して1位になったの!
 先生がね、今日のMVPはゼシカちゃんのお宅ねって褒めてくれたわ」

 普段ならお調子者め……と呆れるところであったが、きっとククールは私の代わりに頑張ったのだろう。
 これは顔と運動神経だけは見事なもので、昔も運動会から帰ってくると嬉しそうに報告しに来たものだ。(私としては勉強のほうを頑張って欲しかったのだが)
 子供たちもとても喜んでいるようだし、私自身も少しホッとしたので今回ばかりは感謝してやってもいいだろう。

「みんなにも羨ましがられたのよ! ククール凄くカッコいいねって」
 キラッキラの瞳でゼシカ。
「ぼくも言われた! リュウくんのお父さんカッコいいって」
 同じく輝くような瞳でリュウ。

 子供たちはたいそう誇らしげだ。
 そうか、お父さんが褒められて良かったなリュウ。本当、いい父親参観になったようで……。



 え!? ……お父さん!?



 そこで私は今更ながら思い出した。ククールの見た目が”男”でしかないことに。
 これは身長が173センチもある上に、着痩せするたちなので胸もほとんど目立たない。脱げばそこそこではあるのだが……いや、そんなことはどうでもいい。
 年長のゼシカと同年の父兄には、あんなナリでも一応母親だと知れているだろうが(多分…)問題はリュウだ。もしかすると、ものすごい勘違いをされてしまったのではないだろうか。

「リュウ……お前、あれはお母さんだと訂正はしてこなかったのか?」
 内心青くなりながら私が問いかけると、リュウは満面の笑みでこう答える。
「どうして? 僕はククールがお父さんでも構わないよ。おかげで今日も寂しい思いをしなかったし。別にマルチェロが来てくれなかったからって何とも思ってないもん」


 思ってるだろ! 思いっきり私に対して不満をかかえてるだろう!?


「今日はお寿司が食べたいなー」
 唇に人差し指を当てながら、リュウは可愛らしく呟いた。
 その姿に邪気はない。それがかえって恐ろしい。うな垂れながら私は出前の電話をする。
 目を覚ましたククールが、私の奢りである寿司(それも特上)を見て「そんなに今日行けなかったことを気にしなくてもいいのに」と苦笑したが、これが気にせずにいられるか!


 来年からは絶対父の日参観には出よう…。
 財布の中身も寒けりゃ心も寒い。
 ククールがこっそり私の財布に万札を足しているのに気付いて、今日ばかりはククール愛してる!と叫びたくなった。

 勿論叫べなかったが。  


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2007/06/02〜2007/06/18