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 マルクク愛の劇場(?)
  scene 6 「ふたりの謎を妄想編 1」
  scene 7 「ふたりの謎を妄想編 2」
  scene 8 「ちょっと切なめ七夕特別編」
  scene 9 「父と息子の戦い編」
  scene 10 「夏の風物詩花火編」

 

 

 ***「ふたりの謎を妄想編 1」



 今日は日曜日。
 ゼシカとリュウは、ククールに公園に遊びに連れてきてもらっていた。
 ふたり仲良く砂場で山を作ったりしている。その姿は非常に可愛らしく、ほのぼのとしていて……遠くからそれを見守っていたククールは目を細めたが、実はこのふたり、大層怪しげな会話で盛り上がっていた。


「考えてみれば、あのふたりって本当に謎が多いのよね(夫婦の謎編参照)」
 考え深げにゼシカが呟く。するとリュウもそれに続いた。
「そういえばそうなんだよね。歳の差も開きすぎてるし…」
 歳の差はあまり関係ないような気がしないでもないが、どうしてもリュウはそこが気になるらしい。
「リュウ、気付いてる? ククールってさ、たまにマルチェロのことを『兄貴』って呼ぶのよ」
「うんうん、気付いてる。それでさ、その時マルチェロが凄く気まずいような顔をしてククールを制するんだよね」
 先日のたまごっち事件のときを思い出して、ふたりは頷きあう。
 あの時、マルチェロは困ったように眉を顰めてククールの名前を呼び、ククールはごめんと素直に謝罪していた。


「あのふたりが本当の兄弟ってことはないわよね。だって、そうならば結婚できるはずないもの」
「それじゃ、何でククールはマルチェロのこと兄貴って呼ぶんだろ? ついでに僕、ずっと気になってたんだけど……どうしてククールってあんな男言葉なのかな?」
「さすがはわたしの弟ね! いいところに気がついたわ。それじゃ仮説を立ててみましょう。『兄貴』って言葉でリュウは何を想像する?」
「それはやっぱり……あっち方面の人とか?」




*ここからゼシカとリュウの妄想*


---------------------


『マルチェロ兄貴、どうもこんなむさ苦しいところにすんません!』
 扉を開けて、申し訳なさそうに男が呟く。
『いや、構わんよ』
 訪ねてきた青年は、それに微笑みながら答えた。
『兄貴! 久しぶり』
 部屋の奥から銀髪の美しい子供が現れ、靴を脱ぐマルチェロに飛びついてくる。
『……もしかしてお前の娘のククールか? 大きくなったもんだな』
『今年で12になりやす。早いもんですね、うちのが死んで10年になるんすから……。思えばあいつには何も良い思いさせてやることもできませんでした。いいとこのお嬢さんだったのに、こんな俺なんかに惚れちまったせいで。
家を飛び出してククールを産んで……あっというまに逝っちまいやがった』
『………』


『兄貴! 今日はゆっくりしていけるんだろ? オレが飯作ってやるから食っていけよ!』
 少女の言葉に、マルチェロはげんなりとした表情を浮かべた。
『ククール……お前、その兄貴ってのはやめろ。それになんだ、その言葉遣いは』
『はははは! すんません。男手ひとつで育てたもんですっかりガサツになっちまいました。マルチェロ兄貴のことも俺が”兄貴”って呼ぶもんで、小さいころからそうなんですよ』
 男は大して悪びれた様子がない。ククール自身も何も応えていないようだ。
『そんなことでは嫁の貰い手がないぞ』
 呆れ顔でマルチェロが言うと、ククールがぴょこん、とその膝の上に乗ってくる。
『大丈夫! オレのことは兄貴が貰ってくれるんだもん』
『いつそんな話になったんだ』
『えー! 大きくなったら嫁に貰ってやるって言ったじゃないか』
『子供の頃の話だろうが!』
 ふたりのやり取りを見て、男は楽しそうに笑った。マルチェロが視線で「なんとかしろ」と訴えても、どこ吹く風で笑顔を浮かべている。
『兄貴が貰ってくれるんなら、俺も安心すよ。良かったなぁククール』


----------------------


「いいじゃない!」
「うんうん、いい感じ」
「でも、この幸せは長く続かないのよ」
「そう。ククールのお父さんは何かの抗争で命を落としちゃうんだよね」
 ゼシカとリュウはいい感じで盛り上がっている。


----------------------


 それから5年後、ククールの父が亡くなった。


『ククールや、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんですよ。可哀想に、ひとりになってしまったのね。でも、大丈夫。これからわたしたちと一緒に暮らしましょうね』
『娘を奪ったあの男をわしらはずっと恨んでおった。しかしククール、お前には何の罪もないからの。わたしたちの可愛い孫娘じゃ……。それでは連れていきますぞ』
 老人はククールのそばにいた背の高い男を一瞥する。
 ククールは不安そうな瞳で背の高い男……マルチェロを見つめるが、彼は黙ったままだった。
『兄貴! オレ、オレ……!』
 涙を浮かべる青い瞳から目を逸らすと、マルチェロはぽつりとひとこと言葉を漏らす。
『………。どうか、宜しくお願いいたします』
『兄貴!』


-----------------------


「残酷にも引き離されてしまうマルチェロとククール!」
「マルチェロはククールの幸せを願って、この世界から離れさせようとするんだよね!」
「しかし、ククールの悲劇は終わらなかったのよ!」
 スコップ片手にゼシカとリュウはますます盛り上がっている。


-----------------------


『おじい様、おばあ様! おれ…いえ、私は結婚なんて嫌です!』
 ククールの悲痛な叫びが周囲に響く。
 しかし、老夫婦はククールの願いを聞き入れることはなかった。
『ククール、ラグサット様は家柄もよく大変な資産家。お嫁にいけば絶対に幸せになれるわ』
『まだ私は18です!』
『もう18じゃよ。先方も高校を卒業するまで待ってくださったのだ』


 顔を見たこともない相手と無理やり結婚させられてしまうククール。
 ウエディングドレスを身に纏いながら思い出すのは、父の兄貴分であったマルチェロのことだった。


『オレ、兄貴に貰って欲しかったよ……』


 神父がククールに誓いの言葉を強要する。
 ククールがなかなか答えられずにいると、周囲はざわめき、そして。


 バタンと突然教会の扉が開いた。
 そこにいたのは、この場には不釣合いな格好をした男、マルチェロ。


『ククール。私は、約束を守る』
『兄貴……!』
『お前が今も”あの約束”を覚えており、更にそれを今も望むなら……来い!』


 ククールはラグサットの手を振り払って走り出した。
 周りの人間がマルチェロを取り押さえようとするが、彼に睨まれて足が竦み何もできない。
 そして、ふたりはそのまま教会を逃げ出したのだった。


---------------------------


「ちょっと! いいんじゃない?」
「凄いや、今までの疑問も一発で解消だよ!」


 しかし、そこで 礑とふたりは気がついた。
「でもさ、そうするとマルチェロってククールが生まれたころからそっちの世界に入ってなくちゃならなくない?」
「そういえばそうね……」
「これは、ないかも」
「ないわね」


 そしてふたりは再度考え込んだ。砂の山を見つめて動かない。
 その姿を見て、ククールは
「あの山にトンネルを掘ろうかどうか迷ってるんだろうなー。可愛いなあ」
などと、のんきにそう呟くのだった。







 妄想編その2に続く。 

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 ***「ふたりの謎を妄想編 2」



「うーん、分からないもんだわね」
 先の仮定(というより妄想)に無理があると結論を出し、ふたりの姉弟はいまだ真剣な表情をして考え込んでいた。
 ゼシカが砂の山にトンネルを掘りながら唸っている。リュウも反対側を掘りつつ首を傾げた。
「やっぱり男言葉なのはあれかな。某男装の麗人が主人公の漫画みたいに『お前は男だ! 我が家の跡取りだ』なんて父親に叫ばれたのかなー」
「ああ、オ○カルみたいにね。私もその線を考えたのよ。でも、この時代男と偽って日常生活を送るには無理がありすぎるじゃない?」
 うんうん、と頷いてリュウが続ける。
「体育とかで着替えたりするし、健康診断はどうなるんだって話だし。それに今は跡取りが男であることに意味なんて持たないような時代だしね」
 幼稚園児の割によく世間を知っている。見事なものだ。
 子供たちが何を語っているか知らずに、笑顔で見守っているククールよりは余程現実を見ている。


「マルチェロがククールの幼少時代をよく知ってるのは間違いないのよね。たまにポツリと『お前は子供のときから…』とか説教するじゃない?」
「そうするとやっぱり兄弟のように育ってきたってことで間違いないんだよね」
 頭を働かせながらも手の動きは止まることがない。この辺りはさすがにマルチェロの子供といったところか。トンネルはもうすぐ完成というところまできていた。
「……。そうだわ、リュウ。こんなのはどうかしら」
 トンネル、見事開通。良いひらめきもあって、めでたいことこの上ない。ふたりは中でがっちりと手を繋いだ。
 そして再び妄想が始まる。


---------------------


 マルチェロの家にその子供がやってきたのは、彼が高校生のときであった。
 父親が連れてきたのは5歳の女の子。美しい顔立ちをしていたが、銀色の短髪に男物の衣服……最初に見たときは男の子であろうと思ったくらいだ。
『父さん、この子は……?』
『マルチェロ、このククールはお前の妹になる子だ。どうか宜しく頼む』
 滅多に頭を下げない父が、神妙な顔でマルチェロに言う。


 少女は父の愛した女性の子であった。
 その女性は夫の暴力に悩まされ、父に相談を持ちかけたという。親身になって話を聞いているうちに、ふたりは恋愛関係になったのだった。
 父が妻を亡くしてから10年近く経つ。そのことについてマルチェロは何も言うことはなかったのだが、いくつか疑問に思うことがあった。
『話は分かりました。しかし、その女性はどうしたんですか?』
『……もう、この世にはいない』
 待婚期間が終わるのを待って、やっと籍を入れようとしていた矢先……不幸にも彼女は交通事故で亡くなったのだと父は語った。正式な夫婦にはなれなかったが、ひとり残されてしまった少女が不憫で引き取ることにしたのだ。


『こんにちは』
 マルチェロが優しい顔で少女に声をかける。
『僕はマルチェロ。君のお兄さんになるんだよ』
『お兄ちゃん…?』
『そう、お兄ちゃんだよ。君の名前は?』
『ククール……』
 父親の暴力を見て育ってきたせいか、ククールはマルチェロの父にも警戒心を見せていたらしい。初めはマルチェロに対しても不安そうな瞳を向けたが、そっと頭を撫でてやると少しだけ笑顔を見せた。
『お兄ちゃん大きいね。すごく強そう』
『うん。お兄ちゃんは強いよ。これからはククールを守ってあげるからね』
『ククールもお兄ちゃんみたいに強くなりたいな』
 そしたらお母さんを守ってあげられたのに。
 小さく呟いた台詞に、マルチェロの胸が痛む。
 渦巻く感情を押し殺して、マルチェロはククールを抱き上げた。
『ああ、ごめん。泣かないで。さあ、家の中を案内するからね…』
 ククールを左腕一本で抱いて、マルチェロは右手で家の扉を開ける。


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「ゼシカ。僕、凄く感動しちゃったよ!」
 一部どこかで聞いたことのあるような話だが、リュウにとってゼシカの話は心の琴線に触れたらしい。絵本を読んでもらう子供のように次はどうなるの!?と食いついてくる。
 弟の態度に、姉として鼻高々のゼシカ。勿論トンネルを固める作業の手も休めはしない。
「これからふたりは仲良く兄妹として生活していくのよ。時には厳しく、時には優しく。本当の兄と妹のようにね」
「ククールはお兄さんに憧れて、あんな風な言葉遣いになっちゃったわけだね」
「その通りよ。ククールの世界はマルチェロを中心に回ってたの。嫌味スキルまでマルチェロ譲りってわけよ」
 仮定(妄想)であるのに断言する。この説得力もきっと父親譲りなのであろう。(多分)
 そしてゼシカの語りは更に続く。


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 時は流れ、美しく成長していくククール。
 少女としては些かガサツであったが、黙っていれば百合の花のように可憐であった。
 その頃から、マルチェロはククールと距離を置くようになる。妹の瞳の中に、普通の兄に対して持つ感情とは異なった色を見つけたからだ。
 冗談なのか本気なのか、強引すぎるアプローチを繰り返す妹。自分たちが間違いを犯してしまう前に、マルチェロは家を出て独立しようと考えていた。
 しかし、そこで状況は一変する。


『ククールが結婚って……どういうことですか?』
『すまん……私の認識不足だった。ククールの実の父親のことを覚えているか? 彼は資産家の次男坊だったらしい。現在は兄の次に力を持つ人間になっているようだ。……そう、お前の会社の、副社長だよ』
『………!』


 一流企業のエリートコースを歩んでいたマルチェロ。彼の美しい妹は社内でも噂を呼んでおり、それをきっかけにククールは実の父親に見つかってしまったのだ。
 副社長となった男は、会社にとって利益になる人物とククールの結婚を勝手に決めてきた。自分が実の親であると。マルチェロの将来のためにも断る理由はないだろうと。
 そして。衝撃を受けるマルチェロに、ククールは諦めたように微笑んで言う。


『オレ、結婚するよ。誰と結婚しても同じだから……』


 そう、愛する人と結婚することができないのなら、誰と結婚しても同じ。それならば、マルチェロの役に立つ人間の方がいいに決まっている。
 泣きそうな顔で笑いながら、ククールはマルチェロにそう語った。


『これがオレの、兄貴への愛だよ』


 父が病に臥せっていたので、兄であるマルチェロがククールとバージンロードを歩くことになった。
 扉の向こうには、いかにもという、さえない金持ちの馬鹿息子が立っているはず。
 あんな男が、ククールの夫になる。
『……納得できん』
『兄貴? 何か言った?』
 ククールがヴェールに隠された顔をマルチェロに向けた。それを乱暴にまくって、マルチェロはククールの唇を強引に奪う。
『帰るぞ、ククール。私たちの結婚式はもう終わった』


 音楽とともに扉が開く。
 しかしそこには、花嫁の姿も、共に歩くはずの兄の姿もなかった。


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「うわーーー! 恥ずかしい、聞いてるこっちが恥ずかしい!!」
 リュウが顔を押さえながら足をバタバタさせる。ゼシカもスコップを山に叩きつけながら真っ赤になっていた。
「うるさいわよリュウ! 私だって恥ずかしいんだから!」
「何考えてるんだよマルチェロもククールも!」
「まったくだわ!」
 この場合マルチェロとククールには何の罪もないのだが、すっかり彼らのせいにされている。どこまでも不幸な夫婦である。
 当然そんなことには考えを及ぼすこともなく、ゼシカとリュウの興奮度はマックスにまで、テンションは100まで上がっていた。


 突然暴れ始めた自分の子供たちに、さすがに慌てたククールが近くに走り寄ってきた。
 いつの間にかマルチェロも公園に来ていたようだ。ククールの後をゆっくり歩きながらついてくる。
「ゼシカ、リュウ、どうした?」
 ククールが少し屈んでふたりの顔をじっと見つめた。
 その不思議そうな顔に、ゼシカは普段は絶対に聞けないだろう凄い質問を投げつけてみる。
「ねえ、ククール、マルチェロ! プロポーズの台詞ってどんなのだったの?」
「え!?」
 マルチェロとククールは同時に素っ頓狂な声を上げた。砂の山を作って遊んでいた彼女がなぜ突然こんなことを言い出すのか……ふたりが理解できなくても致し方ないことである。
 しかし、今の姉弟は空も飛べるんじゃないかというほど高揚していた。逆らっても無駄なのだ。


 キラキラとした瞳でゼシカとリュウが見つめてくる。
 ククールが困っていると、マルチェロがすっと歩みを進めた。
 ゼシカとリュウを引き寄せて、その耳に何か小声で囁く。


「………!!」


 言葉もなく、真っ赤になるリュウとゼシカ。
 凄い、このふたりは本当に凄いかもしれない。
 自分たちの予想を遥かに超える、とんでもない夫婦だった。
 満足そうな顔で、ゼシカとリュウは駆け出していく。




 不満げな表情で、ククールがマルチェロの袖を引っ張った。
「なんだよ、マルチェロ。何言ったんだよ?」
「プロポーズの言葉を教えてやっただけだが?」
 にやりと笑ってマルチェロが答えたが、ククールの不信感は消えなかった。
「はあ? オレたちプロポーズの言葉とかなかったじゃんか」
「ああ、お前にはなかったな」
「どういう意味だよ? オレには言ってないってこと?」
 ますます分からなくなって、ククールの表情は険しくなる。


「お前は、知らなくていい」
 マルチェロは立ち止まり、優しい微笑みを浮かべて後方にいたククールに手を差し出す。
 おそるおそる右手を伸ばすと、手の甲に軽く触れるだけのキスをされた。



 ―――きっと明日は雨が降るに違いない。
 ククールは照れ隠しにそんなことを考える。
 マルチェロが先程何を言ったのか、そんなことはどうでもよくなっていた。自分は本当に単純だと自覚している。
 ついでに、自分がマルチェロにベタ惚れしていることも自覚しているが。





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 ***「ちょっと切なめ七夕特別編」



 7月7日、言わずとしれた七夕の日。


 こともあろうにマルチェロとククールは朝から大喧嘩していた。
 盗み聞きをした限りでは、どうやらマルチェロが朝帰りしたみたい。ククールの目の下には隈が浮かんでいる。起きて待っていたらしい。


「携帯の電源まで切ってあったら心配するに決まってるだろ! オレ、なんかおかしいこと言ってる?」
 ククールの怒りは本物だった。いまにもバギクロスを打ちそうなくらい。
 マルチェロもこんな時くらい素直に謝ればいいのに。頑固なのか意地になってるのか知らないけど、だんまりを決め込んでいる。
「やっと帰ってきました朝でした。どこに行ってたのか聞いてみれば言いたくない? これで怒らない人間がいたら見てみたいもんだね!」
 たしかに。これは誰でも怒るわよ……。どんな気持ちでククールが一夜を過ごしたのか、私も想像に難くないわ。マルチェロにだって分からないはずないのに。


 その次の瞬間、マルチェロはククールの右腕をぐっと掴んで奥の部屋に足早に向かっていった。ククールが抗議の声を上げるけど聞きやしない。
 まさか×××でうやむやにするつもりじゃないでしょうね? 朝っぱらから勘弁してよ。
 いや、それよりも本気のバトルは家の中ではやめて欲しいわ。誰かふたりにマホトーンかけて頂戴。リュウ、まだ覚えてないの!?


 私は耳を澄まして奥の部屋の様子を伺った。
 でも、恐ろしいほど静かで、何の物音も聞こえてこない。
 ………まさかククール、マルチェロにザキでもかけたんじゃないでしょうね? 迷ったけれど、私は不安そうなリュウを連れてその部屋に向かっていく。ほら、子はかすがいって言うじゃない? 


 そこでリュウと私が目にしたのは、泣いているククールと、それを抱きしめているマルチェロの姿だった。


 ぎくりとしたけど、どうやら誤解とかは解けたみたい。マルチェロの労わるような瞳が珍しくて、リュウと私は顔を見合わせた。ここはふたりだけにしておこうとアイコンタクトしてその場を去る。



 その日一日、マルチェロとククールは殆ど離れようとしなかった。
 マルチェロが本を読んでいる隣で、ククールがお茶を飲んでいる。ククールが洗い物をしていれば、キッチンに向かってそれを手伝う。食事もふたりで作っている。ククールが買い物に行くといったときも、普段は着いていこうともしないくせに、車を出して家族全員で行った。食料品買うだけなのに。
 ククールが外に出て花の手入れをしていれば、マルチェロが庭の草取りをはじめる。その後はふたりで寄り添って昼寝まで始めたりして。とにかく一日べったりだった。
 さすがに風呂はないだろうと思ったけど……そのまさかよ。リュウはみんなでお風呂に入れて大喜びしてたけどね。
 とにかく、傍目に見てもマルチェロが優しい。そして、ククールはいつものような元気がなかった。


 まさかマルチェロ昨夜浮気でもしてきた? だから優しいとか。
 でも、そんな感じには見えないのよね。そりゃもうふたりの背景には点描かなんかが飛んでるくらい、思いっきり花を背負ってるくらい穏やかでラブラブなんだから。
 いつもはふたり勝手なことをして休日を過ごすくせに……どういう風の吹き回しかしら。本当、1年に1度あるかないかの珍しいことなのよ。
 そういえば今日七夕だったわね。まるで織姫と彦星みたい。


 ……前もこんなことあったような気がする。やっぱりこの季節だった。私が幼稚園に入ったばかりのころ。その頃何があったのかはよく思い出せないけど。







 それから数日後。私とリュウは幼稚園をお休みさせられた。
 マルチェロとククールは礼服を着て、私たちも黒いワンピースとかシャツを着させられる。何時間か車に乗って、知らないおじさんのお葬式に出た。
「ねえ、マルチェロ。誰が死んじゃったの?」
 リュウがマルチェロに尋ねると、マルチェロは優しい手つきで私たちの頭を撫でながらこう言った。
「もう少し大きくなったら……お前たちにも教える」
 それから、静かな表情でククールを見る。
 お前たちにもってことは、ククールも最近まで知らなかったってことなのかしら。


 長い銀髪を黒いリボンで束ね、黒いスーツに身を包んだククールは、真っ直ぐな蒼い瞳で「知らないおじさん」の写真を見つめていた。
 その顔に涙はなく、凛と背を伸ばして。なんていうか、すごく、綺麗だったけど……
「マルチェロ、ククールのところに行って。私とリュウは平気。近くにいるから」
 よく分からないけれど、ククールが苦しそうに見えたのよ。



 マルチェロは私に、「まだククールに言ってないことが沢山ある」と言っていた。
 それはきっと、ククールのあんな顔を見たくないからなんじゃないかしら。
「ククールはマルチェロがいれば大丈夫だよね」
 リュウが言った言葉。これがきっと真実だと私も思うわ。





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 ***「父と息子の戦い編」



 オレはいま、非常に困っている。


 リュウとゼシカが、「モンスターバトルロード」をやりたいと言うのだ。
 どうやら年少さんで軽く流行しているらしい。誰かは分からないが、スライムか何かのカードを幼稚園に持ってきたのがきっかけだったとか。そんな流れで、リュウのお友達もそれに夢中になったようだ。
 仲間に入れないリュウを気の毒に思ったのか、ゼシカもリュウの味方をしてオレに頼みこんでいるというわけだ。弟想いのいい子じゃないか。さすがはゼシカ。お前のそういうところ好きだぜ。

 しかし、問題がひとつある。
 実はあのM字ハゲ……もとい、オレの愛する夫マルチェロは、ゲーム関連を嫌っている。その件についてはオレも幼い頃から涙を呑んだものだ。いくら強請ってもゲームのハードを買ってもらえなかったことは、軽くトラウマになっている。
 アーケードゲームも例に違わず。やりたいと言っても「くだらん」の一言で終わりにされる。
 以前「おしゃれ魔女ラブandベリー」とか「ムシキング」とか流行った頃に、ゼシカやリュウから「やってみたい」と申し出があったものの、やはり首を縦には振らなかった。
 とにかく徹底している。さすがはマルチェロ……見事な意思の強さ、畏れ入るね。

「ねえ、ククール。お願いだよ、一度でいいから……」

 そんな可愛い瞳でお願いされちゃうと、オレもグラグラしちゃうんだけど。
 リュウ、お前母親口説いてどうするつもりだ? いけません、オレには愛する夫と子供が……
 って!悪乗りしすぎか。

「リュウ、諦めましょう。あんたもククールがマルチェロに怒られるの嫌でしょう?」
 宥めるようにゼシカが言うと、リュウがこくりと首を縦に振った。
「うん……。ゲームもやりたいけど、我慢する。僕、ゲームよりもククールが大事だから」



 天国の院長、オレ(とマルチェロ)の子供たちは本当によく育っています


 こんな健気な姿を見せられて、オレが黙っていられるはずがないね。
 マルチェロがなんだっていうんだ。あいつのメラゾーマやグランドクロスが怖くて奴の女房やってられるか!
 よし、やろうじゃねえか「モンスターバトルロード」。モリーめ、首を洗って待ってろよ。


 そんなわけで、オレたちは某ショッピングセンターまで足を運んだ。
 列に並ぶリュウは嬉しそうだ。
 良かったな、リュウ。悔いのないようにしっかりやるんだぞ。母さんはもしかすると無事ではいられないかもしれないけど……。そうだ、もしも生きて帰れたら一緒にハンバーグを食べに行こうな。
 大体こういう台詞をいう奴は生きて戻ってこないものだが、そんなことはこの際どうでもいい。
 どうか神様院長様法王様。リュウに素晴らしいひとときを与えてください。
 そう願いながら100円を投下するオレ。カードを取るのだ!と叫ぶモリーが鬱陶しかったが、それも今は許すことにする。

「リュウ、ほら、カードを取って」
 ゼシカに背中を押されて、リュウがカードを手に取った。
 それをオレは覗き込む。出てきたのは、なんとギガンテスのカードだった。

「やったー。ギガンテスのカードは、誰も持ってないんだ」
 リュウが両手を挙げて喜んでいる。
「良かったわね、リュウ。明日みんなに見せてあげなさいよ!」
 ゼシカも満面の笑みを浮かべていた。オレの人生、もう思い残すことはなにもない。
「ありがとうゼシカ。そしてククールもありがとう、大好き!」


 大好き!?
 大好きだってよ! 聞いたかい奥さん!
 リュウがオレを大好きって言ったよ!
 よし、今日の晩メシは張り切ってビーフシチューにしよう。


 ……オレにとっては最後の晩餐になるかもしれないけどな……。


 一気に気分が沈みこむが、それもオレがあのマルチェロを愛してしまったゆえの試練だと思って諦めた。
 え、なんだリュウ。大きくなったらククールと結婚する? そうか、ありがとう。今度生まれ変わったら一緒になろうな…。
 青いボタンだの赤いボタンだのを押してリュウがバトルロードを始めていたが、オレの心は既に遠いところに向かっていた。
 かまいたちとメラゾーマとグランドクロスのコンボをくらったら、さすがにオレも生きていないだろう。
 昔バイト代をためてPS2を内緒で買ってきたときのことが走馬灯のように思い出される。あの時はメラゾーマ+徹夜でお説教だったっけ。あれもいい思い出だ。



 放心状態で買い物を済ませ、オレは子供たちと家路についた。
 歩きながら、リュウの手にあるカードに何気なく視線を移す。そして、オレは目玉が飛び出すくらい驚いた。
 なんと、ギガンテスがスライムとスライムベスに化けているじゃないか!
 ギガンテスがサイクロプスになるなら「あ、そうか」で納得できたのだが、さすがにスライムでは系統が違いすぎる。もしかするとギガンテスってスライムとスライムベスに分裂できるのか!? とんだ裏設定だぜ。
 少々テンパりながらどういうことか問いかけると、リュウは笑顔でこう答えた。

「よそのおうちの子がね、取り替えて欲しいって言うから。僕、スライムもスライムベスも好きだからいいよって」



 え……?


 ちょっと待て! オレ、この子の育て方まずかった!? 
 100円玉2枚と1000円札取り替えてくれって言われたら取り替えそうじゃねえか!
 「僕、100円玉好きだからいいよ」って笑顔で言いそうじゃねえか!
 
 オレが口を開こうとすると、その心を察したのだろうゼシカがオレの服を引っ張った。
 無言で首を横に振る。何か事情があるらしい。

「その子ね、お父さんと一緒に来てたのよ。お父さんがお買い物している間にゲームしてたんだって。
 お母さんは?って私が聞いたら、いないって言ったの。病気で死んじゃったんだって…。
 だからね、リュウも「いいよ」って言っちゃったの。僕にはククールがいるからって」

 ―――不覚にも、ウルッときた。
 それから、ガキの頃自分が言った台詞を思い出す。
 ”お父さんもお母さんもいないけど、僕にはお兄ちゃんがいるからいい”
 あの時マルチェロは薄く笑うだけだったけど、今のオレも同じ顔しかできない。

「よし、リュウ。今度またあのお店にお買い物に行ったら、またバトルロードやろうな!」
「いいの?」
「もちろん。だって、バトルロードにはモンスターが3体いなくちゃだめだろう?」
 泣きそうになるのを必死で堪えて、オレは明るく言い放った。
 マルチェロのコンボ技を甘んじて受ける覚悟ができたオレは最強だ。


 その夜。全てを正直に語ったオレだが、マルチェロはオレにグランドクロスはおろかメラひとつ打たなかった。
 拍子抜けしたオレの視界に、落ち着いた様子でホットミルクを飲んでいるゼシカが映る。きっとゼシカが先に事情を話しておいてくれたのだろう。本当によくできた娘だ。絶対に嫁になんか出すもんかと、オレは新たに決意する。






 その日はお咎めなしだったのだが、なぜか次の日、マルチェロは眉間の皺を一層深くして帰宅した。
 かなり機嫌が悪い。どうしたの?とオレが尋ねると絶対零度の眼差しでオレを見つめる。
 ちょっと怯みそうになったが負けずに笑顔を作ってみると、マルチェロは無言でカードを一枚差し出した。

 ―――ちょっと……これって。

「わー! すごいっ!! これ、レアカードだよマルチェロ! どうしたの?」
 リュウが大喜びでそのカードを奪っていく。
 そう、それはモンスターバトルロードのカードだった。
 考えたくないけど……本当に想像もしたくないけど……もしかしてマルチェロ、リュウのためにバトルロードをやってきた?
 そのときオレの脳裏に”無表情でゲーム機の前に立つマルチェロを恐る恐る見つめている周囲の人たち”の姿が浮かんだのは言うまでもない。

 そして、オレのその想像(と恐れ)はマルチェロの次の言葉により正しいものだったと証明される。

「スライム、スライムベスときたら次はメタルスライムだろう。違うかねククール?
 あの3体が揃えば必殺技が出るというのに! それがどうだ? 【みわくの眼差し】だと!? そんなものは要らんわ、この役立たずめ」
 オレにそんなことを言われても……。そう口に出したかったが、言葉を挟む隙もない。
「あの銀髪、あの赤い服。視界に入れるのも忌々しい! なぜ私があのようなものをっ!」
 うん、そうだね。本当ごめんなさいね。よりによってそんなものを出してきちゃうあんたは本当にどうかと思うね。愛の力だよねって軽口叩く気にもならないです。色々な面であんたが凄すぎて。

 オレは玄関先で脱力し、動く気にもなれない。
 だから、リビングでなにやらリュウとマルチェロが揉めていることなど気付くはずもなかった。 




「ねえ、マルチェロ。僕さ、大きくなったらククールと結婚したいんだけど」
「できるわけないだろう…」
「そうなんだよね。まずはマルチェロと別れさせることが先なんだよね。というわけで、ククールと離婚して」
「断る」
「なんだよ! 一度結婚したんだからいいじゃないか!」
「うるさい。お前はそのカードで我慢しておけ」


 次の休日、リュウとマルチェロはふたりで”モンスターバトルロードの旅”へと向かった。今回は隣の町まで足を運ぶそうだ。
 あれから色々と調べて、戦略もばっちりらしい。いつの間にかカードも10枚に増えている。
 男同士で仲良く遊びに行くってのもいいもんだね。そうオレが呟くと、なぜか隣のゼシカが深い溜息をついていた。






-----------------
【みわくの眼差し】
確かククールのレアカードだったと思います。
うろ覚えです。
ついでにスライムとスライムベス、メタルスライムで必殺技が出るというのもうろ覚え。





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 ***「夏の風物詩花火編」



「花火に行きたい!」

 ある日曜日の朝のこと、私とリュウはマルチェロとククールに向かって「いっせーの」で叫んだ。
 マルチェロは眉間に深く皺を刻んで不快そう。ククールは困ったように眉をハの字にしている。
 今夜は地域の花火大会。去年は残念ながら雨で潰れちゃったのよ。とは言っても順延になっただけなんだけど。でも平日の夜に連れて行ってくれるはずもなく……それが理由で駄目だと言われてしまったの。
 今日は朝からいい天気。昨日の天気予報でも雨の心配は無いって良純が言ってたわ。ええ、石○良純よ。

「わざわざ混んでいる場所にいくこともない。家の二階のベランダから少しは見えるだろう」
 新聞に視線を移しながらマルチェロが言う。ひとが話をしてるってのにこの態度はどうかと思うわ。
「この前お祭りに連れていっただろ? それに、夜遊びは肌に悪いんだぜ、ゼシカ」
 ククールもマルチェロの援護をする。
 うるさいわね、私はククールみたいに肌の曲がり角を過ぎてないし、コラーゲンだってたっぷりつまってるわよ! そう言ってやったらククールがわざとらしくマルチェロの肩に縋って「うちの子があんなことを…」と泣き真似している。マルチェロはと言えば、ククールの頬に手を添えて
「大丈夫だ。お前は昔と変わらず綺麗だよ」
なんて乗りに乗っていた。いい加減にしてくれないかしらこのふたり。

「ところでククール、今月のこづかいが足りないのだが」
「はあい。いくら欲しい?」

 ……たまにククールが気の毒になるけど、まあ私には関係ないわね。


 うまく話をそらされてしまった私とリュウは、がっかりしながら子供部屋に戻った。
「それにしても……なんで花火大会には連れていってくれないんだろうね」
 リュウの言い分はもっともだわ。マルチェロとククールは、結構私たちに甘い方だと思う。どこかに行きたいと言えば(まあ滅多に言わないんだけど)遊びに連れて行ってくれるし。
 しかし絶対に花火大会だけは連れていかないのだ。いくらお願いしても駄目なのよ。
 なにか悪い思い出でもあるのかしらね。





「誰からだ?」
 受話器を置くククールに、ぽつりと一言マルチェロが問いかける。
 薄く笑ってからククールが答えた。
「ビアンカさんから。今夜の花火大会に行くけど、一緒にどうですかって」
「それで?」
「聞いてたくせに。断ったよ」
 左手で軽く自分の隣を指すマルチェロに従うように、ククールはそこに腰掛ける。

「もう何年になる…?」
 マルチェロの短い問いに、ククールもやはり短く答えた。
「20年くらい?」
「そうか」


 どうしても、とせがまれて初めて連れて行った花火の日。
 同級生数人と偶然逢ったククールは、マルチェロの元を離れて少し遊びに出た。

 そろそろ花火が始まるからと、連れ戻しにいった彼。しかし、同級生たちは首を傾げる。
『ククールなら、もうお兄さんのところに戻ったはずですよ』

 あのとき、どれほど焦ったか。
 あのとき、どれほど走ったか。
 暗い空を彩る花火に意識を向ける余裕もなく、花火が上がる音も耳障りな騒音にしか感じられなかった。

 ククールを見つけたのは30分ほど捜しまわった後のこと。
 やはり自分を捜していたのだろうククールは、半分涙目になりながら息を上げていた。


「あんときさ、オレ、マルチェロにすげー怒られると思いながら走ってた。花火上がってても見る余裕なかったもん」
 苦笑しながらククールが呟く。
 マルチェロはしばらく無言で新聞に目を通していたが、それを畳んでククールの右手に手を伸ばした。
 強く握られて、ククールはあの夜のことを思い出す。
 再会したとき、マルチェロは意外にも怒らなかった。無言で手を引かれて、美しい花火に沸く群衆のなかを逃れるように歩き続けた。
 周囲に人影がまったくなくなったころ、強く抱きしめられたのには本当に驚いたが。

「ごめん、マルチェロ。でもさ、オレ……あのときの約束はちゃんと守ってるぜ」
「約束?」
 訝しそうに、マルチェロがククールの顔を見る。
 やれやれといったように、ククールが深い溜め息をついた。
「覚えてないわけ? オレにしてみれば、プロポーズなんじゃねえかと勘違いするほど嬉しい台詞だったんだけどなぁ。
本当はマルチェロも覚えてるんだろ?」
 肯定の台詞を返してくれることに期待はしないが、一応確認しておく。

「……あの時、そんなに花火が見たかったのか?」
 素直に答えるはずはないと分かりきっていたが、やはり全く関係ない話でかわされた。先程のククールの質問に答える気はないらしい。
「うーん……それもあるけど、兄貴と一緒に居たかったっていうのが大きいかもなぁ。兄貴、大学生になってから院を出ちまったし……。何とか理由をつけて逢いたかっただけかも」 
「花火はおまけと、そう言うわけかね。ククール」
「何だっておまけだよ。兄貴に関することはさ」
 そこで、マルチェロがひとつ息をつく。

「可愛いことを言ってくれた礼に、大した価値もなく、お前にとってはおまけにしかならない……その、気の毒な花火とやらに連れて行ってやろう。リュウとゼシカにそう言ってこい。ビアンカさんへの連絡も忘れるな」
 はーいと、明るい声を上げてククールが二階に上がっていく。
 本当は花火が見たかったんじゃないのかとマルチェロは疑いたくなったが、今回は深く考えないことにした。

 今夜の花火は、きっと美しいことだろう。





  わたしが見えなくなっても、わたしを疑うな。
  お前は信じて、ただそこにいればいい。
  絶対に、わたしはお前の元に帰って来る。





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2007/07/03〜2007/08/06