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***「ふたりの謎を妄想編 2」
「うーん、分からないもんだわね」
先の仮定(というより妄想)に無理があると結論を出し、ふたりの姉弟はいまだ真剣な表情をして考え込んでいた。
ゼシカが砂の山にトンネルを掘りながら唸っている。リュウも反対側を掘りつつ首を傾げた。
「やっぱり男言葉なのはあれかな。某男装の麗人が主人公の漫画みたいに『お前は男だ! 我が家の跡取りだ』なんて父親に叫ばれたのかなー」
「ああ、オ○カルみたいにね。私もその線を考えたのよ。でも、この時代男と偽って日常生活を送るには無理がありすぎるじゃない?」
うんうん、と頷いてリュウが続ける。
「体育とかで着替えたりするし、健康診断はどうなるんだって話だし。それに今は跡取りが男であることに意味なんて持たないような時代だしね」
幼稚園児の割によく世間を知っている。見事なものだ。
子供たちが何を語っているか知らずに、笑顔で見守っているククールよりは余程現実を見ている。
「マルチェロがククールの幼少時代をよく知ってるのは間違いないのよね。たまにポツリと『お前は子供のときから…』とか説教するじゃない?」
「そうするとやっぱり兄弟のように育ってきたってことで間違いないんだよね」
頭を働かせながらも手の動きは止まることがない。この辺りはさすがにマルチェロの子供といったところか。トンネルはもうすぐ完成というところまできていた。
「……。そうだわ、リュウ。こんなのはどうかしら」
トンネル、見事開通。良いひらめきもあって、めでたいことこの上ない。ふたりは中でがっちりと手を繋いだ。
そして再び妄想が始まる。
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マルチェロの家にその子供がやってきたのは、彼が高校生のときであった。
父親が連れてきたのは5歳の女の子。美しい顔立ちをしていたが、銀色の短髪に男物の衣服……最初に見たときは男の子であろうと思ったくらいだ。
『父さん、この子は……?』
『マルチェロ、このククールはお前の妹になる子だ。どうか宜しく頼む』
滅多に頭を下げない父が、神妙な顔でマルチェロに言う。
少女は父の愛した女性の子であった。
その女性は夫の暴力に悩まされ、父に相談を持ちかけたという。親身になって話を聞いているうちに、ふたりは恋愛関係になったのだった。
父が妻を亡くしてから10年近く経つ。そのことについてマルチェロは何も言うことはなかったのだが、いくつか疑問に思うことがあった。
『話は分かりました。しかし、その女性はどうしたんですか?』
『……もう、この世にはいない』
待婚期間が終わるのを待って、やっと籍を入れようとしていた矢先……不幸にも彼女は交通事故で亡くなったのだと父は語った。正式な夫婦にはなれなかったが、ひとり残されてしまった少女が不憫で引き取ることにしたのだ。
『こんにちは』
マルチェロが優しい顔で少女に声をかける。
『僕はマルチェロ。君のお兄さんになるんだよ』
『お兄ちゃん…?』
『そう、お兄ちゃんだよ。君の名前は?』
『ククール……』
父親の暴力を見て育ってきたせいか、ククールはマルチェロの父にも警戒心を見せていたらしい。初めはマルチェロに対しても不安そうな瞳を向けたが、そっと頭を撫でてやると少しだけ笑顔を見せた。
『お兄ちゃん大きいね。すごく強そう』
『うん。お兄ちゃんは強いよ。これからはククールを守ってあげるからね』
『ククールもお兄ちゃんみたいに強くなりたいな』
そしたらお母さんを守ってあげられたのに。
小さく呟いた台詞に、マルチェロの胸が痛む。
渦巻く感情を押し殺して、マルチェロはククールを抱き上げた。
『ああ、ごめん。泣かないで。さあ、家の中を案内するからね…』
ククールを左腕一本で抱いて、マルチェロは右手で家の扉を開ける。
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「ゼシカ。僕、凄く感動しちゃったよ!」
一部どこかで聞いたことのあるような話だが、リュウにとってゼシカの話は心の琴線に触れたらしい。絵本を読んでもらう子供のように次はどうなるの!?と食いついてくる。
弟の態度に、姉として鼻高々のゼシカ。勿論トンネルを固める作業の手も休めはしない。
「これからふたりは仲良く兄妹として生活していくのよ。時には厳しく、時には優しく。本当の兄と妹のようにね」
「ククールはお兄さんに憧れて、あんな風な言葉遣いになっちゃったわけだね」
「その通りよ。ククールの世界はマルチェロを中心に回ってたの。嫌味スキルまでマルチェロ譲りってわけよ」
仮定(妄想)であるのに断言する。この説得力もきっと父親譲りなのであろう。(多分)
そしてゼシカの語りは更に続く。
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時は流れ、美しく成長していくククール。
少女としては些かガサツであったが、黙っていれば百合の花のように可憐であった。
その頃から、マルチェロはククールと距離を置くようになる。妹の瞳の中に、普通の兄に対して持つ感情とは異なった色を見つけたからだ。
冗談なのか本気なのか、強引すぎるアプローチを繰り返す妹。自分たちが間違いを犯してしまう前に、マルチェロは家を出て独立しようと考えていた。
しかし、そこで状況は一変する。
『ククールが結婚って……どういうことですか?』
『すまん……私の認識不足だった。ククールの実の父親のことを覚えているか? 彼は資産家の次男坊だったらしい。現在は兄の次に力を持つ人間になっているようだ。……そう、お前の会社の、副社長だよ』
『………!』
一流企業のエリートコースを歩んでいたマルチェロ。彼の美しい妹は社内でも噂を呼んでおり、それをきっかけにククールは実の父親に見つかってしまったのだ。
副社長となった男は、会社にとって利益になる人物とククールの結婚を勝手に決めてきた。自分が実の親であると。マルチェロの将来のためにも断る理由はないだろうと。
そして。衝撃を受けるマルチェロに、ククールは諦めたように微笑んで言う。
『オレ、結婚するよ。誰と結婚しても同じだから……』
そう、愛する人と結婚することができないのなら、誰と結婚しても同じ。それならば、マルチェロの役に立つ人間の方がいいに決まっている。
泣きそうな顔で笑いながら、ククールはマルチェロにそう語った。
『これがオレの、兄貴への愛だよ』
父が病に臥せっていたので、兄であるマルチェロがククールとバージンロードを歩くことになった。
扉の向こうには、いかにもという、さえない金持ちの馬鹿息子が立っているはず。
あんな男が、ククールの夫になる。
『……納得できん』
『兄貴? 何か言った?』
ククールがヴェールに隠された顔をマルチェロに向けた。それを乱暴にまくって、マルチェロはククールの唇を強引に奪う。
『帰るぞ、ククール。私たちの結婚式はもう終わった』
音楽とともに扉が開く。
しかしそこには、花嫁の姿も、共に歩くはずの兄の姿もなかった。
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「うわーーー! 恥ずかしい、聞いてるこっちが恥ずかしい!!」
リュウが顔を押さえながら足をバタバタさせる。ゼシカもスコップを山に叩きつけながら真っ赤になっていた。
「うるさいわよリュウ! 私だって恥ずかしいんだから!」
「何考えてるんだよマルチェロもククールも!」
「まったくだわ!」
この場合マルチェロとククールには何の罪もないのだが、すっかり彼らのせいにされている。どこまでも不幸な夫婦である。
当然そんなことには考えを及ぼすこともなく、ゼシカとリュウの興奮度はマックスにまで、テンションは100まで上がっていた。
突然暴れ始めた自分の子供たちに、さすがに慌てたククールが近くに走り寄ってきた。
いつの間にかマルチェロも公園に来ていたようだ。ククールの後をゆっくり歩きながらついてくる。
「ゼシカ、リュウ、どうした?」
ククールが少し屈んでふたりの顔をじっと見つめた。
その不思議そうな顔に、ゼシカは普段は絶対に聞けないだろう凄い質問を投げつけてみる。
「ねえ、ククール、マルチェロ! プロポーズの台詞ってどんなのだったの?」
「え!?」
マルチェロとククールは同時に素っ頓狂な声を上げた。砂の山を作って遊んでいた彼女がなぜ突然こんなことを言い出すのか……ふたりが理解できなくても致し方ないことである。
しかし、今の姉弟は空も飛べるんじゃないかというほど高揚していた。逆らっても無駄なのだ。
キラキラとした瞳でゼシカとリュウが見つめてくる。
ククールが困っていると、マルチェロがすっと歩みを進めた。
ゼシカとリュウを引き寄せて、その耳に何か小声で囁く。
「………!!」
言葉もなく、真っ赤になるリュウとゼシカ。
凄い、このふたりは本当に凄いかもしれない。
自分たちの予想を遥かに超える、とんでもない夫婦だった。
満足そうな顔で、ゼシカとリュウは駆け出していく。
不満げな表情で、ククールがマルチェロの袖を引っ張った。
「なんだよ、マルチェロ。何言ったんだよ?」
「プロポーズの言葉を教えてやっただけだが?」
にやりと笑ってマルチェロが答えたが、ククールの不信感は消えなかった。
「はあ? オレたちプロポーズの言葉とかなかったじゃんか」
「ああ、お前にはなかったな」
「どういう意味だよ? オレには言ってないってこと?」
ますます分からなくなって、ククールの表情は険しくなる。
「お前は、知らなくていい」
マルチェロは立ち止まり、優しい微笑みを浮かべて後方にいたククールに手を差し出す。
おそるおそる右手を伸ばすと、手の甲に軽く触れるだけのキスをされた。
―――きっと明日は雨が降るに違いない。
ククールは照れ隠しにそんなことを考える。
マルチェロが先程何を言ったのか、そんなことはどうでもよくなっていた。自分は本当に単純だと自覚している。
ついでに、自分がマルチェロにベタ惚れしていることも自覚しているが。
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