解放 -3-

 

 

「私は定住先というか潜伏先……旅をするに当たっての拠点を探しています。それをトロデーン城下に、と考えています」
 真っ直ぐな瞳で、マルチェロはリュウに告げる。
 だが、それもリュウにとっては彼に対する不信感を生じさせるだけであった。
「何故トロデーンなんですか? そういう場所なら他にもあるはずでしょう」
「その通りです。しかしなるべく私は誰の目にもつきたくない。そんな場所は中々ないものです。あなたのようにルーラが使えるなら良いのですが。利便を考えるとどうしても街に近い方がいい」
 普通の街に身を潜めているつもりでも、他の住人などの目は避けられないものだ。その存在が謎めいていればいるほど噂にもなりやすい。マルチェロが言いたいのはそういうことだろうとリュウは思った。
「確かにトロデーン次期王の僕ならそんな場所を見つけられるかもしれません。でも、ひとつだけ僕はあなたに聞きたいことがある。そうまでして逃げたいのはククールからですか?」
「否定はしません。トロデーンを選んだ理由は幾つかありますが、それも理由のひとつですから。灯台下暗し、まさか私が勇者のひとりであるあなたの城の近くにいるとは思わないでしょう」
「……!」
 その言葉で、リュウは珍しく激昂した。
 どうして、そこまで? なぜこの男は自分の異母弟を頑なに拒否しようとするのか。
「あなたは……そんなにククールが憎いんですか…!」
 感情を押し殺したような声。普段穏やかなリュウの厳しい瞳は見る者を畏怖させる。さすがにマルチェロは怯まなかったが、それでもやはり「世界を救った勇者だけのことはある」と感心せざるを得ない。

「誤解があるようですが、私はククールを憎んではいません」
 マルチェロの静かな声。冷静すぎる態度に苛立ちを隠せない。ついリュウの言葉に棘が混じる。
「それなら何故、彼に逢おうとしないんですか?」
「あれは私に執着しすぎている。―――弟は…解放されるべきだと考えます」
「無責任すぎませんか? あなたは散々ククールを詰り、貶めていた。その全てを彼に忘れてしまえと?」
「私を憎んでいるのなら構わない。地獄の果てまで追ってくればよいと思っている。しかし、あれは違う。あなたも知っているはずだ……弟は私に対して全責任を負う覚悟でいる。全てが自分の所為だとでも言うように」

 その言葉にリュウは何も答えられなかった。
 マルチェロの言葉は正しい。しかし、ククールをそうした原因はマルチェロなのではないか。ならば、マルチェロ自身もククールに対して責任を負う必要もあるのではないか。
 全てククールの望むように―――そう考えることは無理なのだろうか。

「私は一度死んだ人間だ。もう私に囚われることはない、自分の道を進み、自分の幸せを見付けてくれればいいと思っている。それが…私の一番の願いだ」

 ―――なにを、馬鹿なことを。
 遠くを見つめながら語るマルチェロを、リュウはククールの代わりに殴りたいと思った。この男は根本的に間違っている。そう、間違っているのだ。

「あなたは生きているじゃないですか」

 誰が生かしたのか、忘れたとは言わせない。
 何のために生かしたのか、分からないとは言わせない。

「あなたはククールを忘れない。自分が彼に為してきたことも、総じて忘れることはない。だからこそこうして生きている。それなのに、ククールには忘れてしまえと言うんですか? それは、弟に死ねと言うことと同じことです」

 ―――ククールに生きて欲しい、とは思わないんですか?

 

 

 

 

 

←戻る
2に戻る 進む→

 



2007/06/03