青年に事実を聞かされてから半月が経ったが、あの日から少年が彼の姿を見る事は無かった。
 今日も“仕事(事実を知らされたとしても、客がいないと成り立たない商売なので異常な安さの料金を維持せざるを得なかった)”を済ませて宿から出た際に軽く周りを見回し、お目当ての人物を探してみたが矢張り見付からない。配属でも変わったのだろうか。だが、彼は配属が変わっても空いた時間を見て此処に来るような人物であろう。……まさか………。少年の顔に不安の色が過ぎる。死んだ……?確かに帝国兵は生と死の境で生きているような存在だ。そして、少年の父親も…。
「………」
其処まで考えた瞬間に少年は慌てて激しく首を振り、全てを振り切るかのように走り出した。
 ひたすら走り続けていた少年の顔がハッと上に上げられ、足が急停止する。僅かに身体を滑らせながらキョロキョロと首を動かし、耳を澄ませる。今、確かに誰かの悲鳴が聞こえた。この裏街では珍しくない事だけれども。
「誰か助けてぇーっ!!」
今度はハッキリと聞こえた。その声の主が少女である事が分かる位にハッキリと。周りを見ると通行人が数人いたが誰一人として歩みを止めようとはしなかった。その行動が彼らの心の中を表現している。関わり合うのはゴメンだ。あの声の主は運が悪かったんだ。
「………………」
少年は無意識に拳を握った。とっくの昔に捨てた筈の正義感が僅かながら心の隅に残されていたらしい。小さな正義感が瞬く間に膨張して少年の心を、身体を動かす。助けないと…俺が助けないと…!!さっきの声を頼りに少年は薄暗い裏通りへ飛び込むように駆けて行った。

「騒ぐんじゃねぇっ!誰か来たらどうするんだ!!」
「ぅんっ……んーっ!!」
見るからに野蛮そうな男達に囲まれ、口を手で塞がれた幼い少女の瞳から大粒の涙が零れ出た。抵抗するかのようにジタバタと動かしていた足も押さえ付けられ、男達のシナリオ通りに事が運んでいく。
「……さて、と。誰から行くんだ?」
「そうだなぁ……っ!?」
ニヤニヤしながら顎を撫でていた男の目が飛び出んばかりに丸くなり、そのまま砂利道に倒れ込む。グッタリと気絶した男の背後には冷たい瞳の赤毛の少年。
「……カキアじゃねぇか…。どう言うつもりだ?」
少女から手を離しながら怒りで顔を歪めた男にカキアと呼ばれた少年は嘲笑めいた笑顔を見せ、体術の構えを取った。
「どう言うつもりかって?こう言うつもりだよ」

 薄暗い裏通りの突き当たり。呻きながら倒れている男達に背を向けて、小さく蹲っている少女に駆け寄る。
「大丈夫か?」
しゃがみ込んで服や顔に付いた埃を手で払いながら、極力優しい声色で声をかけると少女は僅かに身体を震わせながらもコクリと頷いた。よく見ると、まだ幼女と呼んでもおかしくない位の幼さがあった。アイツら、こんな小さな子を襲ったのかよ。ロリコンめ。
「ったく……どうしてこんな所に来たんだよ。此処は見ての通り腐れきってる。お前みたいな子供がフラフラしてたら襲われない方がおかしいんだ」
「…うん……でも、お母さんが…」
「…お前の母さんがどうしたってんだ?」
「私のお母さん、倒れちゃって。でも、私のおうちお金ないから、どうすればいいのかわかんなくて…」
「それで、金を求めて此処に来たって言うのか?…いや、どうすれば良いのか分かんなくなってフラフラしてたら此処に来た…ってのが正解かもな」
俯きながら、消え入りそうな声で話す少女を複雑な目で見る。……この子も…俺と似たようなものかも知れねぇな。
 気が付けばポケットに手を突っ込み、数枚の紙幣を取り出していた。それはさっきの“稼ぎ”であり、これから数日の食事代と宿代が含まれていた。だが、金はまた稼げば良い。目の前の少女よりも自分の方が金を稼ぐ術を持っている。だから、少年は紙幣を少女の小さな手に握らせていた。
「…………………?」
紙幣を握ったままきょとんとする少女の細い肩を掴み、少年は諭すように言った。
「その金を持って、早くアバロン市街に戻るんだ。そして、2度と此処には近寄らない事。……良いな?」
「…でも、このお金…お兄ちゃんの…」
「良いんだ、俺の事は。それで何か美味しい物でも食わせてやりな」
「……………うんっ、有難う!」
少女の沈んだ顔が一転して、輝く笑顔を見せた時、少年も自分の顔が笑顔に変わるのを感じた。誰にも見せた事が無い、何処かあどけなく優しい笑顔。キラキラ光る目の少女の頭を撫でようと手を伸ばした瞬間、ドンッと鈍い音が右の肩の辺りで響いたかと思うと、笑顔が一瞬にして苦悶の表情に変わった。熱を感じる右肩には鋭利な銀色が突き刺さっており、熱い鮮血が腕を伝って地面にポタポタと落ちて行っている。
「きゃああぁぁっ!!!」
少女の悲鳴が響く中、右肩を押さえた少年が振り向くとさっき倒した筈の男達が自分の背後に立っていた。
「…な……何故………」
呻く少年を見下ろしながら男達が笑い声を上げる。その中の一人が手の平を天に向け小さく何かを唱えたかと思うと、宙に浮いた水が音を立てて現れた。
「こう言う事だ。俺の回復術さえ使えば気を失ってても一瞬で復活出来る」
手の平の水をパシュッと消しながら追い詰めるかのように二人に近寄る。ガタガタと震え、涙を流しながら自分の服を掴んで来る少女を見た少年は男達を見上げ、努めて冷静な声を出した。
「なぁ。このガキは許してやってくれねぇか?まだ小さいから反応もアレだと思うぜ?」
「そんなの、お前の知ったこっちゃねぇだろ?考えてみればお前が邪魔しなかったら、とっくの昔にそのガキをヤッてたんだぜ?」
「……ひっく………ぇくっ……」
男達の言葉の意味が分かったのか激しく泣きじゃくりだした少女の耳元に大丈夫だから、と囁きながら少年は一瞬俯き、即座に顔を上げて男達の顔を見回しハッキリと言った。
「…じゃあ、俺がこのガキの代わりになる。それじゃ駄目か?」
「…………え?」
予想外の言葉に目を丸くする相手に向かって少年は言葉を続ける。自分に縋り付いて泣く幼い少女の為に。
「…俺がお前らの相手になる。…金は取らないし……何でも言う事を聞く。だから、このガキだけは許してやって欲しいんだ」
その台詞に男達は欲望で顔を醜く歪め、視線を送りあって会話を始めた。その目の動きからして全員の意見はアッサリと纏まったようだった。
「ふぅん?何でも言う事を聞くんだな?」
「あぁ。約束する。このガキを解放するんなら」
「……よし、じゃあ、さっさとそのガキは何処かにやりな」
裏通りの出口の辺りに向かって顎をしゃくると少年は安堵の溜め息をつき、少女の方に顔を向けた。
「お前は許して貰えるらしい。早く此処から逃げるんだ」
「…えっ…で、でも……お兄ちゃんは…どうなる………」
「良いから早く逃げろ!!」
戸惑いの声を叫びで掻き消すと少女は涙で濡れた目を丸くした。そのまま動けない状態の小さな体の背中をそっと押し、去るように促しながら顔を覗き込み、瞳で少女に訴えかける。大丈夫、俺の事は心配するな。だから早く逃げろ。お前が逃げない事が一番心配なんだ。
「……………………………」
涙をポロポロと流しながら逃げ去った少女の背中を見送ると、男達は突き当たりの壁にもたれかかった状態の少年に近付いた。
「じゃ、早速始めるか?」
「……………あぁ…」
肩から流れ出る血で手や壁を濡らしながら、少年は青い顔で頷いた。

「悪いが、怪我の治療は後にさせて貰うぜ。治した途端に抵抗されたらたまんねぇからな」
くそっ…だから、利き腕にナイフを刺しやがったのか…!内心で憎々しげに舌打ちをする少年だったが、相手の方はそれに気付く筈も無く、ニヤニヤと目の前の少年でどう“遊ぼう”かと考えているようだった。
「とりあえずは服を脱がねぇと始まらねぇよなぁ?」
言うや否や、少年の背中に手をやり地面にうつ伏せになるように押し付ける。頬の辺りを擦った痛みに顔を歪めながらも、その顔色は衣服のずれる音が聞こえると共に青から赤へと変わっていった。これからの陵辱に目を硬く瞑り、くぅ…と小さく呻いていると突如両手首を掴まれ、ギリッと言う締め付けるような音がした。
「……あっ………」
その痛みに目を開いた少年の顔が強張る。既に肩をやられて抵抗もままならない状態であるにも関わらず、少年の両手首は麻縄で硬く固定されていた。表情を強張らせながらもキッと睨み付けて来る少年に男達はヒュゥとわざとらしい口笛を吹いた。
「言っとくが…何でも言う事を聞く、と言ったのはお前なんだからな。俺達を恨むのは止めて欲しいなぁ。ま、お前は一回入れちまえば喜び始める発情野郎だから構わねぇよな」
「…くそっ……好き勝手言いやがって………!!」
「事実だから仕方がねぇだろ?…嫌なら良いんだぜ。今からさっきのガキ探して捕まえて来るんならお前は帰してやるさ」
「……!!」
憎しみの表情が一瞬にして愕然となる。あの子を捕まえて来れば俺を解放する?…ふざけんな、あんな小さな子をコイツラに捧げる位なら完全に汚れちまってる俺が汚されてやるさ。
「…………分かったよ。もう抵抗はしねぇ。…で、どうすれば良いんだ?」
小さく溜め息をつきながら男達に視線をやると、その中でも年嵩の男が近付きニヤリと笑みを浮かべながら、うつ伏せのままの少年の背中に手を押し当てた。
「そうだなぁ…。折角だから、ちょっとおねだりして貰うか。そのまま尻を上げて自分の指で広げてみな」
「……えっ…そ、そんなの…」
思わず顔を上げ、動揺した表情を見せる少年を見下ろしながら男は威圧するような声で押さえ付ける。
「“出来る訳無い”…とは言わせねぇぜ。約束なんだからな」
“約束”……その言葉が少年を拘束し、拒否権を奪う。うつ伏せのまま視線を落とし、縄で手首を固定された両手を腹の下に通しながら腰を浮かせる。そして緊張からか小刻みに震える指で欲望の対象である蕾をぐいっと左右に広げると、さっきの“仕事”で注ぎ込まれた精の残りが滲み出ており、まるで男を求めているかのようにじっとりと蕾を白く湿らせていた。
「ハハハハッ…お前、まさかこう言う展開になる事を期待してたんじゃねぇの?もう湿らせてるじゃねぇか」
男の笑い声と台詞が少年の胸に突き刺さる。屈辱と羞恥、緊張、恐怖、そしてこれから行われる陵辱によって得られるかも知れない快感への淡い期待…それらの複雑な感情が絡み合い、涙となって少年の瞳も湿らせる。頬も染まり、高く掲げた下半身のお目当ての場所は湿り気を帯びて男を受け入れる準備を整えている。要望通りの“おねだり”のポーズに男達は欲望を掻き立てられ、生唾を飲み込み、だらしなく口の中から溢れ出る涎を拭った。

「んっ……あっ…はぁっ…………」
細く、薄暗い路地の突き当たりに少年の荒い息遣いと肉の擦れる音が響く。男を求めるように腰を高々と掲げた体勢のまま繰り返される陵辱。その体勢により顔を地面に密着していたので腰を揺すられる度に地面の砂利が横を向いている少年の頬の皮を容赦なく破り、肉を抉った。肩からも頬からも血は流れ、地面を赤く染めて行く。それでも、男達は躊躇なく少年の身体を貪っていた。
「思ったより良い声で鳴くじゃねぇか。その調子でもっと俺達を満足させてくれよ」
「…やっ………やだっ…誰か………助けて……」
羞恥や屈辱、各箇所の痛みの余り、思わず本音を漏らしてしまった少年の声に男は器用に片眉を上げた。
「こんな所で助けを呼んだって誰も来やしねぇよ。…お前もそれは分かってるだろ?……何なら、公園にでも行くか?絶対“参加者”が増えるだけで助ける奴なんていないと思うけどな」
「………そ、そん……な………」
喘ぎながらも少年はその通りだと思っていた。さっきの少女の時も誰一人として関わろうとはしなかった。そして、今こうして自分が陵辱されている間にも通行人の視線を感じ、声を聞いた。だが、それは自分を助けようとする意思等感じられない好奇心や嘲りの視線。笑い声と共に聞こえて来た台詞。
「何だ?今日は宿じゃなくて外でお楽しみか?」
「今度、俺の方の相手も頼むぜ」
誰も自分の事を人間として見ていないのだ。裏市街で商売している野良犬以下の……性処理用の道具。その程度にしか見ていないのだろう。
「何ボンヤリしてるんだよ。ほら、1回目出すぞ」
「!!……ひあっ……!やっ………あぁあっ…!!」
考え事をしている間に激しく何度も突き上げられたかと思うと、身体の中に熱が注ぎ込まれた。広げる形を維持したままの指を伝う生暖かい液体の感触に泣きじゃくる少年の身体が不意に抱え上げられ、胡座をかいた状態の男の上に座らされる。頬を涙で濡らしながら不安そうに男の顔を見た瞬間、他の男が少年の両足首を掴んで左右に大きく広げ、陵辱によって散らされた箇所を観察した。
「あーあ。お前少しは手加減してやれよ。泡立ってるじゃねぇか」
「仕方ねぇだろ?そいつが締め付けてくるんだからよ。やっぱり、身売りしてるだけあってやらしい身体してやがる」
「……み、見るなよ…馬鹿っ………!!」
はぁはぁと荒い呼吸をしながら涙目で辛うじて睨むが、血塗れの頬は上気し、男と一緒に達する事が出来なかった本体と白く泡立った蕾は次の相手を求めて小さく震えている。それを目ざとく見つけた男達の一人がニヤリと顔を歪め、少年の後ろを指で軽く突いた。
「そんな事言って…もっと欲しいんだろ?」
「欲しく……なんかっ………!!い…嫌だあああぁっっ!!」
第2の陵辱の始まりを続ける侵入音と悲鳴が轟くが、矢張り助け等来なかった。
「…あ……ぁんっ………あぁっ……」
「へへっ……ホントに良い締め付けだな。最高だ…」
耳を塞ぎたくなる水音を聞きながら、新たな涙が頬を濡らす。腰を打ち付けられながら体位を変えられ、獣のように犯されていく。頭を押さえ付けられ、さっきと同じように頬を地面に擦り付けられながら、だらしなく開いた口に別の男が捻じり込んで来る。
「ぅんっ……うぐっ………!!」
腰を義理程度に振り返し、拙い奉仕をしながら少年は心の中で叫ぶ。助けて。誰か助けて……。誰か………ワレン……ワレンシュタイン……。
「助…けて……ワレン…………助けてぇ……」
口から逸物が僅かに離れた隙にうっすらと瞳を開け、瞳から涙を流しながら心の叫びを口に出すが、それは近くにいる男達でさえも聞き取れない弱々しい声であり、陵辱が作り出す音に呆気なく掻き消されたのだった。

 裏市街では比較的広い通りで鳶色髪の青年は巨大な剣を鞘に戻した。ついさっき、麻薬の密売者を縄に掛けた所だ。全く……半月ばかり離れとったけど変わらへんなぁ、此処は。段々規制が厳しくなって来とる、つまり捕まる奴が増えるから俺の仕事もその分増えるばっかやで。給料歩合制にならへんやろか。内心で不平を漏らしながら煙草を口に咥えようとした時、クイクイとマントを引っ張られているような感触を覚えた。
「……うん?」
視線を後ろに向けると、この裏市街では場違いなまでに幼い少女が涙を流しながら自分のマントを掴んでいる。迷子かいな。せやけど危ないでぇ。ちっこい女の子が一人で歩いとったら。少女の方に身体を向けながらしゃがみ込み、笑顔を見せて頭を撫でる。
「どないしたんや、可愛いお嬢ちゃん。母ちゃんと離れてもうたんかな?」
その人懐っこい笑顔に気が緩んでしまったかのように少女の目から大粒の涙がポロポロ零れ出し、そのまま青年の胸に飛び込んで大声で泣き叫び始めた。その反応にギョッとした青年は慌てて煙草を箱に戻し、少女を抱き締めて背中を軽く叩いた。
「……兵隊さん…お願い!助けて……!!お兄ちゃんがぁ……!!」
「兄ちゃんがどうかしたんか?落ち着いて話してみぃや」
「ひっく………私の代わりに…お兄ちゃんが……」
「兄ちゃんって誰やねん。お嬢ちゃんの兄ちゃんかいな?」
背中を擦りながら宥めるように問う青年に少女は激しく首を振った。
「…真っ赤な髪のお兄ちゃんでね、私を助けてくれたの……」
「真っ赤な髪!?」
目を丸くして素っ頓狂な声を上げる青年を見ながら少女はコクリと頷き、付け加えた。
「確か……“カキア”って呼ばれてた」